第二話 『スライムって強くね?』
――俺は今もの凄く強いモンスターと戦闘している。
俺は父の形見の剣を持ち、戦っているがそいつは俺のスピードより速く、俺の攻撃が中々当たらない、たまに当たる攻撃も全然効いていない。
そいつは小さくて全身が水色に包まれ、ぶよぶよした肉体を持ち、そのうえ、俺以上のスピードとパワーを合わせ持っている。
そう、そいつは――スライムだ。
「くっ!村出た途端にこれかよ……」
俺はこのスライムを父親の話でしか聞いたことがないが、親父の話ではスライムは魔物の中でも最下級の強さの魔物と聞いた。
だが、目の前のそいつは見た目が明らかに父親から聞いたものと一緒なのに、最下級とは思えないほど強い。
しかし、俺のステータスはALL1であることは間違いない。
この最下級のスライムでも流石にALL1よりはステータスが高いということだろう、だが俺にとってそれはこいつを倒したとしても、こいつ以上の魔物に出会えば即死ということになる。
「もう、どうとでもなれ!」
そうやって俺は、スライム目掛けて渾身の一撃を放った。
見事その一撃はスライムに命中し、スライムを真っ二つにすることが出来たが、目の前で信じられないことが起こった。
「ぶ、分裂した……!?」
俺の渾身の一撃を嘲笑うかの様に分裂したそいつは、俺に攻撃を仕掛けにかかった。
もちろん、呆気にとられている俺にそれを避ける様な余裕はなく、抵抗むなしく、スライムの攻撃を自分の身体に直撃させてしまった。
俺は分裂したスライム二体の直撃を受け、地面に背をつけ、無様に倒れこんでしまう。
それを、嘲笑うかのようにして、分裂した二体のスライムは倒れこんでいる俺の方向へと刻一刻と迫ってきている。
「ちくしょー……こんなところで」
死にたくない――その言葉を口から出そうとした時だった。
俺以外の『全て』がまるで時が止まったかの様に動かなくなり、俺の頭の中に無数に『死にたくない』という文字が浮かび上がり、頭が割れる様な頭痛がし、頭の中が真っ白になった。
――そして、無機質な男性の声が頭の中で響く。
『お前の望みを言え』
(俺は……まだ……死にたくない……)
『ならば、強欲であれ』
その声と同時に、止まっていた俺以外の『全て』が再び動き始めた。
しかし、それと同時にまたもや頭の中で文字が浮かび上がる。
『ステータスが上昇しました』
それとの文字が頭の中で浮かび上がると同時に、まるで身体の芯から力が湧いてくる様な感覚に襲われた。
しかし、分裂したスライム達は俺を待ってはくれない。
俺は近づいてくるスライム達に気づき、急いでその場から立ち上がる。
――おかしい。
スライム達が――先程まで機敏に動いていたはずのスライム達の動きは先程とは違い、驚く程に遅く、のろまになっていた。
「ど、どういう事だ?」
何が起こったか理解できない俺の額から汗がこぼれ落ち、それと同時にスライム達が攻撃を仕掛ける。
しかし、スライム達の動きは相変わらずのろまであり、俺はそれをいとも簡単にかわす。
そして、かわされたことに驚いているスライム達のうち、一体を剣で縦に斬りつける。
すると斬られたスライムは、先程同様に真っ二つになる。
「え……?」
――だが、斬りつけられたスライムは真っ二つになったと同時に、身体が飛散する。
それを見た、もう一匹のスライムは唖然としてこちらに目を向ける。
しかし、俺も目の前で散発したスライムを見て唖然とし、そのままもう一匹のスライムを見る。
目と目が合う。
その瞬間、もう一匹のスライムは身の危険を感じたのか身体をビクッと震わせ、反対方向の草の茂みの中へと逃げていった。
片やスライムは俺の攻撃で謎に散発し、片やスライムは散発した半身を見て俺と戦うことを諦め、草の茂みの中へ消えた。
そして、残された俺はこう呟いた……。
「一体、何なんだよ……もう……」
*
俺は先程スライムと交戦した場所から数時間程移動した場所にある、岩に腰を降ろす。
道中、ずっと散発していたスライムの事を考えていた。
……いや、誤解しないで欲しいが俺は「スライムに恋をしました」的なラブコメみたいなことは考えてないぞ?
ただ、どうも先程のスライムが散発したのが、無機質な男の声と頭の中に浮かび上がった『ステータスが上昇しました』っていう文字と関係があると思って考えていただけだ。
もしも、本当に俺のステータスが上昇しているなら、「俺の攻撃でスライムが散発した」というので納得がいく。
しかし、問題は何故俺のステータスが『上昇したのか』ということだ。
レベルアップはしていないし、普通に考えても、俺のステータスが上がる様なスキルは見つからない。
……てか、俺のスキルって『強欲』しかないし。
「ん?待てよ……まさか……」
そこで、俺は思い出した。
あの頭に響く無機質な男の声は確かに、『強欲であれ』と言っていた。
つまり、このステータスが上昇しているという摩訶不思議な現象は俺の唯一のスキルである『強欲』が関係しているということになる。
しかし、もしそれが本当だったとしても俺は『鑑定』スキルを持っていないので、確認のしようがない。
それでも、今までこのスキルがあるだけで、スキル自体の効果が分からず、使えないどころかこのスキルを持っているだけで忌み子扱いされていた。
その『使えないスキル』が『使えるスキル』になったとするなら、少なくとも俺にとってはとても有難いことだった。
忌々しいスキルだが、使えないよりは幾分かはマシな筈だ。
それにしても、このスキルの発動条件が分からない。
もし、俺の仮説が正しいのなら、今まで使えない無能スキルだと思っていた『強欲』スキルは、本当は強力なスキルだということだ。
こんな時に、鑑定スキルがあれば何とかなるのだろうが、俺にはそんなスキルを手に入れる手段が存在しない。
(嗚呼……鑑定スキルが欲しいな……)
俺はそう心の中で、愚痴を言った時だった。
またもや、頭の周りが時間が停止したように動かなくなった。
そして、頭の中で『欲しい』という単語が無数に飛び交い、頭が割るような頭痛に襲われる。
(これってまさか……!?)
俺は一瞬、頭痛を抑えながらそう考えたが、どうやら違う様だ。
何故なら、先程は頭痛は一瞬だけだったが、今回は軽く10秒は続いている。
これだけ時間が経っていても、頭痛は鳴止む素振りを見せない。
つまり、かなりヤバイ状態だ。
俺は頭痛を抑えながら、痛みに耐えきれずに地面にうつ伏せになる。
何で……こんなことに……。
俺は痛みの余りに、涙を流した。
その時だった。
『お前の望みを言え』
その無機質な男性の声と言葉が聞こえ、先程の頭痛が嘘のように消えていく。
俺はその声を聞き、安堵のため息を吐く。
しかし、それも束の間、俺の頭の中が急に真っ白になる。
(鑑定スキルが欲しい……)
『ならば、強欲であれ』
その声と同時に、停止していた周りの時間が再生される。
それと同時に俺は、正気を取り戻し、むせ返った。
『鑑定スキルを会得しました』
むせている俺の頭の中で、文字が浮かび上がった。
……どうやら、このスキルは望むことで発動するスキルの様だ。
俺は、ポケットからハンカチを取り出し、むせ返ったせいで唾液まみれの口を拭いた。
そして、その場に座り込むと、深く深呼吸をした。
俺は亡くなった親父との会話をじっくりと思い出す。
それは、俺がまだ子供だった時に親父が話してくれたスキルについてのことだ。
それは、強力なスキルは1日に『使用制限』があるということだ。
その『使用制限』を超える回数スキルを使用すると、代償に酷い頭痛が起きるという。
つまり、俺の『強欲』というスキルは使用制限が1日に1回ということだ。
「成程、今度から気を付けないといけないな……」
「何の話?」
「ああ、スキルのことで……ってうわ!?」
俺は、後ろから聞こえてきた少女の言葉に思わず返事をするが、すぐに後ろを振り向き声を上げた。
何故なら……。
「ランスロットったら、酷いっ!……昨日の今日でもう私のこと忘れちゃったの?」
「な、何でここに……?」
「ランスロットが心配だからよ」
俺が振り向いた先にいたのは、ニコッと笑っている幼馴染みのシャイナだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます