黒い Yさんの話
人前で自分に関する話ってしたくないんだけど……ま、今まで散々他の人にも話したし別にいいか。
私、見えない人なんだよね。幸いにも。
耳はいいって言われたし、若干過敏というか小さな物音でもびびっちゃうけど。要は怖がり。そのくせ夜更かし好きだから困ったもんだよね。
うわ、こんな話してたら足先冷えてきたわ。あるよね、こういうの。さっさと終わらせようかね。
高校が霊感とかない人でも見えちゃうようなとこでさ。歴史ある土地だし、さもありなんって感じだよな。
黄昏時って言うんかな。部活をちょっと抜けて一人でお手洗いに行ったんだわ。空がうっすら紫色でさ、綺麗っちゃ綺麗だったのをよく覚えてる。
その日、珍しいことに吹奏楽部が近くで練習してなくてラッキーと思ってトイレに入ったんだ。なんか入るとこ人に見られるのが苦手なんだよ。
人はいなかったから、中は私の貸し切り状態。ずらっと個室が並んでる中、手っ取り早いからって一番手前に入った。
ドアを引く時って半身を翻すでしょ?
その時トイレの入り口に黒い足が見えた。秋か冬だったから女子はみんな黒いタイツ穿いてたのよな。順番待ちしてたやつもそうだった。
なんだ、他にも利用者がいるのかと思って「のんびりできねえな~」なんて考えながら紙を弄ってたら、ふと妙なことに気付いた。
個室が閉まる音がしてない。
紙を巻き取る音も、水を流す音もだ。
不気味なくらい静かなんだ。
気付かなきゃよかったって後悔しつつ素早くトイレから飛び出した。物音は最後で一切なかった。
もちろん何事もなく部活に戻れた。
んで、あとから気付いた。そもそもの話、あの黒タイツの足は学校指定の上靴を履いてなかった。タイツ穿いてても素足でトイレなんか行かないよね。おまけにスカートのすそも見えなかった。
もしかすると……あれは足しかなかったんじゃないか、ってな。
……。
うんまあ、あれだ。こういう話をしてると一年、二年くらい前から吐き気するようになったんだよなあ……。プラシーボ効果だったらいいんだけど。
私なんかの事情はいいんだが、とりまその後は特に何もなく今に至るって感じ。一回だけその学校の地区にあるファミレスで黒い影を見たような見てないような曖昧なとこだな。
んでこれからがここ一年くらいの話。とは言っても記憶力には自信ないから時系列飛んでるかも。
私の家さ、結構家鳴り多いんだよな。築二十五年以上とかなんとか言ってたから、古いし仕方のないことだなとも思う。でも、でもだよ?
なんで私が一人の時ばっかりパキパキ音が激しくなるんですかねえ!
こないだなんて夜中にパソコン触ってた時に、身内の古いオルゴール人形が突然鳴り出したんだわ。深夜2時過ぎよ? みんなとっくに寝静まってる。
なのに踊り出すオルゴール。また私一人の時。
その日は家族の布団に潜り込んで寝た。
また別日の夜中は、向かいの椅子が少し動いたような気がしたと思ったら、椅子の後ろにあるソファーが軋んで少し沈んだ。まるで椅子をずらしてから人が座ったみたいに。部屋にはまたしても私一人しかいねえのに。
もう夜更かしはやめようと思った。
そしてここ数か月前、視界の端にたまに黒い虫が見えるようになった。小さな蜘蛛とか割と家にいるから、サイズとかそんな感じ。実際にいるのか私しか気づかないのかわからんけど。
私、蜘蛛はダメなんだよ。ほんとびっくりする。無理。だからふと視界の端にいるととりあえず逃げる。この際実物かどうかはどうでもいい。蜘蛛がいることが問題になる。
ああ、めっちゃ左足が痙攣する。困ったな。
……これは余談なんだけどさ。前に愛犬の墓参りに行ったんだよ。その夜は熱帯夜だったからいつも寝てる二階じゃなくて真下の部屋で寝たんだよ。上、クーラーないし。
夜中ふと気づけば二階が騒がしい。カタンコトンと物が落ちて転がるような音がしてた。兄弟がなんか取りに行ったんかなと思ったが、みんな横で寝てる。物音は私が完全に寝入るまで続いた。
翌日チェックしても小物なんて落ちてなかった。
そういえば塩撒くの忘れてたんだよ。そういうことだよねアレ。墓参りの後にもするのかよく知らないけど。
ま、そういうことがあったわけで、心霊かどうかはさておき、何か不思議な物事はこの世にあるんじゃないかなーとは思うね。怖いから関わりたくないけども。
また家鳴りだ。珍しいな、人といるときに鳴るなんて。しかもまた黒い虫がいるわ頭痛がするわで……。
あれ、触ってたスマホの画面が黒くなってる。変だな。充電あるから音楽流してたはずなのに。なんで電源切れてんの?
魑魅脳涼快談 夜清 @crab305
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魑魅脳涼快談の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます