みんな

エピローグ

「……んちょ。てーんちょ」

 ん? ここは? 僕は何をしてたんだっけ?


「てんちょ。起きてくださいよ。お客さん増えてきたんだから。その席空けてください」

 通る声で叩き起こされた僕は周りを見回す。

 メイド喫茶だろうか。見覚えがあるような、ないような。

 小さいメイドは僕が起きたのを確認すると小さく跳ねて笑い、仕事に戻る。

 ここは、あの『うみねこ』ってメイド喫茶じゃないか。

 ボロボロじゃなくなってるが、確かにそうだ。

 それで、ここに来た僕はこの席でコーヒーを飲んだんだ。そして……。


「ふぇ~ん、て~んちょ~さ~ん。あのお客さんにお尻触られました~」

 と和服の様な柄をしたメイド服の子が僕の元へ来る。

 ふっくらしたメイドの指す方を見ると、アニメのトレーナーを着た太った男がツインテールのメイドを相手にコーヒーを飲んでいる。

「あ、あー。あんた! ていうか何やってんだ」


「ボクはモニター係だからね。メイドさんがセクハラにどう対応するのかを調査していたんだよ」


「てんちょっ。チラシ配りに行って来るから、お小遣いくれにゃん」

 と言って猫耳猫手のメイドがにゃんにゃんと愛想を振りまく。

 え? ああ。と財布から札を出して渡すと口にくわえて出て行った。

 なんでチラシ配りに小遣いが?


「つーか、てんちょーここにいたら邪魔だしー。狭いんだから奥行っててーみたいなー」

 とすごい恰好をした濃いアイシャドウのメイドが、向こうへ行けというように体を押しつけて言う。


 押されるままにカウンターに入ると、隅でノートパソコンを開き何やらカチャカチャ打ち込んでいる男の子に気がつく。

「あれ? 君も……、何やってんの?」

「お店のホームページを作ってるんですよ。時代は情報戦ですからね。あ、当然ですけどみんなのブログを僕が書いてる事は内緒ですよ」

 と眼鏡を上げて言う。

「ていうか……、なんで?」


「生き残れば、ちょっとした富を手にする事も夢じゃないのに」

 と声のする方を見ると黒い貴族服に身を包んだ執事がカウンターでグラスを磨いている。

「あーっ! お、お前」

「それをどこかのお人好しは、みんなの幸せを願ったんですよ」

「ていうかここメイド喫茶だぞ。なんでお前がいるんだ」

 と言うと執事は、胸元に手をかけて引き下げ、その中を見せる。

「僕は男装してるだけです」


「ああ、そう。……悪い」

 でもやっぱり執事は執事、メイドじゃないだろ、と思うが女ならいいか、となんか納得してしまった。

「ここはやっと開店しただけなんで、忙しいんですよ。むこう行っててください」

 やっぱりこいつ好きになれないな……、と思っているとドアが開き、髭を蓄えた老人が入ってきた。

「チェコフさん?」

「やあ、君が新しい店長だね。私がこの土地の所有者だ。ちゃんとやってるようだね。色々なメイドを集めた『メイドの城』。聞いた時はどうかとも思ったが、繁盛しているようじゃないか」

 と書類を置くとまた来ると言い去って行った。

 ていうか、僕が店長?

「おーす、店長! 搬入終わったぜぇ」

 と金のネックレスをしたラフな格好の男が入ってくる。入るなり携帯が鳴り「失礼」と言って電話に出る。

「ああ、もうすぐ終わる。今日は早く帰るよ。ああ、静音。天音はどうしてる? 寝てるか。そうか、分かった」

 と携帯を閉じる。

「そんじゃ、お先ー。……おーい、稲葉ぁ。サボんじゃねぇぞ」

 裏から「へーい」という声が聞こえ、車が走り去る音がした。


「テンチョさん。新しいスイーツ作ったね。試食してほしいヨ。今夜ワタシの部屋に来て。来るときっとイイ事アルヨ」

 チャイナ服のメイドが胸を寄せて言う。答えようとすると、厨房からごく普通のメイドが姿を現す。

 セミロングの素朴なメイドは澄まし顔でコーヒーを客席へ運ぶ。

「あ、あの……」

 帰ってきたメイドに声をかけるが、やはり澄まし顔のまま厨房へ戻って行った。

 厨房を覗き、洗い物をしているメイドを見る。


「わたくしだけじゃなかったんですか?」

 洗い物をしながらメイドが言う。


「ああ、……うん」

 なんと答えたらいいのか分からず、恐る恐る後ろから近づく。

「あんな無茶をするなんて」

 いやぁ、あの時は夢中で……。

「そのおかげで、みんなの願いが一つになったんですけどね」

 そうなの?

「おかげでみんな出て来ちゃいましたけど」

 僕にも何が何だか。


 洗い物の手を止め、メイドが振り返ると笑顔で言った。

「でも恭助の、そういうところ……、好きよ」

 首に腕を回し、背伸びをする。



 賑やかな店内では、古びたスピーカーから唄が流れる。

 悲しげだけど、優しい、感謝を伝える唄。



 今 あなたに伝えたい事


 わたしから あなたへ 気持ちを詩(うた)にします


 ほかには 何もできないけれど 唄いつづけ


 笑顔で 元気に わたしらしい感謝の気持ちをメロディに


 今ここで唄える事を噛みしめながら


 今ここで踊れる幸せを抱きしめながら


 そう


 ありがとう

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メイド DE ナイト 九里方 兼人 @crikat-kengine

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