「つらくて苦しくて寝られない」

やましん(テンパー)

  眠れない夜のもだえのために

 ちゃんと睡眠導入剤は飲みました。

 水分も取りました。

 あとは寝るだけです。

 簡単でしょう。

 BGMはチャイコフスキー先生の交響曲第一番です。


 これで寝られないはずがない。

 第二楽章のきもちよい調べが、ぼくを眠りに誘うでしょう。


 なのに、ああ、なぜこんなに苦しいのですか。

 体中が痛い。苦しい。

 うめき声が、湧き上がるのです。

 過去の記憶が身を突き刺してくるのです。

 元部下で、現上司が言っている。

 「仕事できないなら、家に帰れ、出来るようになるまで出てくるな。」

 「え、じゃあ、仕事できるようになったんですか?」

 いや、申し訳ありません。

 思考はゆっくり回復してきていたのです。

 少しづつ、人の応対も戻ってきつつあったのです。

 でも、もう少し、時間が必要です。

 あの、「うつ」や「対人恐怖感」は、水では流れないのですよ。


 職場ではぐったりなのに、病院では元気だったと言って責めるのですか?

「職場を騙しているのではないのか?」

 そんなことないです。


 それよりも、最終崩壊してしまったら、まずいのです。

 僕には、まだやりたいことがあるのです。

 仕事以外で。

 「そうじゃないだろう、やりたいことがたくさんあるって?仕事ができないで、やりたいことがあるなんて、仕事しないで、そんなこと通るわけがないだろう」

 ああ、すみません。そうです。その通りなのです。

 あなたが、正しいのです。

 それは、よくわかっています。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 ああ苦しいです。

 寝られない。

 同じように毎晩責められるのです。

 からだがごろごろ

 お布団の上を転がりまわります。

 敷布団は、ぼくが苦しくてひっかくので、もうずたずたになりました。

 綿さんが、中から噴き出しております。

 そこを、ガムテープで止めています。

 もう一年は干していません。


 そう、これはもう半年以上も前の事。

 すべて終結したことなのですよ。

 もう、苦しまなくてよいのですよ。

 あなたは、職場を離れた。円満にね。

 なぜ、毎晩、それで苦しむのですか?


 でも、そうした、もういろんな声が、いまも音楽に絡まって来るのです。 

 そこで、チャイコ先生の音楽が、なぜか悪魔の調べに同調してくるのです。

 そうじゃない、これはれっきとした、チャイコ先生の音楽ですよ。

 音楽には絡んでこないでください。

 お願いです。

 音楽は音楽。

 音楽を、汚さないでください。

 このままでは、苦しみに悶えながら、地獄に落ちてゆくのです。

 まって、まって、

 ストップ。

 やり直しだ。

 もういちど、最初からね。


 起き上がる。

 電気をつける。

 そう、曲を変えましょう。

 シューベルトさんにいたしましょう。

 ピアノ三重奏曲第二番。

 しみいるような、第二楽章で、眠りましょう。

 

 プレイヤーを「プレイ」にしましょう。

 電気を消しましょう。

 もう一度横になって。

 さあ、静かに休みましょう。

 もう、苦しみの日は、過ぎ去りました。

 最後まで意思を貫けなくて、

 辞職してしまった自責の念が消えてくれることは、

 永遠にないかもしれないけれど、

 間違った判断では無かったと信じたい。

 

 この半年間、毎晩のようにぼくを苦しめてくれる「夢さん」

 僕は知っています。

 あなたの正体は、ぼくなのです。















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「つらくて苦しくて寝られない」 やましん(テンパー) @yamashin-2

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