最終話 明かされた真実

「功治先輩…その手を離して下さい。少し痛いです…」

「ごめん…」

 功治先輩に掴まれていた右手が解放される。

「功治!なんであなたがここにいるのよ…」

「学校でのやり取りを偶然みちゃってね…悪いと思ったけど、後をつけさせてもらったんだ…」

「それじゃあ、私たちのやり取りは全部…」

「探偵じゃあるまいし、会話の内容なんて、俺には判らないよ…でも、そこにいる煉の彼女が…」

「美琴でいいです…」

「…つまり、美琴が凄い剣幕で立ち上がったから、堪忍袋の緒が切れたんだと思ってね…」

「あなたの観察力には頭が下がるわ…」

“ザワザワ…”

「店の回りが騒がしくなってきたな…」

「ごめんなさい…」

「気にすることはないよ…だが、ここで話を続けるのは得策じゃなさそうだ」

「場所を変えましょう」



 私たち3人はカフェを出ると、駅前のカラオケボックスに入った。部屋に入ると、功治先輩は、音楽やマイクの音量を全て0にする。

「これで、ようやく落ち着いて話ができる」

「私は別にどこでも良かったんだけどね」

「またいつ二人が言い争わないとも限らないからな…話をするなら人目のつかない場所がいい」

「…それで、煉先輩を苦しませる片棒を担いでいた功治先輩が、一体私にどんな話を?」

「見かけの可愛さによらず、まるで鋭利なナイフのような物言いだな」

「話を逸らさないで下さい。彼氏を苦しめてきた相手を前に、構えない方が可笑しいと思いませんか?」

「確かにその通りだ。でも美琴…さん。落ち着いて俺の話を聞いて欲しい。亜美と俺が、結果的に煉を苦しめるようなことをしてしまったのには、理由があるんだよ」

「どんな理由であれ、お二人を許せるとは思えませんけど…とりあえず、話して下さい」

「まず、鳳城が煉に辛い仕打ちをした理由は…」

「先ほど先輩から聞きました。部活のエースの調子を維持するため、二人が恋愛ごっこをして、煉先輩を鳳城先輩から遠ざけようとした。同時に先輩は煉先輩の行為を利用し、保身に走った…」

「君の言う通り、鳳城は煉を利用した」

「私には、功治先輩も先輩に利用されていると思うんですけど…」

「ちょっと!功治には告白された時にはっきりと断ったって言ったじゃない!?」

「鳳城、待ってくれ!確かに、鳳城には断られた。でも、きっと俺も煉と同じなんだろう…はっきり断られても、利用されていると分かっていても、俺は鳳城の傍を離れられなかった。鳳城が否定しないなら、一緒にいよう…俺はそう決めたんだ」

「功治…」

「鳳城は幼くして両親が離婚して、父親に育てられたんだ。だが父親は鳳城に愛情を注がず、再婚相手との子どもばかりに愛情を注いだ」

「ちょっと!私の身の上話はやめて!」

「…つまり、鳳城は父親からの愛情を知らずに育ってしまったんだ。だから、自分に好意を寄せる異性からの想いそのものを疑ってしまうのだと、俺は思うんだ。男性不信とか、男嫌いとか、そう言い換えた方が分かりやすいかも知れない」

「そこまで知っていて、功治先輩は辛くないんですか?」

「辛いに決まってるだろ!でも、鳳城が否定しない限り傍に居ようと心に決めたんだ…って、俺のことはどうでもいい…」

「鳳城と俺のことを許してくれとは言わない。だが、鳳城も本当に煉のことを好いていた。煉のことを傷つけたり、弄んだりしたいと思っていた訳じゃない…そのことを知ってもらいたいだけだ…」

「…」

「鳳城先輩…何も言わないということは、功治先輩の弁解は全て正しいと理解していいんですね!」

「好きにすると良いわ」

「わかりました…それでも、私はお二人を許せそうにありません」

「それで構わない…それから、このことは煉には黙っておいてくれないか?」

「言われなくてもそうします!なんで彼氏に『他の女に好かれてるみたいだよ』みたいなことを言わなきゃいけないんですか!」

「確かに…」

「…話は終わったかしら?もう帰りたいんだけど…」

「お前のことで話をしていたんだけどな…」

「何か言った!?」

「いや、別に……そろそろ時間だな。」

 立ち上がり、鳳城先輩の右手を掴む功治先輩。

「ちょっと、何するのよ…」

「美琴さん、今日はすまなかった。そして、俺の話を聞いてくれてありがとう。もうすぐ、煉がここに到着するはずだ」

「えっ!?」

「俺がここに来るよう、連絡を入れておいたんだ」

「そんな…何のために…」

「『罪滅ぼし』って奴かな…こんなもので煉にした行いが償われるとは思えないけど…帰りがけにこの部屋のルーム代は払っておくから、煉と残りの時間を楽しんでくれ」

「…」

「俺たちはもうすぐ卒業する。鳳城も、もう間もなく部活動から姿を消すことだろう。君は君で、お姉ちゃんと一緒に部を盛り立てて、煉をしっかりと支えてやってくれ」

「…分かりました…」

「ありがとう!さて、お邪魔虫は退散するとしよう。ほら、行くぞ!」

「ちょっと!私に指図しないでくれる!」

 功治先輩は、鳳城先輩の腕を引いて部屋から出て行った。

「(…先輩達がしたことは許せない…でも、それがあったからこそ、今の私と煉先輩があることも事実)」

「私に、二人を許せる時は来るんだろうか…)」

 そして数分後…

「功治、待たせたな…って、何で美琴がここに!?」

「先輩!!」

 この後、うまくこの場の状況を誤魔化した私は、先輩と一緒にカラオケを楽しんだのだった。



「…ちょっと!!これで気持ちが傾くと思ったら大間違いなんだからね!」

「はいはい!そんなつもりでやったんじゃありませんよ!」

「それじゃ、どうして…あなたが私の罪まで被る必要ないじゃない!」

「そんなこと、できる訳ないじゃないか!俺の気持ちは、未だ鳳城という檻に囚われてしまっているのだから…」

「…」

「功治…私が貴方の気持ちに答えられる日は、きっと…」

「そうだったとしても、俺と一緒にいることを拒否はしないんだろう!?だったら俺は待つだけさ。煉と違って、鳳城の気持ちを知っているんだから、八方塞がりな訳じゃないし…」

「功治…」

「さて、とりあえず一区切りついたということで…目の前にいる綺麗なお嬢さん!わたくしめと玉突きなどに興じては頂けないでしょうか?」

「…分かったわ!今日は、功治の思う通りにしてあげる!でも、私のビリヤードの腕は、あなたに負けなくってよ!」



 数ヵ月後、けやき商を卒業した私と功治は、煉とは違う大学の門戸を叩いた。

 功治は大学生になってからも、相変わらず私のことだけを見てくれていた。

 だが、功治の想いに応えることができないまま、大学2年の終わりに、変えがたい急激な生活環境の変化に襲われ、大学を辞めざるを得なくなった。その時、功治にも別れを告げた。そうすることが、功治の為になると思ったからだ。

 さすがの功治も、私からのこの提案を受け入れた。叶うかどうかも分からない私への想いを、胸に抱き続けることに疲れたんだろう…

 今私は、フリーターで給料を稼ぎ、離職した父の代わりに家を支えている。

 でも、私は時々思うのだ。

 高校3年のあの頃、自分の気持ちに素直になって、煉の胸に飛び込んだら、今この未来は変わっていたのだろうか?と。

 風の便りによれば、今度パソコン部の同窓会が開かれるらしい。

 私は、招待状を片手に、懐かしの母校を訪れることにした…



「あっ。沢継君…」


fin

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秋風に誘われて外伝 亜美の真実 剣世炸 @kentsugisaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ