自分で言うのもなんだが私は平和主義者だ。“暴力反対!”と書かれたプラカードをいつでも心に掲げながら出歩く人畜無害の見本のような人間であり、子供のころクラスメイト同士が喧嘩をはじめると男らしく率先して仲裁…………したりせず、“大変だ〜!”っと走って先生を呼びに行っていたような(ん?)なんとも温厚なタチである。だからだろうか? か弱い(笑)自分と対極にある強い男には憧れるものだ。筋トレでもしようかと思うのだが逆に筋肉痛になるんじゃねぇかと心配するあまり、運動不足になりがちだ。皆さん、最近カラダ鍛えてますか〜?
今日、紹介させていただく『銀翼のマグナム.44』。私のような“優男”(ここ笑うとこ!)ではとても生きていけないようなヴァイオレンス・ワールドを描いている。作者、岩井喬氏の血の気が乗り移ったかのようなアクションがウリのひとつらしく、格闘、銃撃戦、カーチェイスはすみずみまで細かく鋭く描写されており、読み手は脳内で絵的に迫力シーンを想像することになる。
“凄腕のテロリストと、それに感化される女刑事”
本作の内容を一言であらわすとこうなる。ハードな世界観に合った敵役は警視庁公安部特殊任務実動部隊“グリーンフィールド”。略称GF。対テロリストを目的としながら手段を選ばない彼らは“警察の暗部”だ。だって、こいつら公務員のくせに拷問とか普通にやるんだぜ? 国民の血税でムチとかローソクとか三角木馬を買い揃えてやがるのかッ(違うって)!
ヤツらに対抗するのは米国特殊部隊出身のテロリスト、ヴィル・クライン。彼がなにゆえGFに挑むのか? これは物語構造上の背骨となっている。本作が単純なドンパチ小説ではないことの証であり、ヴィル自身の戦う理由だ。人間ドラマの側面もあわせ持つ。
とはいえ、やはりアクションも魅力の本作。銃火器の取り扱いに長け、近接格闘のエキスパートでもあるヴィルの立ち回りは見ものである。こいつは強いぜ! そんじょそこらのGFの隊員では相手にならない。岩井氏の力強い筆致が踊り、戦闘シーンに華を添える。一挙手一投足がかっこいいです。
そして主人公であり語り手となるのが女刑事の神矢忍。本作は彼女の視点で進む。暴力化した警察の姿を知り、自身が思い描く正義との大差を感じながらもテロリストに対する反感は持ち続ける。だが、やはりGFの考え方に賛同することもできない。彼女の目に映る両者の姿は読者の感想に直結するものだ。視点が完全固定された一人称小説の良いところで、状況把握がしやすい作品となっている。
ちなみに、この忍ちゃん。とてもかわいい性格をしている。典型的な巻き込まれキャラの彼女は素直で従順、わりと後ろ向きでけっこう心配性。基本、敬語で話すことが多く、控えめな人柄だ。戦闘はからっきしだが、意外とメカに強いリケジョ刑事でもある。凡人たる彼女と圧倒的殺人者ヴィルの関係は善悪対比というより主従に近いか? けっこういいコンビだが、やはり刑事とテロリスト。相容れないところは譲れないらしく、頑固な面もある。そういうとこもまたかわいい。GF(ガールフレンド)にしたいタイプだ。ショートヘアなんだってさ。
作者の岩井氏はスピード感を意識したと語る。やはりネット小説らしく忙しい読者の嗜好に合わせたのだろう。そのせいか物語展開は早い。また、氏は映画好きらしく、その影響もあるのかもしれない。最近は洋画も邦画も開始早々に見せ場を持ってくるが、本作ものっけからハードなアクションが見られる。全体的な雰囲気はハリウッドっぽさも出ており、そこに日本人が理解しやすい人物像をぶち込んだ、という作品印象である。例えばヴィルはダークヒーローであるが血も涙もない、という感じではない。詳細を語るとネタバレになるので避けるが、過去のこともあり彼はけっこう神経質で繊細だ。“HAHAHA!”と両手に持ったマシンガンをブッ放しながら建物内を歩き回る陽気なアメリカンヒーローとは異なる(偏見)。
GFの隊長をつとめる旗山基樹という魅力的な“悪役”が登場する。いや、彼は警官なんだから悪役ではなく“宿敵”とでも呼ぶべきか? この旗山が最終的にヴィルと“同類”になっていく。どういう意味での同類なのかは読んで確かめていただきたい。
一見、難解に見える作品だが、実はプロット自体は簡素化されており、状況が複雑化することはない。十万字の小説ならば、けっこうややこしくなりそうなものだが、どちらかというと文字数の多くは描写につぎ込まれているようで、物語としては明瞭なものになっている。これは岩井氏の狙い通りではないだろうか? 読む側があまり視点を広げる必要はなく、文字を追っていれば内容は自動的に頭に入ってくる。
卓越した状況描写の塊のような中盤までを経て作品の雰囲気が変わるのは二十一話以降となる。それまでも“人間”というものはよく描写されているのだが後半に入ると、じわりじわりと“情感”が増してくる。
“誰でもいい、教えて。私の依って立つ術を”
忍は、そう語る。警察の闇を知り、刑事であることの正当性に疑問を抱き続けてきた彼女に手を差し伸べるのは誰か? それは……?
ヒントを与えよう。最後に忍を導くのもまた“GF”なのだ。ただし、敵対しているグリーンフィールドではない。グッド・○ァー○ー。答えを知りたい方はぜひ、御一読を!
この作品の魅力はなんといっても、たたみかけるような、息もつかせぬ迫力の戦闘シーンの連続である。
よくもこれほどまでに多種多様な「戦闘」を、緊迫感をキープしたまま描写できるなあ、と驚かされる。
さながら、映画を観ているように頭のなかにバトルが再現されるのだ。
これ、ホントに文字媒体だよね? と疑いたくなるほど。
読み手としても楽しめ、かつ書き手としても唸らされる作品。
オススメ!
また、「正義」という言葉が、この作品のキーワードになっている。
この作品では、「正義」というものが、とても儚く移ろいやすいものとして描かれる。
だが読み終えて気付くのは、脆いのは人である、ということだ。
脆いがゆえ、何らかの「正義」の旗を掲げなければ、持て余した力を行使することができない。
主人公は最後まで自らの旗を探してヴィルの物語を凝視し続ける。
それは混迷した現代の「正義」の移ろいそのものであるかのようだ。
そして、作品のタイトルにもなっている「銀翼のマグナム」。
それは正義の対極たる、純粋な「力」の象徴である。
「正義」と「力」。
主に主人公の胸の内を通して語られる、そのエキサイティングなせめぎ合いもまた、本作品の魅力であることを特筆せずにはいられない。