第4話

俺は必死になって、向こう側から日が差す穴の前で手をぶんぶん振った。

けれど、こちら側の影には何の変化も無い。

当たり前だ。

いや、こんなおかしな状況でなけりゃ当たり前じゃないんだけれど、影の中に影なんか出来ようがなかった。

黒に黒を重ねても黒だ。


次に俺は自然な行動として、穴をのぞき込もうとした。

地面に両膝をつき、片手で上体を支え、徐々に、恐る恐る、目線を穴に合わせていく。

薄目を開けてかがんで行き、ほとんど威嚇する猫みたいなポーズになってから一呼吸置いてカッッ!っと目を見開いた。


(……って、なんだ普通じゃねえか)


つい先ほどまで自分が居た世界は、いびつな丸に切り取られて確かに壁の向こうにあった。

見慣れたグラウンドに見慣れたボロっちいサッカーゴールが見える。


すっかり安心した俺は、そのまま穴に頭を突っ込んだ。

秋の虫の鳴き声がうるさい。

爽やかな夜風が俺の髪を揺らし首元を洗うように通り抜けて……


「そうかそうか成る程な。夜か」


ほどな。

日が出てなけりゃ影が出来ないのも納得……


「ひぃっ!」

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