第6話 強制イベント

「ど、どうしてこんなところに…?」

 一夜は尋ねる。とりあえずでも質問をしておかないと平静を保つことすら難しい状況に陥っているのだ。

「どうしてって…それはもちろん買い物ですよ、今日の仕事も終わりましたのでね。」

 海人は爽やかな笑顔で答える。よく見れば彼の服装は勤務用の制服でも特殊部隊が着ているような防護服でもなく私服のようだった。それにしてもこの男はカジュアルな服を当然のように着こなしている。都会にいたら間違いなくモデルスカウト待ったなしだ。

「ハハ…そうですよね。」

 一夜の口からは乾いた笑いしか出てこなかった。早くここからでなければ…、彼の頭の中はそれだけでいっぱいだった。

「で、では僕はこれで…。」

そそくさとレジへ向かう。買いたいものは手中に収めてある。あとは買い物を済ませて家に帰るだけで全てが終わるのだ。


「待ってください。」

 買い物を済ませるのとほぼ同時に海人に引きとめられる。それは一夜にとっては心臓を握られてる行為にほぼ等しい。息が詰まりそうになるような空間がそこに出来上がっていた。

「な、なんでしょうか…?」

 声が若干震えている。本人は平静を装っているようにふるまったが周りからは狼狽しているようにしか見えなかった。それほど彼の心には余裕がなかった。

「一人での外出も危険でしょう、送ってあげますよ。」

 笑みを浮かべた海人が言う。彼にとってその提案はただの親切心だったのかもしれないが一夜にとっては拷問以外の何物でもない。

「い、いえ…結構です。」

「まぁそうおっしゃらず、私も一人で帰るのは心細いんですよ。」

「でもそんな、わざわざ送ってもらうなんて悪いですよ…。」

「いいんです、善良な市民を助けるのも私の使命ですから。」

「なら僕以外にも助ける人がいるんじゃないですか…?」

「今あなたが困っているように見えたんです。」

 どの方向で切り返してもすぐに返される。それもその全てが正当であり王道であった。まるで漫画の主人公を目の前にしてるような錯覚さえ感じる。

「これは…はいを選択するしか進まないイベントのようだ…。」

 一夜が呟く、どうやら先に折れたのは彼の方だ。

「じゃあ…お願いします。」

「えぇ、じゃあ行きましょう。」

一夜と海人は二人仲良く(?)コンビニを後にした。


 暗い夜道を野郎二人で歩く。ある種の層が見たら真ん中に×をつけられそうな雰囲気だ。

「…………。」

無論一夜の心中は穏やかなはずもない。警戒心の塊となってる今の彼にはこの場の雰囲気は気にも止まらなかった。

「…まぁそう警戒しないでください、とって食おうだなんて思ってませんよ。」

 そんな彼の心中を察してか海人が語りかける。

「私はあなたとお話がしたかったんですよ。」

「話…僕と…?」

「えぇ、この世界のことについてです…。」

「!?」

 二日目の夜も一夜にとって長い夜になるのだった。

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異世界がこいっ!!!~日常での魔物の倒しかた教えます~ ねこざかな @bakemonoP

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