第三話 『エール街』
振り向いた先に村で別れた筈のシャイナがいて俺は、驚きが隠せずに混乱していた。
一体、どういうことなんだ!?
確かに先日、彼女とは言い争いになり別れた筈だった。
「どうして、シャイナがここに……?」
「だって、ランスロットってステータスがスライムやゴブリンより低いでしょ?だから私が、いた方がいいと思ってね」
そうやって彼女は悪びれもせず、ウィンクをする。
確かに昨日までの俺ならそうだったが、今の俺は違う。
なんて言ったって『強欲』のスキルの発動条件が分かったのだから。
しかし、このことをシャイナに話してしまって良いのだろうか?
「って、ランスロットちゃんと話聞いてる!?」
「え?……ああ、すまん。で、何だっけ?」
「もう、ランスロットはこれだから……これからどうするのって話よ!」
「ああ……隣街に行って土木工事の仕事でもするよ。今の俺にはそれしか残されていないしな……」
「それなら私もついて行っていい?」
「駄目だ……それに、昨日も言った通りシャイナがいなくなると、シャイナの両親も心配するだろ?」
俺の問にシャイナは「それは……」と口を尖らせる。
まぁ、俺自身のステータスは低いから、シャイナがいれば役に立つのは間違いないだろう。
だが、昨日と同じく俺一人の為に彼女を危険に晒すわけには行かない。
「ん?そう言えば……シャイナは道中モンスターに遭遇しなかったのか?」
これは、俺の中での素朴な疑問だった。
何故なら、シャイナは服装や髪に乱れが無く、とても争った形跡が無いからだ。
モンスターに見つからない様に、匍匐前進ほふくぜんしんで進んでいた俺でさえ、スライムと遭遇してしまったのだ。
はっきり言うと、遭遇しない方がおかしいのだ。
するとシャイナは、
「ああ、それなら私は下級魔術師で魔法が使えるからスライムやゴブリン位の弱い魔物なら無傷で倒せちゃうんだよね……」
「え、マジか……」
照れ臭そうに頭を触るシャイナの言葉に、俺は驚きを隠せないでいた。
シャイナが下級魔術師なのは分かっていた。
しかし、村から一歩も出たことが無い箱入り娘が魔法を使えるのは驚きだった。
よし、試しに先程手に入れた鑑定スキルでも使ってみるか。
シャイナ・ハンスLv.5
・体力:23/23
・魔力:20/43
・攻撃:20
・防御:13
・魔攻:42
・魔防:14
・俊敏:22
職業:下級魔術師
スキル:『治癒』『魔法攻撃』『魔力増強』『ファイアボール』『ウォーターボール』『サンダーボール』『ウインドボール』
成程、ステータスは意外と高いな……特に魔力と魔攻が異様に高い。
恐らくスキルにある『魔力増強』と『魔法攻撃』のお陰だろう。
魔法スキルはどれも下級の魔術だけど、この辺りではスライムやゴブリンしかいないから、結構役に立つ。
「どうかしたの?ランスロット……」
「ああ、ちょっとシャイナのステータスを鑑定しててね」
「え!?ランスロットって鑑定スキルなんて持ってたの!?」
「え!あ、ああ……色々あってな……」
俺は話すかどうかを戸惑うも、シャイナに全てをうち明かした。
そして、シャイナは俺の話を聞き、納得した様に頷くと、こう言った。
「ってことは、ランスロットって今ステータスはALL1じゃないの?」
「多分……ステータスを確認してみないと分からないかな?」
「じゃあ、やってみてよ!」
俺は、シャイナに言われるがままに鑑定スキルを発動する。
ランスロット・カーストLv.1
・体力:50/50
・魔力:50/50
・攻撃:50
・防御:50
・魔攻:50
・魔防:50
・俊敏:50
職業:無職
スキル:『強欲』『鑑定』
(え……!?)
俺は、目の前に浮かんだ自分のステータスを見て唖然とする。
それもその筈、俺のステータスは明らかにシャイナよりも高い。
「どうかしたの……?」
「いや……俺のステータスが明らかにおかしいんだ……ALL50なんて異常だ……」
「ALL50!?ってことは……私よりも高いの!?」
「まぁ、そうなるな……」
シャイナはありえないと言った様な表情で俺を見つめる。
まぁ、当たり前だよな。
なんて言ったって俺は、昨日までステータスALL1の雑魚だったんだから。
鑑定スキルはともかく、俺の能力は飛躍的に伸びていることは間違いない。
ってか、スライム倒すだけでステータスALL50とか……ちょっとは自重しろよ。
(まぁ、これでシャイナが俺に付いて来る理由も無くなった訳だし……)
俺はそう思い、シャイナの方を見る。
しかし、
「ランスロット〜!早く行かないと置いて行くよ〜!」
「え?」
何故かシャイナは、俺より先に隣街の方向へと歩いて行っていた。
それを見て俺はしばらくの間、呆気に取られて動けなくなる。
「どうしたの?ランスロット、早く来ないと本当に置いて行っちゃうよ?」
シャイナは呆れた様子で、俺の方へと戻ってきてそう言った。
正直な所、今のシャイナは俺達が小さかった頃の様に、楽しそうな表情を浮かべている。
今の彼女に、「村へ戻れ」なんて言える訳もない。
(ああ、俺自身のヘタレさが嫌になるよ……)
「?ランスロット、具合でも悪いの?」
「いや……問題ない」
「なら、早く行こうよ!隣街だから、エール街ね!」
「う、うん……分かったよ」
そう言って俺は、シャイナに手を引かれながら隣街の方向へと足を踏み出した。
*
シャイナと共に歩き出して約1時間が経ち、俺とシャイナは無事に隣街のエール街に到着した。
道中、ゴブリンやスライムなんかと何度も遭遇したが、俺とシャイナの敵ではなかった。
(この街は、俺が忌み子だってことを誰も知らないんだよな……)
そう思い、俺は街の風景を見回した。
しかし、誰一人俺を睨みつけたり、文句を言ったりするやつは見当たらない。
……住みやすそうな街だな。
「おう、若いの!オメェ、見ねぇ顔だなぁ……さては、他所から来たやつだろ!」
「は、はぁ……そうですが……貴方は?」
いきなり声を掛けられ驚くも、即座に返事を返し後ろを振り向いた。
するとそこには、ムキムキなオッサンが立っていた。
一瞬、俺は「うっ」と声を上げるが、オッサンは俺の顔を見てニヤリと笑う。
「成程……レベル1でそのステータスとは……オメェ、ただモンじゃねぇな……」
「まさか……鑑定スキルを!?」
「ああ、悪いがちと拝見させて貰ったよ。だが、それにしても、不可解なこともあるもんだなぁ……」
まずい。
俺の心の中でそんな呟きがこだまする。
鑑定スキルを使われたということは、俺の一番知られたくなかった『強欲』スキルを見られたということになる。
(ああ、油断した俺が馬鹿だった……もうこの街では暮らせないな……)
俺が鑑定スキルを使われ、心の中で絶望の声を挙げたその時だった。
「まさか……スキル欄に『エラーが発生しました』なんて文字が映るのは初めてだ」
「……え?」
「それにしても、エラーを起こすスキルなんて見たことも聞いたこともねぇ……隠蔽スキルとは桁違いのスキルだな、こりゃ。」
待てよ……スキル欄に「エラーが出た」ってことは、俺のスキルは見られてないってことか?
どちらにしろ、俺は助かった様だな。
それにしても……俺の『強欲』スキルは、鑑定では視認出来ないってことか……。
どちらにしろ、俺にとっては得な情報だ。
鑑定スキルで視認できないとなると、俺の『強欲』スキルを把握する手段は、ほぼ皆無ということだ。
「それにしてもオメェ、鑑定スキルが通用しねぇ程の強者ってことか?それにしては、レベルが1だったりと弱そうだが……まさか、祝福からの『固有スキル』か?」
「いえ、俺のスキルは『固有スキル』なんかじゃありませんよ……道中、手に入れたスキルです」
「そうか……『固有スキル』なんて女神様からの加護を受けた奴しか貰えないらしいからな」
成程、『固有スキル』の話は俺も小さい頃、よく亡くなった父親から聞かされていた。
『固有スキル』、別名『ユニークスキル』は、その名の通り「個人が唯一所持するスキル」のことだ。
因みに、自慢では無いが俺の『強欲』スキルも数少ない女神からの祝福を拒んだ者の『固有スキル』となる。
まぁ、『固有スキル』を持ってるとなれば、小さい頃から周りからちやほやされるのが当たり前だが、俺の場合は小さい頃から老若男女問わず、石を投げ続けられたな……。
まぁ、俺の場合は女神の敵対者である、『禁忌の大罪スキル』持ちだったから、仕方の無いことだろう。
しかし、この街ではシャイナ以外は誰も、俺が大罪スキルを持った忌み子だなんてことは知る由もない。
「ランスロット〜!これ!これ!」
「ん?なんだ……?」
俺とオッサンの話を割り込み、シャイナがこちらに何かを持って走って来た。
てか、お前今まで何処に言ってたんだ?
シャイナは、余程の距離を走って来たのか、俺の前で膝に手をついて深呼吸をする。
「おい、どうしたんだ?嬢ちゃん……そんなに慌ててよ?」
「え?誰?」
(まぁ、そうなるよな……)
俺は、心の中でシャイナの言葉に頷くと、彼女の持っている物に視線を落とした。
それは、何かのビラの様だった。
おっと、このままだとオッサンの自己紹介が始まるパターンになるから、何か話さないとな……。
「それより、シャイナの手に持ってる物はなんだ?」
「え?ああ……これ?なんとね……冒険者ギルドの冒険者募集のビラよ!」
嬉しそうな、シャイナの声が俺の耳に響く。
こんなに楽しそうなシャイナを見るのは、本当に久しぶりだな……。
それより……、
「冒険者ギルドって何?」
「「え?」」
俺の言葉に、シャイナとオッサンは声を揃えて固まる。
やべ、俺今なんかマズイこと言ったかな?
そして、
「「えええええ〜!?」」
その瞬間、シャイナとオッサンの驚きを乗せた叫び声が、俺の耳元で鳴り響いた。
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