第6話 世界の裏側

その日、私は夢を見た。

少女が永遠となってしまった時間じんせいを一人ぼっちで走り続ける…そんな夢を。

いつもだったら起きたら一笑していたであろう内容だったが、その時はどうにも笑えなかった。

むしろ誰かの過去を覗いているような…そんな不思議な気持ちだった。

不意に、夢の中の彼女は私の方を振り向いた。

そして…………


私が目を覚ましたのは医務室のベットの上だった。

時計を見ると、夜中の三時過ぎだった。

丸一日寝ていた計算になる。

「あはは、まぁあんなことした後じゃしょうがないか…」

白塗りの壁と天井、腕に繋がれた点滴からは魔力が流れ込んで来ていた。

「アイタタタ…身体中が痛い…それになんかだるい…」

ふと、横を見るとベットサイドには疲れ果てて眠っているさくらの姿があった。おそらく、この点滴の魔力はさくらのものなのだろう。どこか優しい感じがした。

「…ありがとね、さくら」

私はそう呟くと、迫り来る眠気に身を投じた。


「…ちゃん、瑠花ちゃん、起きて」

「ん…くぅ…」

私は、まだ残っているだるさをなんとかねじ伏せて身を起こした。

「さくら、おはよう…」

「おはよう、瑠花ちゃん。昨日はよく眠れた?」

「お蔭さまで。ありがとね、魔力分けてくれて」

「それくらいどうってことないよ。それより、身体の調子はどう?動けそう?」

私は、ベッドの横に立った。長く寝ていたせいだろうか。少し立ちくらみがした。

「瑠花ちゃん、ほんとに大丈夫?」

「これくらい大丈夫だってば」

そう言うと私はその場で腕を回したり、屈伸をした。

「それで、さくらどこに行くの?」

「あぁ、そうだった。ちょっとついてきて貰えるかな?」

なんか少し怖いが…乗りかかった船だ。今更逃げるわけにはいかない。

「分かった、すぐに行こうか」


私が連れてこられたのはが円状に並んでいる場所だった。

その中の九席には既に人が座っていた。

「お、やっと来たか。改めて、ようこそ帝国軍特殊部隊。通称︰殲滅部隊へ」

…思ったことを言おう。すっごい怖いです。

「ああ、自己紹介がまだだったね。では、一人ずつしていこうか」

「ですねー、じゃあまずは僕から。改めて〈歌姫〉こと柏木さくらです。よろしくねっ、瑠花ちゃん」

そんな風にさくらが自己紹介をしてきた。

「んじゃあ、次は俺だな。俺は海原燐翔うなばらりんとだ。コードネームは〈暴王〉。一応、ここの隊長やってるがまぁ、気軽に燐翔って呼んでくれ」

ふむふむ、この人がさっきの隊長さんか。

「はぁ…俺は〈守護〉の高山和人だ。よろしく頼む」

「おいおい、それだけかよ。他になんか言う事あるだろ?」

そんなふうに燐翔さんが茶化してくる。

「まぁ、いいや。次誰だ?」

「あ、じゃああたしが。私は川霜菫、コードネームは〈剣聖〉だ。これから宜しくな」

「わしは〈参謀〉の林藤昂りんどうのぼるじゃ。よろしくな、瑠花ちゃん」

そう言うと、おじいちゃんは最高の笑顔を私に向けてきた。

「…じいさん、ちょっと気持ち悪いぞ?」

「うるさいわっ!りん坊は黙っとれ」

「ふふっ…面白いね。さくら」

「でしょ?」

「あのー…もういいですか?私はローリス=ハルトマンです。コードネームは〈魔女〉です。ちなみに遠くの方から来たのでこんな名前です」

こっちの方はとっても生真面目そうな方だなぁ…

「…私は、コードネーム〈暗殺〉夕闇霧ゆうやみきりだ。よろしく頼む」

こっちは、無口そうだな…

で、次の人は…なんかヤバそうだ。

だって、めっちゃ藁人形持ってんだもん。

「私は、神田薫かんだかおる。コードネームは〈死者〉ですわ。特性魔術は死霊術ネクロマンスですわよ」

「ふふっ、僕は〈奇術〉のコラリス=ラークさ。よろしくね」

こっちの人は、道化師ピエロみたいだ。

「私で最後みたいですね。鈴蘭叶美すずらんかなみ、コードネームは〈幻惑〉ですぅ。よろしくね、瑠花ちゃん」

「うし、全員終わったみたいだな。改めて瑠花ちゃん、いや舘風瑠花。君の力を私たちに貸してくれないか?」

「それって…具体的にどういう事をすればいいんですか?」

ふと疑問に思ったので聞いてみた。

「そうか…まだ何も話していなかったな。」

そして、私は燐翔さんから大まかな内容を聞いた。

曰く、この部隊は帝国の切り札であるということ。

曰く、帝国内の犯罪組織〈ラグナロク〉と戦うということ。

曰く、たまに国際紛争にも駆り出されるということ。

まぁ、要するに命をかけた仕事らしい。

「それって断ったらどうなるんですか?」

私はほんの出来心で聞いてみた。命は大切だから。

「記憶消去の対象だな」と、和人さんは言った。

「…分かりました。私、やります!」

「了解だ、瑠花ちゃん。早速だが…コードネームはどんなものがいい?」

「それって、自分で決めていいやつなんですか?」

「まぁ、うちは特殊だからねー」

と、菫さんが茶化したような口調で言ってきた。

「え、じゃあ…私は〈奏者〉がいいです。ずっと瑠花ちゃんの隣に居たいから…だって、〈歌姫〉の隣には〈奏者〉がいるから…」

それは、私の素直な気持ちだった。

「…分かった、これから宜しくな。〈奏者〉」

「はいっ!こちらこそよろしくお願いします!皆さん」

この時の私はまだ知るよしも無かった…

この世界がどれだけ汚れているかに…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつか世界が消え去る前に 宵月アリス @UTAHIME

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ