五年後…

「お願いです! 私の……私のお姉ちゃんを助けてください」

目の前で、悲痛な面持ちを持つ少女が僕にそう嘆願する。

「警察も、友達も、お父さんとお母さんも信じてくれなかった。でも……本当なんです。頭に角を生やした人がお姉ちゃんを……連れて行って……」

嗚咽交じりに聞こえてくる声は混じりけのない真実を告げている。

ほかの、この世界に住む人が一般常識を持っていれば、たぶんこの少女の言葉は姉が失踪したということが心に与えたショックによって気が動転していると判断するのだろう。

だけど、それが違うのはこの少女も、僕も分かっている。

「お願いです……どうか……どうか私のおねえちゃんを…………」

「……事情は分かったよ。それじゃ、行こうか……」

「え……行くって、どこに?」

「君のお姉さんを助けに、さ」

僕は席を立ち、部屋の扉を開ける。

「ついてきて……」とその少女に告げる。

ここは僕の家だ。と言っても、父さんから受け継いだものだけれど。

とにかく、その家の中を歩いて、とある場所に向かっている。

「にゃあー」

僕が部屋を出たのとほとんど同時に、甘えるような猫の鳴き声が足元から聞こえてくる。

傍にいたのは一匹の白猫。きれいな銀色の毛並と藍色の瞳を持っている。

「なんだ……お前も一緒に来るか? ふゆか」と言ってしゃがんで白猫に向かって手を差し伸べると、するすると僕の体を上って背中に引っ付く。

「あの……一体……?」

後ろから不思議そうな声を少女が発す。

「ああ、ごめんごめん。ま、いいからとにかくついてきてよ」

続けて廊下に出て、歩く。

「あ……ひかる。どこかに……行くの?」

廊下を歩いていると、最近ではすっかり聞きなれた声が耳にとどく。

「あ、このみ……。うん、そうなんだ、ちょっとエンドアースまで行ってくる」

「エンドアースッ! だって、あそこは……」

「うん、そこにこの子のお姉さんがいるんだ。エルトロンに攫われてしまったみたいでね。だから、助けに行く。……もしよかったら、このみもついてきてくれると…………。さすがに僕一人じゃ心もとないから」

「…………うん。行くよ、ついていく。私だって、少しは力になりたいから」

「ありがとう……」

「えっ……あの……ちょっと。エンドアースって? エルトロンって? 行くって、どこに……?」

「うん、説明は後でするから、ちょっと待ってね。もう着くから」

「えっ、着くって……?」

そして、僕の目的の場所にたどり着いた。

僕たちの前にあるのは古びた観音開きの扉。そこには鍵穴があって、僕はポケットの中から鈍色の光を放つ鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。

がちゃんと音が鳴って、扉の鍵が外れ、開く。

目の前に広がるのはまるで庭のようで、僕はその中心に位置する噴水のところまでいく。

僕がそこに手をかざすと、噴水は途端に風と共に紫色の光を辺りにまき散らす。

「これは……っ!」

目を見開き驚愕する少女の声が耳に届く。

「心配しなくても大丈夫だよ。さ、こっちに……」と少女に向けて手を差し伸べる。

「え、あ、はい……」

おずおずと、何か壊れ物触れるようにそっと僕の手に少女の手の温もりが伝わる。

少女を噴水の近くまで引き寄せる

このみが僕の近くに寄ってきて、僕の空いてる方の腕に飛びついてきて「ひかるはいつもそうなんだから、まったく……」と小さく呟く。

ふゆかは僕の背中で「にゃあ」と鳴き、そして僕は

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はひかる。君は?」

「私の名前は……こはる……です」

噴水から広がる風に髪をたなびかせながら、そう答える。僕は噴水の淵に足をかけながら言う。

「じゃあ、こはる……君のお姉さんを助けに行こうか!」

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アンクロシング・ワールド 風鈴花 @sd-ime

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