屁理屈男と無気力女
カクアレカシ
屁理屈男と無気力女
「死んだ後って、どうなるの?」
ベランダに折り畳み式の木の椅子を広げ、腰を下ろして行き交う車のナンバーを数えたりしているとふと横でそんなことを呟かれた。
彼女は大抵、無言が続いたときなんかにその静けさに苛立ち、堪えかねて、質問の形を取る独り言を呟く。
僕のほうも同じような状況なので彼女の質問に答えない訳にはいかなくなる。
彼女の質問には一つ難点があって、具体性を欠いている。だから余計に考えなくてはいけない。
「それは、死後の世界ってやつかい?それとも死後の処理の方かな?」
「はじめの方…」
とりあえず、お得意の方法で答えてみる。
「正直、わからないよ…どの時代の誰もが考えたことがある問題なのにいまだ語り尽くされることがない、多分…それは、あることを証明するのは容易いが、ないことを証明するのは難しい。とかいうやつに近いと思う、この場合"ある"かもしれないことを"ない"としたいのだからかなり飛躍しないと証明できないし、そもそも飛躍したら証明と呼べない。つまりは、詰んでいるんだね。ハハ」僕も彼女とあまり変わらないのだろう。
「そうじゃなくて……」
彼女の苛立ちが少し強くなったように感じる。どうやら伝わらなかったようだ。
「…死んだら天国があるとおもう?」
まったく、最初っから、はいかいいえで答えられるもののように2択問題にすれば良いのにと思うが、考えるに彼女は思い付いたことをそのまま口に出しているだけだろうから仕方がない、まあ暇潰しにでもなるだろうと、この今にも吐き出しそうな思いを腹の底に仕舞う。けれど僕は意地悪く二択ではなく三つ目を答える。
「ある人にはあるんだよ、ない人にはない、僕らが知覚することを許されているのはここだけだからね。」
「あなたのいうことはそうやっていつも難しい…」
この世界は多様化し、かつ片寄っている。善意は善意ではなくなり悪意は悪意ではなくなってしまった。 心に秘めておくべきことはすぐに出ていってしまい、言葉は垣根を越え僕の知らないところへ行ってしまう、そして思いは形を変え人を傷つける。それが面白いんだよと僕は言う。そうかなぁと彼女は言った。
そして無言は再開された。
屁理屈男と無気力女 カクアレカシ @Kakuarekasi
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