エピローグ
戦争が終結した次の日には、俺たちの家だった場所にガンツ男爵の兵士がなだれ込んできたらしい。しかし、そこはすでにもぬけの空だ。
あの
だから、代わりにガンツ男爵へ向けて置手紙をしてきた。
『約束は果たした。次は、貴方が約束を果たす番だ』と。
村人には、俺たちが戦場へ行くことでこの村から兵士を徴用しないように約束を取り付けたことは話した。ありがたがられる反面、申しわけなさそうにしていた。
その代わり、戦争が終わった後は帰ってこないことも言った。
これには皆、困ったような顔になったが、それ以上に仕方がないという表情もしていた。
いつの間にか、俺たちは神の使いのような生物だと思われていたようだ。曰く、神が地上のことを調べるために遣わした者だ、と。
そんなことは無いが、消えるには丁度良い話だったので適当に合わせておいた。もちろん、自分からはそんなことを言うはずもない。
★
「やっと馬車がつかまったわね~」
「あぁ、やっとだな」
街道で野宿すること三日目に、やっと西へ向かう馬車が見つかった。
いや、向かう馬車と言ったら語弊があるな。そもそも、この街道を走っている馬車が見つからなかった。心が折れて飛行魔法で飛んでいこうと思う程度には。
「旅はいいよね~。旅は――」
「旅か! ようやるなっ!」
マリアの何気ない呟きに、御者の商人は大笑いしながら聞き返した。
「知らないところを見て回れるのは、旅人だけの特権よ」
「違いない!」
ガハハ、と御者は大声で笑った。それにつられても俺もマリアも笑う。
あの日、ガンツ男爵の屋敷を後にして、宿で話したことはこうだ。
★
「なるほど、その作戦は良いかもしれないな」
「でしょ? 私たちならではね」
マリアは誇るように胸を張った。
その作戦内容とは、この辺りで信仰されている天使メイ・メーアのフリをして、戦争を止めるということだった。
天使メイ・メーアの肖像画に描かれた鎧とマリアの鎧は色合いがよく似ているので、空高く跳んでいれば見分けはつかないだろう。
確かにいい案だ。
「でも良いのか? そんなことをやったら、俺たちの存在は騒ぎの元になるぞ」
俺たちが戦争を止めると言った後、天使メイ・メーアを名乗る奴が現れたら、ガンツ男爵はすぐに気づくだろう。そうしたら、後々面倒なことになる。
それこそ、静かに暮らせなくなる。
「セシルは、あそこにずっと住んでいたい?」
「あそこって……」
せっかく作ったんだから、という思いはあるが、別に絶対に住みたいというほどの思いは無い。もし出ていくのであれば、畑には適当に魔力を突っ込んで、向こう何年か豊作になるようにして置けば、あとは村人が何とかするだろう。つまり、そのていどだ。
「……まぁ、特に永住は考えていないかな」
俺の返答に、マリアはあきらかに安堵の息を
「私は、もっと色々なところへ行きたい。前も言った通り」
「そうだな。確かに聞いた」
「だから、今回は旅立つには丁度良いんだと思う。だって、適当に終わらせるんじゃなくて人助けをやって出ていくんだから」
旅に出るのに、なぜそこまで難しく考えるのだろうか?
行きたい、と思ったらすぐにでも出ていけばいいのに。村人は、先の通りのことをしておけば、あとは勝手に生きていくだろう。
まぁ、元勇者としてそうも勝手には行かないのかもしれないが。
「よし、じゃあ、今回のことが終わり次第、旅に出よう」
「えぇ、せっかくなんだしね」
★
なにがせっかくなのか分からないが、そうして旅に出ることを決めた。
向かう先は、とりあえず海ということになった。
のんびりゴロゴロと音を立てながら進む馬車なので、どれくらい時間がかかるか分からない。だが、待っていればその内つくだろう。
旅はまだ始まったばかりなんだから。
最強勇者と最強魔王の異世界線スローライフ いぬぶくろ @inubukuro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます