ハッキング高等学校の最後の入学生

ちびまるフォイ

ざるセキュリティのあなた

私立ハッキング高等学校。

その入学試験はどんな難関大学の入学試験よりも難しいというが……。


「にゅ、入学することの方が難しいわぁぁぁ!!」


入学式当日、学校の門は何十ものセキュリティに守られていて中に入れない。

入学式に参加できないということはすなわち、試験を突破しても落第。


「こ、これがハッカーなのか……」


セキュリティを壊そうとプログラムを組むもの。

別の入り口がないかと探すもの。

みな、それぞれの方法で突破を試みている。


でもこのまま入学式までに間に合う気がしない。


「どうすればいい、どうすれば……」


悩んだ末に思いついた方法は長いハシゴを借りて普通に突破することだった。


「その方法があったか!!」

「くそ! ハッキングという先入観を持ってしまった!」


なぜか同級生からは英雄扱いされた。

いや、俺あんたらよりハッキングできないんだけどね。


体育館にはすでに学校に入っているエリートハッカーたちが並んでいた。


「みなさん、無事入学おめでとうございます!!

 ハッカーは少数精鋭でチームワークは扶養です!

 だからこそ、みなさんの力を測るためにこのような趣向をこらしました!」


壇上で先生が演説をしている。

油断するとじーくじおん!とか言ってしまいそうだ。


「さて、今回は幸いにも入学者がとても多かった。喜ばしい事です。

 そこで歓迎をかねて、最初の授業を行うことにしました」


授業?とざわつく体育館。嫌な予感しかしない。


「みなさんのイスの下にはそれぞれUSBがあります。

 そこに書いてあるIDをお互いに盗み合ってください。

 一番IDを集めた1人が今年度の入学者です」


「って、入学者1人かよぉ!?」


思わず声が出てしまった。


「ハッカーは少数精鋭。

 できそこないのせいで尻尾をつかまれるチームになるくらいなら

 いっそ、できるやつ1人だけのほうが効率的です」


「なんてスパルタな……」


「合格者のIDはあとで私のパソコンから送ります。ではスタート!」


一斉に全員が椅子の下のUSBを取ってデータを確認した。

そしてすぐにUSBをポイ捨てした。


「え、なに!? なんで!?」


他の人間のUSBを拾ってわかった。データが完全抹消されている。復元できない。

俺はといえば、こんなふうにデータを消すことも復元もできないので

しかたなくUSBを肌身離さず持っていることにした。


強引に奪われでもしたらそれこそ終わりだ。


「俺だけレベルが違うような……」


もちろん悪い意味で。

入学式がはじまると、みんな移動してなにやら操作をし始めた。


実は入学前にハッカー高校の授業のために生徒全員が同じネットワークでつながっている。


そのパイプを利用してお互いがお互いのパソコンにハッキングを仕掛けている。


「うおおお! まずいまずい! 俺もハッキングされてるかも!?」


まずはセキュリティをしっかりしなきゃ。

ああ、いやそれよりウイルス対策ソフトを。

待て待て。ネットワークを切ればなんとかなるのか!?


慌てながらパソコンを開くとデスクトップには見たことないアイコンが表示されていた。



[ YOU LOSE ]



「えええええええ!?」


自分のID「1234」はものの見事にほかの同級生によって盗まれていた。

はやい。早すぎる。


これから誰かのIDをハッキングで奪っても合格にはならない。

取り戻すにも、まるで痕跡は残っていない。

改めてほかの同級生のレベルの高さに感服した。


「くそ……ハッカーって、人から奪うのはうまいのに、

 自分が防御に回るとこんなにも弱いのか……」


これでもハッカーを目指すはしくれ。

データを盗むのは得意なのに、奪われる側になるとこんなにも弱いなんて。

ハッカーの盲点を突かれてしまった。


もうこのまま帰るしかないのか……。


「いや、待てよ……?」


俺は思い出した。

壇上で先生が言っていた言葉を。




――キーンコーンカーンコーン。



入学式終了のチャイムが鳴るとハッカーたちは体育館に戻ってきた。


俺のようにIDを奪われたのだろう、うつむいた人。

勝ち誇ったドヤ顔で戻ってくる人。

もう戻ってこない人。


「みなさん!! それでは入学式の合格者を発表します!!

 はえある合格者のIDは……」


全員がかたずをのんで見守る。




「ID:1234 だ!!!!」



ドヤ顔だった生徒も目を丸くしていた。

それもそのはず。それだけの腕前があるならほかの生徒の収集具合も把握してたのだろう。


壇上に呼ばれた俺は入学者代表としてスピーチを行った。


「僕から言えることは、ただひとつです!

 ハッカーにとって一番大事なのは攻めて奪う技術よりも

 大切な情報を守るということです!!」


先生や在校生から熱い拍手が送られた。




「そして、それは先生にも言えることです!!」


俺のスピーチが終わってもなお、

先生は自分のパソコンがハッキングされて合格者のIDが

書き換えられていることを気付きもしなかった。

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