RIKI

9741

~mission.不二山を救出せよ~

 ここは、ヒーロー達の秘密基地の総司令室。

 今まさに、ビービー、と基地中に警報が鳴り響いた。


「司令! TO京に未確認物体が出現しました!」

「モニターに出せ」


 司令官に命令され、隊員はコンピュータを操作して中央ディスプレイに映像を映し出す。

 モニターに映し出されたのは、巨大な黒い球だった。


「なんだこれは……怪人か?」


 周りの建物と比較するに、その球体の大きさは直径一キロといったところか。


「いえ、この球体から生命反応は感知できません。……あ、大変です! 球体が動き出しました!!」


 モニター内の黒球がゴロゴロと動き出したのだ。

 しかもただ動き出しただけではない。


「司令! この球、周囲の人や建物を巻き込んで、どんどん大きくなっていきます!」


 まるで掃除用の粘着クリーナーのように、人や物を表面に貼り付けていく黒球。

 TO京ツリー、スカイタワー、その観光客、近隣住民。それら全てを球体は巻き込んでいった。


「あぁ! たった今不二山とコメリカ大使館が取り込まれました!!」

「馬鹿な! 明日はコメリカの大使殿がお見えになるのだぞ!?」

「ど、どうしましょう。大使殿は不二山観光を楽しみにしているのに……もし、大使殿の機嫌を損ねたら、国際問題ですよ……!」


 司令官と隊員の脳内に、怒ったコメリカ大使とそれを宥める日本首相のイメージが浮かび上がる。






「Oh、不二山ヲ見ニ、ワザワザコンナ田舎国マデ来テヤッタノニ、不二山モ大使館モ無イナンテ、Meヲ馬鹿ニシテイルノデスCA?」

「い、いえ。決してそのようなことは……」

「モウイイDEATH。不二山ノ無イじゃぱんナド存在スル意味ナイNE。ミサイルデ木ッ端微塵ニシテヤルYO」


 発射される無数のミサイル。燃え上がる島国日本。






「……」

「……」


 司令官と隊員の顔から、汗が滝のように流れる。


「第一種警戒態勢! 直ちに五人のヒーロー達を招集せよ!」

「了解っ!」


 隊員は光の速さで、緊急メールをヒーロー達に送った。


 




 とある町外れのダーツバーにて。

「……『至急基地に集合?』……了解」

 コードネーム、射的屋。能力、指からレーザー光線を出せる。少しチャラいスナイパー。

 彼は最後の一本の矢を的の中央に命中させ、基地へと向かった。



 とある高級マンションの一室。

「え~、せっかく綺麗にしたのになぁ」

 コードネーム、風呂屋。能力はH2Oを発生させられる。花も恥らう乙女だが恋人がいないのが悩み。

 彼女は急いで髪をドライヤーで乾かし、身だしなみを整えて玄関を出た。



 とある一軒やの庭にて。盆栽の手入れをする老人が一人。

「ふぇっふぇっふぇ、今日の敵さんはどんなやつかのぉ」

 コードネーム、植木屋。植物を司る能力者。初老だけどまだまだ現役ヒーローのおじいさん。



 とある高級マンションの一室、というか風呂屋の隣の部屋のベランダ。

「第一種警戒態勢、ですか。ということは、あのメタボも来るのでしょうね」

 コードネーム、運び屋。本名ヒカリ。テレポーター。地上げ屋の元嫁。



 そして、その地上げ屋のリキは……。

「あ。そろそろカレンを迎えに行く時間だ、幼稚園に行かないと……。あと帰りにスーパーに寄ろう」

 リキは財布を持ち、家を出て、自転車で走りだす。

 彼の家には、緊急アラームを鳴らし続ける携帯電話が残された。






 十数分後、リキを除いた四人のヒーローが基地に集結した。

 司令官はヒーロー達に背を向けながら、今回の任務を説明する。


「いいか諸君! あの塊には我が国の宝、不二山が取り込まれている! 最悪、他の建物と一般人はどうなっても良い! なんとかして不二山を取り戻すのだ!」

「司令。今の発言は我々ヒーローを統べる者として、いかがなものかと」

「言葉のあやだよ、運び屋。とにかく! 君達五人の力を結集させ、あの球体から不二山、もとい一般市民を救い出すのだ!」

「司令ぇ~。まだリキのおっちゃんが来ていませ~ん」

「なに!?」

「ダメです司令! リキさん、いくら電話をかけても出てくれません!」


 隊員が何度もリキに緊急コールを送るが、リキは出ない。当然だ、携帯を家に忘れて出かけてしまっているのだから。


「どういうことだね、運び屋!」

「私に聞かれても困ります、司令」

「でも、ヒカリ姐さん、あのおっさんの嫁だろ?」

「正確には、元、嫁です」


 射的屋の発言を即座に訂正するヒカリ。


「ですが……この時間ならおそらく、娘を迎えに幼稚園かと」






 同時刻。リキ、幼稚園に到着。


「カレンちゃ~ん、迎えに来たよ」


 デレデレな声で砂場で遊んでいる園児に話しかけるリキ。


「パパもう来たのですか? カレンはもっと遊びたいのです。もう少しで安土城が完成するのです」


 この少女、名はカレン。リキとヒカリの娘である。ちなみに彼女も能力者である。


「ダメダメ。これからスーパーにも寄るんだから」

「ぶぅ~」


 頬を膨らませるカレン。

 そんな二人に、カレンのクラス担任の先生が近づいてくる。


「こんばんは、リキさん」

「あ、先生。こんばんは」

「先生からもパパを説得してくださいです。もう少しで歴史が動く瞬間なのです」

「だからダメだって」

「あはは。それよりリキさん、あなたにお電話が」

「え、俺に?」


 先生から電話の子機を受け取るリキ。彼は耳に受話器を当てる。


「はい、もしも――」

『ゴラァ! リキ! お前メール見てないだろ!』

「え、司令!? メール? あ、携帯家だ……」


 リキは自分が電話を携帯し忘れていることに気付く。


「もう他の連中は現場に向かったぞ! お前もさっさとBブロックに迎え!!」

「りょ、了解であります!」


 通話を終了するリキ。ふぅ、とため息をつく。


「パパ、お仕事ですか?」


 カレンはリキの服の袖を引っ張る。


「うん、ごめんねカレン。……すみません先生、もうしばらく娘を預かってもらえますか?」

「もちろんです。ヒーローのお仕事、頑張ってくださいね」


 先生に一礼して、リキは自転車に飛び乗り、ペダルをきしませた。






 Bブロック。謎の球体の前に、四人のヒーローは集まる。

 球体は、今は何故か動いていない。だがまたいつ動き出すか分からない。


「フォッフォッフォ、こりゃかなりデカイのぉ。山一つ飲み込むのも頷けるわい」

「調査隊の報告によると、この物体は表面に強い粘着性を備えており、それが原因で人や建造物が巻き込まれたようです」

「……なんかこんなゲームなかったっけ? ほら、球を転がして物体を集めていくやつ」

「あ、私それ知ってる。ナマコの魂塊でしょ」

「あーそれそれ」

「ほらそこ、無駄話をしない」


 まるで風紀委員のように射的屋と風呂屋を注意する運び屋ヒカリ。


「それで、どう処理するの、この球」

「射的屋は私と一緒に人命救助をお願いします。風呂屋と植木屋はこの場で待機、球体が動き出した際に対処をお願いします」

「一般人はそれでいいといて、建物とかはどうするよ。あと肝心の不二山も」

「……それはあのメタボが来てから対処しましょう」






 その頃、リキは国道沿いを自転車で爆走中。


「はぁはぁ。やっぱり車買った方がいいな。自転車だとキツイ……」

「パパの場合、まずその醜い脂肪をなんとかした方がいいと思うのです」

「だよなぁ。最近また体重増えちゃ……って、カレン!? なんでパパの背中に張り付いているの!?」

「気付くの遅いです。娘がしがみついているのに気付かないほど、体重が増えたのですか?」

「安土城はどうしたの……」

「友達のタクトくんとサトルくんに後任を任せたのです」

「困ったな。今更幼稚園に戻るわけには……」


 その時だった。二人が乗っている自転車のチェーンが切れてしまったのだ。

 動力を失い、どんどん失速していく自転車。

 このままの走行は危険だと判断したリキは、ブレーキをかけながら道脇に停止させた。


「まいったな。チェーン切れちゃってる」

「一体どんな力で漕いだですか……」

「仕方ない、タクシー使うか」


 右手を高く上げて、タクシーを止めるリキ。

 扉を開け、彼らは乗り込む。


「Bブロックまでお願いします。できるだけ急いでください」

「はいよ」


 運転手はアクセルを踏み、車を発進させた。






 その頃、Bブロック。ヒカリと射的屋サイド。

 射的屋はビーム光線で、粘着物質を切断し、張り付いた人々を解放。

 ヒカリは解放された人々をテレポートで安全な所に避難させていた。


「ふぅ、やっと半分ってとこか?」

「予定より時間がかかっていますね。急がないと、またコレが動き出すかもしれません」

「ところで、地上げ屋のおっさんはまだか?」

「そのようです。……まったく、一体どこで何しているのやら」






 リキの乗ったタクシーは渋滞に巻き込まれていた。


「当然といえば当然なのです。怪人が現れたのですから」


 カレンの言う通りだ。怪人……いや謎の球体が出現したおかげで、周囲の人達は避難しなければならなくなった。それにより、交通量が爆発的に増えたのだ。


「パパ、いっそ走った方が速いです」

「そうだね……。運転手さん、すみません、ここで降ろしてください」

「はいはい。1080円になります」


 財布を開くリキ。

 その瞬間、彼の顔が固まった。


「パパ、まさか……」

「お客さん……」


 何かを察した運転手とカレン。

 そうなのだ。もともと特売のお肉だけを買う予定だったため、リキの財布にはあまりお金が入っていなかったのだ。


「すみません! すみません!」


 ぺこぺこと頭を下げるリキ。運転手は非常に困った。彼はリキがヒーローであることは知っていたが、客がヒーローだからといって値下げするわけにはいかない。あとで秘密基地に請求することも可能には可能だが、正直手続きが面倒くさい。故に運転手は非常に困ってしまった。

 見かねたカレンが案を出してきた。


「はぁ……。カレンはタクシーで待っていますので、パパはさっさとそこの銀行でお金を下ろしてくるのです」

「そうしてください」

「はい。行って来ます……」


 リキは一旦タクシーを降りて、ドスドスと足音と響かせながら、早足で銀行へと向かった。






 Bブロック。風呂屋と植木サイド。


「『対処をお願いします』って、姐さんは言ったけど……。どうしようか、おじちゃん」

「うーむ。わし達の力では、完全に止めることはできぬが。これ以上被害が広がらないようにせんとな」

「あ、そっか。被害を出さなきゃいいのか。何も止める必要はないのね。そっかそっか」


 何かを思いついた風呂屋。まるで面白い悪戯を思いついた子供のような顔をしていた。


「必殺 《泥風呂》!」


 風呂屋は自身の能力で、大量の水を発生させる。水は球体の下に流れ込み、土と混ざり合って泥となった。


「これでよしっと。もし、このボールが動き出しても、泥で滑って動けなくなるってわけよ」

「なるほどのぉ。それじゃあわしも……秘儀 《緑の絨毯~グリーンカーテン~》」


 膝を折って、地面に手をつける植木屋。

 すると球体の周りから、植物が生い茂ってくる。それらは緑の壁となり、黒球を取り囲んだ。しかし植物の高さは黒い球よりかなり低い。黒球が直径一キロに対し、グリーンカーテンは百メートルくらいだろうか。これでは壁と言うより柵だ。


「ちと小さいが、まあ無いよりはマシじゃろ」

「でもこれって根本的な解決になってないよね」

「こういう時こそ、あの男の馬鹿力が必要じゃというのに……」

「リキのおっちゃん、何しているんだろうね」






 そのリキはというと、ATMの行列に並んでいた。


「はぁ。司令に怒られるし、自転車壊れるし、お金忘れるし、今日は散々だな」


 早く自分の番にならないかなぁと待つリキ。

 その時だった。

 突如銀行内に銃声が鳴り響く。


「おらおら! てめえら動くんじゃねえぞ!」

「死にたくなかったら、全員店の奥に固まりやがれ!」


 覆面の男二人組みが銀行強盗に起こした。

 今日は厄日だな、そう思うリキだった。






 基地内司令室。


「ええい! リキはまだ到着しておらんのか!!」

「おかしいですね。随分前に幼稚園を出たはずなのに……」


 怒る司令を隊員が宥めていた。






「(どうする……? 相手は二人とも拳銃を持っている。一人ならまだしも、二人となると一般人に被害が……)」


 どうにかしてこの状況を打破しようと考えるリキ。

 その時だった。

 一般人のうちの赤ん坊が泣き出した。

 ピーピーと赤子の泣き声が銀行内に響く。


「うるさいぞ! その餓鬼を黙らせろ!」


 すみませんすみません、と母親はなんとか赤ちゃんをあやすが、一向に泣き止まない。おそらく赤子ながら、この危機的状況を怖いと本能的に感じ取ってしまっているのだろう。

 強盗の一人が母子に銃口を向ける。


「おいよせ、まだ子供だぞ!」


 それを見たリキは反射的に身体が動いてしまった。それは、ヒーローであるリキの職業病というか性だった。


「あぁ?」


 銃口がリキに向けられる。


「うぜえんだよデブが!!」


 強盗の緊張とイラつきがピークに達した。彼はリキに向けて、拳銃の引き金を引いた。


 が、何故か銃が暴発した。


「ぐわぁ!!」

「あ、兄貴!?」


 もう一人の覆面男が動揺する。

 その隙をリキは見逃さなかった。


「《サターンラリアット》!!」


 リキは強靭な右腕で、強盗二人に強烈なラリアットを喰らわせる。

 男達は壁に叩きつけられ、気絶した。


「今の暴発は……」

「まったく、今日は厄日なのですか?」


 天井の通気口から、ひょこっとカレンの顔がリキを覗きこんでいた。


「カレンちゃん!? なんでそんなところに!?」

「あまりにパパが遅いので様子を見に来たのです。そしたら銀行のシャッターが閉まっていたのでダクトを通って進入したのです。まったく、カレンがバリアを張らなければ、その脂肪に穴が開いていたのです」


 カレンの父と母は能力者。その素質と才能を、しっかりと娘は受け継いでいたのだ。

 彼女の能力はバリア。それを強盗の銃口に展開し、弾を暴発させたのだ。


「ははは、ありがとう。よし! それじゃあBブロックに急ごうか」

「そのことなのですが……」

「?」

「つっかえて、動けないのです。助けてください」






 Bブロック。ヒカリと射的屋は風呂屋植木屋に合流した。


「とりあえず、人面救助は終わったが……」

「あとは不二山とその他諸々だね、どうすんの?」


 ヒカリに指示を仰ぐ風呂屋。

 腕を組みながら今後のことを話すヒカリ。


「我々では山を元の位置に戻すのは無理です。あのメタボが到着したら、射的屋のレーザーで山と球体の接着部を切断し、その後あのメタボに運ばせるしかありませんね」

「それで? あの男はまだ来んのかえ?」

「姐さんのテレポートで迎えに行けばいいんじゃない?」

「今どこにいるのか分からないのでは、迎えに行きようがありません。それにたとえ分かったとしても、今の彼の体重は私の能力の許容範囲を遥かに超えていますので、連れてくるのは不可能です」

「やっぱ男はデブじゃだめだね」


 やれやれと呆れる四人だった。






「ふぅ、やっと抜けられたのです」


 服についた埃を掃うカレン。


「結構時間かかっちゃったね。それじゃあ行こうか」


 リキ達に警官が近づく。


「いやぁ、強盗犯を捕まえてくださって、ありがとうございます!」


 ビシッと敬礼をする警官。


「でも、リキさん。どうして娘さんを連れてこんな所に? ヒーローは全員Bブロックに集まっているはずでは……?」

「はは、ちょっとね……」

「あ、よろしければお送りしましょうか? パトカーなら渋滞なんて関係ないでしょ?」

「そうしてもらえるかな」


 リキとカレンはパトカーの後部座席に乗り込んだ。

 警官は運転席に乗り込み、アクセルを踏む。


 しかし、パトカーはあまりスピードが上がらなかった。


「……おまわりさん、もっとスピード出ないのですか?」

「おかしいですね。アクセル全開にしているんですが」

「それって、やっぱり……」


 カレンがリキのお腹をぷにぷにつつく。

「今日からダイエットするのです、パパ」






「もうあのデブ、クビでいいよな?」

「ま、まあもう少し待ちましょうよ司令……」






 Bブロック。

 さっきまで大人しかった球体が、また動き出した。ゴロゴロと高速回転しだす。

 風呂屋と植木屋の策略では、球は泥に脚を取られ、植物の柵で動きを止める予定だった。

 しかし球体は、泥を跳ね除け、柵を破壊した。


「まずいぞい!」


 球体がヒーロー達の方に迫ってくる。


「運び屋姐さん! テレポート!!」


 風呂屋はヒカリにテレポートで緊急脱出するように頼んだ。


「ダメです。もう能力を発動させる力が……」


 ヒーロー達と球体の距離、約五メートル。


 もうダメだ、四人はそう思った。


 その時だった。


 球の動きが止まった。いや正確には回転はしているが、その場で回っているだけだ。


「これは、バリア……!」


 ヒカリの言う通り、これはバリアによるものだ。巨大なバリアが球体の周りを囲っている。それが壁となり、球体を止めたのだ。

 そしてヒカリの知る人物の中で、こんな芸当ができるのは一人しかいない。


「大丈夫ですかママ!」


 カレンだ。カレンが母親であるヒカリに飛びついた。


「カレン! どうしてここに……?」

「パパについて来たのです」


 そのパパであるリキが、息を切らしながらヒーロー達に近づいてきた。


「はぁはぁ、やっと着いた……」

「あなた! こんな所に娘をつれてくるなんて何考えているんですか!?」

「し、仕方ないだろ」

「まったく。あなたはいつもそう! この前だって――」

「まあまあ、お二人さん、夫婦喧嘩はそこまでにしなさいな」

「そーだよ、さっさと終わらせて帰ろうよ」


 植木屋と風呂屋が元夫婦の間に割って入って喧嘩を止める。

 そして射的屋は……。


「おーい、犯人捕まえたぞ」


 そう言って、射的屋は右手に何かを持って、皆に合流する。

 彼の右手には、とても小さな小さな小人がジタバタと暴れていた。どうやら別の星の宇宙人らしい。


「え、なに? こんな小さいやつがあの球体を動かしてたの?」

「ああ。話を聞いてみると、なんでも酔った父親が星空を壊しちゃったらしいから、それを再生するために、こんなことをしたらしいぞ。この球を大きくして、空に浮かべる予定だったそうだ」

「それって初代魂塊のまんまじゃん……」


 風呂屋が小人をつつく。


「それで、俺は何をすればいいんだ?」


 ヒーロー達はリキに状況を説明した。






「よし分かった。任せろ」


 リキはゆっくりと球体の不二山が引っ付いている箇所に近づく。犯人は捕まえたので、球体はもう動いていない。リキが駆けつけたので、対処は簡単だ。


「射的屋! 頼む!!」

「任せな! 必殺名古屋撃ち!!」


 射的屋は十本の指からレーザー光線を放つ。光線は球体の不二山の接着部分を焼き払う。

 不二山がグラグラと揺れて、落ちてくる。

 リキはそれを受け止める。

 リキの能力は狂人的な力。地面を持ち上げられるほどのパワー、彼が地上げ屋と呼ばれるのはこの能力が由縁である。


「いっけぇ、おっちゃん!!」

「やっちゃうのです、パパ!!」

「うぉおおおおおおおお!!」


 リキが力んだ、その時だった。彼の地面は、さっき風呂屋が作った泥だらけだったのだ。

 地上げ屋は、足を取られて、バランスを崩す。

 そして勢い余って、リキは不二山を投げ飛ばしてしまった。まるで巴投げのように。

 不二山はくるくる回転しながら、宇宙の彼方へと飛んでいってしまった。


『あ……』






「あいつ、死刑な」

「賛成」






 次の日。コメリカから大使殿がお見えになった。


「Oh、不二山ガ無イノハ残念デスガ、コノオブジェモ中々ノモノNE」


 不二山の跡地には、あの黒球が、大量の建物を巻き込んだ球が置かれていた。コメリカ大使のために特別に用意したオブジェとして。


「マア、面白イ物見レタカラ、ミサイルハ勘弁シテヤルYO」

「あ、ありがとうございます!」


 日本首相は深く深くお辞儀をした。

 そして基地内司令室では。


「えー、今日から馬鹿リキに代わって我が組織に所属することになったNEWヒーローを紹介します」

「どうも、コードネーム壁屋、カレンなのです。今日からお願いします」

『よろしくー』


 新任のヒーローの歓迎会を行っていた。


「あ、あの~司令? 俺はどうすれば……」

「あ゛? お前は当分基地の掃除と雑用だよ。もちろんタダ働きな」

「そ、そんな~」


 ここはヒーロー達が日夜活躍する世界。

 今ここに、新しいヒーローと雑用ヒーローが誕生した。

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