不便なんだけど……繋がりが深い時代の物語

この小説に対してのレビューは他の方が多々しているので、別の視点から紹介します。

この「ひと夏の妹」の時代には、LINEどころかEメールもありません。タキが作中に言っていた通り、この頃の「携帯」は特別な物でしかもお高い物でした。
その代わり、もう廃れてしまった「PHS」や「ポケットベル」がありましたが、それも持っているのは一部という1人1台スマホ狂時代の現在では想像しにくい世界です。

そういう世界では、新しく出来た他の学校の友だちとかには「また明日、この場所で」と約束します。ゲーセンなら「また明日、この台で対戦しようぜ」とかですね。ひょっとしたら、もう会えないかもしれない……細い糸みたいな約束なんですが、不思議なことにこの時代ではまた会えるのです。
そういう言葉が意味を色濃く持つ時代、と言ったら言い過ぎかもしれませんが、今では考えられない時代とも言えます。

これらを念頭に置いて、この「ひと夏の妹」を見ると、また違った視点で楽しめると思います。
不便で、不安定で、不確かだけど、人との繋がりが深い時代を楽しんでください。