第3話

「あの‼︎ 私、古谷 凪っていいます」

私はソファーに座って先生の旦那さんに自己紹介した。

旦那さんは私を見てにこっと微笑んで

「僕は狭間 力弥です。君の裁縫の先生の…佳奈の夫です」

と名前を教えてくれた。

力弥さん…力弥さんね。

覚えた。

力弥さんは私にお茶を持ってきてくれた。

一口飲むと何のお茶なのかすぐに分かった。

「ジャスミンティー…」

思わずそう呟くと力弥さんは驚いたように私を見て

「良く分かったね。ジャスミンティー好きなのかい⁇」

と聞いた。

私はひと呼吸おいて、

「先生がいつも出してくれるんですよ、このジャスミンティー」

と答えると

「そうかそうか」

と力弥さんは笑いながら言った。

「佳奈はジャスミンティーが好きでね」

と言って瓶の中から大きい種のようなものを取り出して私に見せた。

「これ、何だか分かるかい」

「種…ですか⁇」

そう言ってからもう一度よく見ると何だか種の様なものは開きそうな感じがした。

力弥さんはポットを持ってきてその中にそれを入れた。

そしてお湯を注いだ。

「うわぁ…」

お湯を注ぐとお花が開いた。

とても綺麗で少しの間見惚れてしまっていた。

「びっくりしただろう⁇」

「はっはい‼︎ とても綺麗で…びっくりしました…」

「これは中国茶の一種で工芸茶っていうんだよ。佳奈は花が開く瞬間が本当に好きでね…いつもこのジャスミンティーを飲むんだよ」

何だか嬉しそうな、そして寂しそうな複雑な表情をしてた。

このジャスミンティー…先生に持って行ったら、喜ぶかな。

そう思って力弥さんの方を見たら種のようなもの(お花が開くから蕾かな…)を鞄に入れてるのが見えた。

やっぱりもって行くんだね。

いつも持って行ってるのかな。


懐かしいなこのジャスミンティー。

彼女が入院してから一度も飲んでいなかったもんな。

何だか落ち着くよ…。

そうだ。

彼女に持って行ってあげようか。

きっと彼女も飲んでいないだろう。

病院でこのジャスミンティーが出るなんてまずないだろうから。

飲みたがっているかな。

飲みたがっているんだろうね。

持って行ってあげよう。

僕は蕾を小さい瓶に入れて鞄の中にしまった。

無意識のうちに微笑んでいた。

古谷さんに見られてないかと心配したけどポットの中の花を見ていた。

少し短く息を吐いて、

「よし、行こうか」

と言った。

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君と。 @Cyanmio

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