Modern Knight

 金切り声の様な轟音を上げて、黒い機体が前を横切る。

「デコイでいつまでも誤魔化せません。確率の問題です。いつ当てられてもおかしくない」

 相手の武器はレールガンだとアルカは言う。確か磁力で弾丸を打ち出すんだよな。

 物凄い弾速と連射速度のせいで弾丸の軌道がまるでレーザーのようだ。

 しかも射角を前方約三十度くらいに変えられるようで、剣で薙ぎ払うように攻撃しながら通り過ぎて行く。

 レールガンってあんなんなの? とも思うがここは現実世界ではないのだ。ここまで来たら何でもアリだな。

「速度はあっても制動性は無いようですね。背後を取ってきません」

 ぱしゅっと相手のエンジンが僅かに咳き込むと速度が落ちる。アルカはその隙に背後を捉える。ただ逃げていたわけではなく、相手の高速飛行限界をちゃんと計算していたようだ。

「作戦は理解できました?」

「ま、まあ大体ね」

 ウミネコターンに気をつけなくては、と考えながら降下する敵の後を追う。敵機は降下から機首を上げ、宙返りのように上昇。

 デコイがあるとは言え、攻撃しようと背後に付いた機影が本物なのは自明の理。

 背後につくのもリスクがあるが、上昇中は横回転であるウミネコターンは使えない。

 ぐっとボタンに掛ける指に力を入れようとすると……、相手の機体はそのまま縦に回転する。

「!?」

「きゃっ!」

 とっさに操縦桿を倒し、機体を回転させるも激しい衝撃。

「被弾! 右エンジン停止! 右レーザー、二門破損」

 縦にも回転できるのか。僕のウミネコターンよりも遥かに恐ろしい。これでは背後を取れない。

 エンジンは二機、そのうちの片方をやられた。元々大型機に分類されるこの機体では飛行船並みの機動力になったかもしれない。

 相手は本物を見失わないようにするためか、高速飛行せずに背後から近づく。相手も低速飛行は不得手、ゆっくりとこちらに機首を向けるが、まだ射角には入っていない。

 背後から前方に向かって線が伸び、こちらの左翼の端を削る。

 今のが射角限界らしい。そして機動性が更に落ちた僕達は完全に射角に捉えられた。相手が勝利を確信して攻撃する瞬間。

 使えるレーザーは三発、後は冷却中だ。速すぎても遅すぎても駄目だ、反撃のタイミングは今しかない。

 ガコン、という音と共に視界が横へスライドし、敵機が目の前に現れる。

「アルカターン」

 小さく「かっこ仮」と付け加える。アルカが僕の右手に手を添え、スティックを操作する。

 反転して完全に後ろを向いたキャノピーから、ウミネコの姿を正面に捉えた僕は、立て続けにボタンを二度押す。

 パシパシッと閃光と共に光線が屈折して背後を攻撃、上部二つのエンジンを貫いた。

 エンジンが爆発し、態勢を大きく崩した敵機は墜落を始める。


「ウミネコッ!」

 操縦桿を前に押し下げ、下降する機体の後を追う。

「ご主人様っ!? 無理ですよ」

 下降と言うより共に墜落するような勢いで落ちる機体は激しく振動する。

 ガタガタと揺れる視界の中で、レーザーの照準を調整する。狙いはコクピット……、のやや後ろ。

 ライフルの形をした起動キー。直線に撃ってはコクピットを貫いてしまう。当てられるのか? と考えている暇もない、当てられなければウミネコは死ぬだけだ。曲げ方はさっきので分かった。

 息を止めて、発射ボタンを押す。

 閃光が走ると、敵機のキャノピーが開き、人の形をしたものが外へと投げ出された。


 操縦桿を引き、機体を人影に近づける。ウミネコの体が上昇する方が速い、間に合うのか?

「キャノピーを開けてくれ!」

「無理です! 帰還しないと開きません」


 スティックを操作する。

「ご主人様っ! 何を?」

 同じようにキーは破壊できない。そんな事をすればこちらも制御を失う。

 レーザーの軌道は……。

 目を閉じてボタンを押す。

 パッと瞼を通しても眩むような激しい閃光と共にキャノピーが砕け散った。

 破片で頭を怪我したのか赤い色が周囲に飛び散ったが、気にせず身を乗り出して手を伸ばす。

「ウミネコッ!」

 ウミネコは意識を失っているようで反応しない。

 冷却中だったレーザーを無理に撃ったために翼が爆発。アルカも精一杯、制御を試みるが機体は墜落している。

「ウミネコーッ!」

 僕は機体を掴んでいる手を放した。

 体が投げ出され、宙に舞う。精一杯に伸ばした手は、徐々にウミネコに近づいて行く。


 ウミネコ。ごめんよ。君が死ぬのなら。僕も一緒に逝く。

 勝っても、君がいないのなら。そんな世界に意味はない。


 周りの音が消え、時間がゆっくりと流れるような気がした。

 ウミネコが、最初に歌ってくれた、あの歌を思い出す。

 悲しいような、寂しいような、感謝の気持ちを唄った歌。ウミネコへの感謝の気持ちでいっぱいになる。


 二人の手が触れ、世界は二人だけの物になる。


 ウミネコはゆっくりと目を開けた。


「きょう、すけ?」

「ウミネコ、……ごめんよ。僕には君だけだ」

 ウミネコは笑って目を閉じ、

「また、そんな事言って……」


「本当だ。もう他のスイーツは食べないよ」

 ウミネコは僕の額に、額をくっける。ウミネコの顔が間近に見える。

「じゃあ、今度浮気したら……」


 片目を開けて、

「コロしちゃうぞっ」

 と言って舌を出す。


 辺りは眩いばかりの光に包まれた。

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