足立 卅と一夜の短篇13回
白川津 中々
第1話
地獄に堕ちてしまった。
俺は死ぬ前に女房を殺していた。なので、地獄行きは死後の待遇として妥当なところだと思う。
しかし間抜けな死に方をしたものだ。女房を刺した後、焦って逃げようとしたら足を滑らせ転倒。その際に持っていたナイフが腹に刺さってお陀仏という運びである。死んでも死に切れんとはこの事だ。死んでしまったが。
俺は死んだ後、地獄と書かれた看板が立っているビルの前にいた。そのビルの中から鬼がやってきて、「こちらへ」とビルへと案内され一室に連れてこられたのだが、そこで俺は俺の死に様をスクリーンで鑑賞させられたのであった。鬼が笑いを堪えていたのが腹立たしかった。
「こんなもの、わざわざ観せなくともよかろう」
すべて観終わった後、俺は鬼に文句を言ってやった
「たまに、死んだということが分からない方がいらっしゃいますので」
鬼の言葉に俺は納得した。なるほど、確かに死んでいるように生きている奴もいる。その逆もあるのだろう。
そして俺は課せられる罪の重さを秤に掛けられにいく最中なのであった。鬼は三階にある閻魔の部屋まで行けと指示を出し、何処かへ消えてしまった。鬼も忙しいのだろう。
言われた通りに三階まできてしばらく歩くと、扉の上に閻魔と書かれた表札のある部屋があった。ノックをして「どうぞ」という言葉の後に俺は入室した。
「はいお疲れ様です。足立さんですね。それではちょっと失礼しますよ」
閻魔はデジタルな秤を俺の首に繋げた。アストレアが持つような天秤を想像していたのだが、案外俗世的である。
「はい。えー終わりました。軽いですね。一劫の間賽の河原清掃です。月十二万円。八時間労働の完全週休二日制で有給も取れますよ」
「給料はもう少し何とかならんか」
「厳しいですねぇ。最近お上が出し渋るので、末端で調整するしかないんですよ」
地獄も色々と大変なようだ。閻魔も苦労しているのだろう。同情する。
「ところで、罪と罰の釣り合いが取れていないと思うのだが」
「あぁ。惜しかったですね。貴方の奥さん、生きてたみたいですよ。確実に殺しておけば、天国に行けたんですけどね」
足立 卅と一夜の短篇13回 白川津 中々 @taka1212384
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