殺意のエーテル

@momonosaida

第1話 覚醒にいまだ、至らず

 物心ついた時から、ぼくは額縁に収まる神様にお祈りをささげていた。

教えられた通り、お行儀よく、いささかも疑問を抱かずに。

よくもまあ、毎日サボらずに続けられたものだなぁと呆れにも似た感情を覚え、

わが身のこととはいえ、その無知と純粋さにぼくは今でもため息をついてしまいそうになる。

 信じられないかもしれないが、それがぼくらの日常であり、いわゆるぼくらに

とっての〝フツー”だった。そう、それ以外を知らなかったのだ。無知というのは恐ろしいものだ。想像を絶する。

 ぼくらというのも、両親は戦前に、全人類の幸福と安寧を実現するため結成されたらしい、新興宗教【ブレイク・ラベル】の信者だった。まあ。そう。

――今も、だけど。


 もともと病弱だったぼくの将来に悲観した両親が、知人からの紹介で信仰の道に入ったのがすべてのはじまりだった。それと同時に一つの終わりを告げた時でもあったのだ。

 そうは言っても――。

彼ら――従順な羊たる、信者たちにはまるでわかってもらえないだろう。

きっと、立美さんの息子さんは悪魔に取りつかれているのだろうと、哀れなものを

見るかのような目で、善良そうな顔でわざと優しくするのだろう。

 ああ、あーあ。

 アーメンとでもいえばよいのか。

 両手を組み、床に膝をつき、助けを乞えとでもいうのだろうか。


――いったい誰に? なにゆえに?



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