第5話

俺は、もう本能的に、慌てて首を引っ込めた。そして次の瞬間には尻餅しりもちをつきながら、目の前に再び現れた壁穴を見つめていた。


驚きに見開いていた目や手の平から太陽の光と地熱を感じ、無事、戻って来れたのだと気づく。

ほっとして息をついていると、

ふと、視界の上の方に焦げ茶色のローファーが見えた。


「ん?」


辿たどる様に見上げて行く。

ローファー、白い靴下、白いふくらはぎ、桃色のひざ、壁に押し付けられてぷにっと広がる形の良い太もも、黒色のパン……エロいもん履きやがって。


「おい、何してる」


少女は厚さ15センチ程の壁をももの間に挟み込んで、その上に腹ばいになりながらまたもやスマホを構えていた。


「これ、見せパンだから」


無関心に言い置いて、スマホを見つめながら飛び降りて来る。


(なんだコレは?)


俺はよくわからない屈辱に震えた。何だか知らないがもてあそばれた気がするのは何故だ?

「見せパン」と知った心が急激に冷めて行く。

つまり、冷めて行くと言うことは、それ以前には上昇していたと言うことなのか?

この俺が? この女に? こんな正体不明の穴を前にした状況で?


「違う!違うし、今はそれどころじゃない!」


「これを見て」


ずずいと俺の眼前に、彼女のスマホが迫った。

画面には一枚の写真。

尻を突き出した間抜けな俺。壁に頭を突っ込んでいる。

そこまでは別に普通だった。壁の向こうにも陽が出ていたし。

ただ、唯一の問題は俺の首から先が映っていないことだった。


「やっぱりね、私思うんだよ。あんたの首は、こことは別の世界に入っていったんじゃないかなあ。このトンネルを通って」


少女の顔は真剣そのものだった。


「一週間ビデオカメラとスマホつかって張り込んでみたけどそうとしか思えないわ」


俺はなんだか泣きたい気持ちになった。


「じゃあ何か? そんなおかしな穴だとよ〜く知った上で見ず知らずの俺を引っ張りこんだってか?」


よくもそんな真似ができたものだ。

この人非人にんぴにん

女の子じゃなかったら、多分、殴り飛ばしてる。


「『見ず知らず』じゃないよ? 二年首席しゅせきの斉藤くん」


「え……何で知ってんだ」


「いや、だから君『首席』だし、私、二年だし」

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ふづき 文緒 @-7-

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