エピローグ ひかるとふゆか

「う……ううん……ん? ひかる……?」

目の前のベッドで寝ていたふゆかが目を微かに開け、そこから入り込んでくる光とともに僕の名前を呼ぶ。

「ん、目が覚めた? 気分はどう?」

「え……うん、すごい調子良いけど……って、あれ……私……なんで?」

そう目覚めたばかりのふゆかは不思議がり、そして目からは涙が零れ落ちる。

「そう……よかった。一ヶ月も寝たきりだったから……目覚めないかもしれないって心配だったよ。……本当によかった」

「一ヶ月も……寝たきり? それに。あれ……なんかひかる、雰囲気変わった?」

「雰囲気……? あぁ、そういえば言うのが遅れたね。ただいま、ふゆか。随分といろいろ迷惑をかけてしまったけれど、きちんと記憶が戻ったんだ。君との出会いも、そこから起こったことも、全部思い出したよ」

「え……ひ、かる……。本当に……?」

ふゆかは驚いたように目を見開き、僕に問いかける。

「あぁ、本当さ。なんなら君が好きな食べ物を一から言っていこうか? 随分と女の子らしくない食べ物ばかりが」

「あぁあああああああ、い、言わなくていいから。だ、大丈夫だよ、最初から疑ってなんか、ないし。……でも、本当によかった」

「うん……本当に心配をかけた」

そしてそっと、僕はふゆかに寄り添い、その体に手を回した。

「いいよ……記憶がなくても…………ひかるは、ひかるだったから」

「そう…………だね」

「……え、ていうか何でひかるここにいるの? 騎士の仕事、たくさんあるでしょ?」

「騎士の仕事……? あぁ、あれならやめたよ」

「えっ、やめた? なんで?」

「僕には君を守るだけで精一杯だからさ」

もう、僕にはたくさんの人を守るための、大騎士でいられるための力はもうないからさ。

「はっ、恥ずかしいこと言って。……でも、そっか、ちょっと嬉しいかも」

「ちょっ、ちょっと……」

そう言って僕の体に腕を回し強く抱きしめられる。その行動に僕は少しあわてて、だけれどそれもふゆかのお腹の音が鳴ったことで中断する。

「そっか……一ヶ月眠りっきりじゃおなかすくよね? 何つくろうか?」

「ちょっ……今のはそんなんじゃないってばぁ……カレーライスで……」

「はははっ、ちょっと時間がかかるけどいい? なんならハンバーグでものせる?」

「ちょっと、馬鹿にしてるの?」

「そんなんじゃないよ……で、どうする?」

「うー……それで」

「はははっ、了解」

少し前ならあった僕のありあまるほどの力はそのほとんどがなくなった。僕の心の中には別の世界であった出来事が深く突き刺さり、これが消え去り痛みが消えることはない。

だけれど、ひかる、君がこっちの世界できちんとしてくれたおかげで僕は今も、ちゃんと幸せに生きていけてるよ。

いつか、君にまた会うことができたら、君にもう一度謝罪と感謝を述べよう。

騒がしく、だけれど温かみのある声が彼ら二人を包み、そうしてそれらは一連の様々な、終わったすべてのものに等しく何かしらの形での安息をもたらした。

この世界は、交わることのない様々な世界は複雑に繋がりあっており、影響しあっている。そして、これから先もそれらの世界は生き続ける。

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