衝動的だ。
猿の退化系
車道
私は車が嫌いだ。なぜか。私が車に乗らないからだ。これを聞いて「自己中心的だな」と思った人がいるだろう。だがちょっと待って欲しい。そもそも本来人類は、というか生物は、自動車なんて使わない。それなのに、人間は自然を破壊し、アスファルトで舗装してこの世界を自分好みにカスタマイズしていった。車に乗らない私と車に乗る人間、どちらが自己中心的かは最早自明ではないだろうか。
しかしながら今のご時世、外に出れば必ず車が目に入る。毎日仕事に向かうたびにストレスがたまる。
イライラしながら仕事場に到着。今日もいつも通り死にたい。
あーあ、金だ。仲間だ。責任だ。またしてもクソ面倒なことに縛られている。仕事中は嫌な顔をせずに上司の話を聞き、部下の面倒を見て、自分の目の前に積まれた大量の仕事もこなしていく。これをやめるともう生活ができなくなる。私は、まるで何もおかしいことはないような表情で当然のようにこの社会のルールに馴染んでいる奴らを全員殺したいと思う。この大きな力をなんとかして崩壊させたい。そしてこんなことを考えながらも、表向きはやっていけている振りをしている自分を誰よりも殺したい。
時計の針が12時を指し、ようやく激務から一旦解放される。昼休憩だ。昼食はいつもの安い牛丼屋で済ます。味はそこまで良くないが、値段を考えるとありがたい。
牛丼屋の外に出るとすぐに車道が見える。この辺はなかなかに賑わっている街なので、車の往来が激しい。この後すぐに業務に戻る必要がある。もうダメかもしれない。
私は気がつくと車道に出ていた。
「クソども!車から降りろ!みんな気づいているはずだ!車なんか乗りたくないだろ!?でもみんなが乗ってるし、乗らないとやっていけないから乗ってるんだろ!?そんなもの捨てちまえよ!こんなことしてる場合じゃないエゴイストども!」
と衝動に任せて発狂した。
我に帰ると私は二台の車に押しつぶされていた。私を避けようとした車、避けきれなかった車、気づかず直進してきた車など無数の車が重なり合う。内臓が今までに経験したことがないほど圧迫されている。もう二、三個は破裂しているかもしれない。
車道では炎と煙が上がり、慟哭や怒号がそこらじゅうから聞こえてくる。しかし不快な五月蝿さ、やかましさは感じない。むしろ妙な静けさが広がっているようにも感じられる。
これこれ〜!これだよ、これが欲しかったんだよ〜!私は満足して目を閉じた。
衝動的だ。 猿の退化系 @horkio118
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。衝動的だ。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます