三 おどる子馬カフェ
山のふもとにある白く大きな“はこ”の中で、サーバルとフロドちゃんはとほうにくれていました。“バス”の“ごはん”をもとめて山のちょうじょうを目ざしていた二人(とサム)でしたが、山にのぼるほうほうが見つからず、どうしたものかと考えあぐねていたのです。
なぜこんなことになったのかというと――
“ジャパリバス”の“はこ”を見つけてからしばらくして。
「ヤッタ。コレダヨ、コレダヨ」
サムはうれしそうに言いました。“うんてんせき”をさがしに、ジャガーのあんないで川のはんたいがわまでやって来た一行は、サムのようすにホッとむねをなで下ろします。
先ほど見つけた“はこ”と同じように、“うんてんせき”は、ふかいしげみにかこまれたばしょに、ぽつんとおいてありました。
「あはは。おもしろい形~」
「なるほどねぇ。こんなのなんか~」
サーバルとジャガーがものめずらしそうに“うんてんせき”を見つめます。
頭の上にある、ネコのようなとがった耳。
大きくつき出した“はな”のりょうわきにある、丸くてすき通った目。
黄色くてかたいはだの体は、すでに見つけた後ろ半分の“はこ”によくにていました。
「この子の足はまん丸なんだね~。おもしろーい」
カワウソが、体の下にある四つの丸いぶぶんをぺたぺたさわって言いました。
「これがさっきのにひっつくんだね」
サーバルがフロドちゃんの顔を見て言いました。しかし、なぜかフロドちゃんのひょうじょうはすぐれません。
「でも…これ、どうやってむこうぎしまではこぼう…」
そのことばで、のこりの三人がはっとなりました。
そう。“うんてんせき”は、サーバルたち四人を合わせたよりももっと大きくて、おもかったのです。
さあ、それからがたいへんでした。
はじめはジャガーの引っぱる“はしけ”ではこぼうとしましたが、いくらも進まないうちにしずんでしまい、しっぱい。
「サーバルって、ジャンプ力あるんでしょう? もってとべないの?」
カワウソに言われてためしにジャンプしてみたところ、川の四分の一にもとどかず(なにももっていないにもかかわらず、です)ながされてしっぱい。
それならばと四人で“うんてんせき”をもち上げて川をおよごうとしたところ、
「わーい! しずんでいくぞぉ!」
楽しげなカワウソの声とはうらはらに、フロドちゃんがおぼれてしまってしっぱい。
さんざんな目にあった四人は、川ぎしでぜえぜえ言いながら、あたまをかかえました。
「これは…ちょっときびしいぞ……」
ふだんは弱音(よわね)をはかないジャガーが、こまったような顔でもらしました。
「あっはは、こんなおもいものはじめてもったよー」
ちっともこたえてない風に、カワウソが話します。
「すみません…ボクのつごうで……」
フロドちゃんがみなにあやまります。
「だいじょうぶ、がんばろう! わたしも“バス”になるとこ見てみたいもん!」
サーバルが明るくはげましました。
「う~…けど、川が大きすぎるんだよ」
「いま、水も多いんだよねぇ」
なにしろ、およぎのとくいなジャガーがおよいでも、すぐにはむこうぎしにはつけないほどの広さです。なんメートルものきょりをジャンプできるサーバルでも、五回ほどとばないとたどりつけません。
なんとかならないものかと、フロドちゃんは川をじっと見つめました。
(あれ…?)
ふと、気になるものを見つけます。
四人はいま、“さばんなちほー”と“さばくちほー”をむすぶ道の間の川にいます。その川の、道と道の間のぶぶんの水上に、先がふしぎな形をした三本の“はしら”が、まっすぐにならんで立っていました。それはまるで、二つの道をつなぐ、とぎれとぎれの道のように見えました。
「あっ」
フロドちゃんが声をもらしました。
そのようすに、いままで「みんなどうやってこの川をわたっていたんだろう」ということを話し合っていた三人は、いっせいにフロドちゃんのほうをふりかえりました。
「あの。ひとつ思いつきが…。ちょっとたいへんかもですが…」
フロドちゃんの話を聞いて、三人の目がかがやきはじめました。
「まさか、木のかたまりと“つる”をあつめて、わたしがジャンプできる台を四つも作るなんて考えもしなかったよ!」
山にのぼるほうほうを考えながら、サーバルはあの川でのできごとを思い出していました。
「“はしら”と“はしら”の間に木の台をつないで道を作るなんてすごい! どうやって思いついたの?」
「あの“はしら”を見て、なんだか道みたいだなぁって思ったんだ。だから、川のあちこちにういてる大きな木のかたまりを“つる”でむすびつければ、道になるかなぁって…」
それを聞いてサーバルは目をかがやかせました。
「すごーい! 見ただけでそんなこと思いつくなんて! きっとフロドちゃんって、すっごくすてきな“どうぶつ”なんじゃないかな!」
「あはは…」
フロドちゃんはてれたようにわらいました。
「作れたのはみんなのおかげだよ。およげるジャガーさんとカワウソさんがいなかったら作れなかったし。それに、さいごはサーバルちゃんが、“うんてんせき”をかかえてはこんでくれたじゃない」
「ううん。フロドちゃんが思いつかなかったら、ずっと“うんてんせき”ははこべないままだったよ! やっぱりすごいよ、フロドちゃんは!」
「でも…」
えがおをくもらせて、フロドちゃんは下をむきました。
「せっかくみんなががんばったのに、“バス”が…」
「――ナルホド。“デンチ”ガナクナッテルミタイ」
サムがこぼしました。
“うんてんせき”と“はこ”をつないで“ジャパリバス”がかんせいすると、サムいがいの一同は、つぎになにがおこるのか、わくわくしながらまっていました。しかしサムが“うんてんせき”にのって、丸い“わ”の前でなにかをはじめると、“バス”はいっしゅんだけうなり声を上げましたが、それきりしずかになって、うんともすんとも言わなくなってしまいました。
「え? しんじゃった? “バス”しんじゃった?」
「…ねただけじゃないか?」
「チガウヨ。“バス”ヲウゴカスタメノ“チカラ”ガタリナインダ」
そして、“でんち”が空っぽになっていることを、みなにせつめいしたのです。
サーバルたちにはよくわかりませんでしたが、どうやら“でんち”とはバスの“ごはん”であるらしく、それがいっぱいにならないとバスがうごかないらしい、というところまでは理解(りかい)できました。
「それって、ふやしたりできるんですか?」
フロドちゃんのしつもんに、サムは高いばしょを見上げて言いました。
「アソコノサンチョウニアル、“ジャパリカフェ”ノオクジョウデ“ジュウデン”デキルヨ」
四人がサムの見上げた先を見ると、そこには、天をつくかのようにとがった、高くて大きな山がそびえ立っていました。
「ふわぁ…」
四人は思わず声をもらしました。
こうしてサーバルとフロドちゃんは、“バス”をカワウソとジャガーにあずけ、山にのぼる道のあるばしょまで、サムのあんないでやってきたのです。それは、白くてかたくて“バス”より大きな、ふくざつな形の“はこ”でした。
ところがそこには、“はこ”から山にむかって二つのかたい“ひも”がのびているばしょがあるだけで、山にのぼるための道がまったくありません。それを見たとたん、
『ケンサクチュウ、ケンサクチュウ…』
サムはまたもやかたまってしまったのでした。
それでもサーバルはかたい“ひも”にのって歩いてのぼって行こうとこころみましたが、数歩すすんだところで足をすべらせておちてしまいました。(けがはしませんでしたが、“しげみ”におちて体がはっぱだらけになりました。)
そしていま、どうしようかと、二人はすわって考えこんでいる、というわけなのです。
「どうしよっか…サムはこのちょうしだし…。“がけ”ぞいにのぼってみる?」
少しなだらかになった岩はだをゆびさして、サーバルが言います。
「あのへんからのぼれそうだよ?」
「ボクには…ちょっとむりかも…」
木のぼりすらまんぞくにできなかったことを思い出し、フロドちゃんは二の足をふみました。『木のぼりができると、にげたりかくれるときにべんりだよ!』と言うサーバルにうながされて、“さばんな”で小さな木にのぼるれんしゅうをしたのです。
そのとき。
ひゅう。
「ん?」
「え?」
ふいに二人の上に、人かげがおちました。
とっ。
目の前の大きなはしら(それは、二人のいる“はこ”からのびた、二つのかたい“ひも”をささえるために作られたものでした)の上に、きれいな赤い手足に白いふく、うす桃(もも)色のかみのあたまに小さなつばさを生やした、うつくしいすがたの鳥の女の子がとまりました。
二人がふしぎそうにそれをながめていると、女の子は、左手をむねにあて、右手をよこに大きく広げ、よく通るかん高い声で“うた”をうたいはじめました。
わたしは トキ
なかまを さがしてる
どこにいるの なかまたち
わたしの なかま
さがしてください
ああ なかま…
“うた”がおわると、フロドちゃんはかんげきして拍手(はくしゅ)をしました。サムはいつの間にか、うつぶせにたおれていました。サーバルはといえば、鳥の子のうたう声のはくりょくにくらくらして、あたまを左右にぐるぐる回していました。(サーバルはあたまの上の大きな耳で、ふつうなら聞こえないようなとても高い音を聞くことができます。このときの女の子の声は、サーバルの耳をなぐりつけるようないきおいの、とても高い音を出していました。だから、サーバルは、耳を通してあたまをガンガンとたたかれたかのようなショックをうけていたのです。)
「こんにちは」
鳥の子は、二人の近くにとんできて、言いました。
「はじめまして。わたしはトキ。トキ・ボンバディル。わたしの“うた”どうだった?」
「ち、力づよいね…」
「はねがフサフサしてて、とってもきれいでした!」
サーバルがややつらそうにこたえ、、フロドちゃんが元気よくこたえました。
トキの顔がぱっとあかるくなりました。
「ありがとう。やっぱり、だれかに聞いてもらうのっていいわね」
そしてフロドちゃんのりょう手をとって握手(あくしゅ)しました。
「こんなところでなにしてたの」
「“さんちょう”に行きたいんです」
「サムがここから楽に行けるって言ってたんだけど…」
サーバルがじじょうを話しました。
「よかったらはこぶわよ。この山の上、通るつもりだったし」
「ほんとに? そんなことできるの?」
「一人くらいなら。たぶん」
思わぬトキのていあんに、サーバルはびっくりしました。
そして。
フロドちゃんにほめられたのがよほどうれしかったのでしょうか。あっという間に、フロドちゃん(と、リュックの中に入れられたサム)をつれて、トキは山の上までとんで行ったのでした。
“さんちょう”につくまでの間も、トキは“うた”をうたうことをやめませんでした。
“はしら”でたべる ジャパリまんは
ああ おいしい
さいこう!
「トキさんは、ほんとうに“うた”が大すきなんですね!」
いっしょに“はしら”の上で“ジャパリまん”(フレンズたちがいつも食べている“ごはん”のようなもので、大き目の“肉まん”のような形をしています)を食べながら、フロドちゃんが言いました。
しかし、トキはうかぬ顔でした。
「でも、“フレンズ”のすがただと、ちょっとかってがちがうみたい…」
トキはべんきょう家でした。彼女は「この体ならではの“うたいかた”があるのではないか」と、いつも考えていたのでした。
やがて、二人は“さんちょう”につきました。
そこは、ふもとから見たときのいんしょうとちがい、うつくしいみどりの“しば”が一めんに生いしげった、すばらしいけしきのばしょでした。右をむいても左をむいても、今いる“さんちょう”よりもずっと高い山のいただきや、うっすらとかすんだ白いくもが、青い空のただ中に、絵画のようにうつし出されていました。
「うん、あれじゃない?」
トキがゆびさしたほうに、上半分があざやかな青色、その青色のぶぶんに三つの小さな“まど”がついた、石でできた“はこ”がありました。二人が近づいてみると、その“はこ”はわりあいに大きく、フレンズたちのせたけの二ばいいじょうの高さがありました。そしてはばがせまいほうの壁(かべ)に、木でできた“とびら”が一つ、ありました。二人はその“とびら”をあけて、中に入りました。“とびら”がチリンチリン、と音を立てました。
中は、“ジャパリバス”が二つとめられそうなほど広く、五つある“まど”からさしこむ日の光と、上からつるされたあわい“しょうめい”で明るく、大きさのちがう丸い石だたみがしきつめられた地めんはきれいにそうじされており、とてもおちついたふんいきの“へや”でした。てんじょうをささえるために立てられた木の“はしら”のよこには上にのぼるための階段(かいだん)がありました。三つの四角い木の“つくえ”(“テーブル”と言うものだそうです)と、丸長いふしぎな形の木の“つくえ”が一つ、“かべ”にほられた「くぼみ」の中に小さな丸い木の“つくえ”が一つ、おかれており、どれもひょうめんはぴかぴかにみがきこまれておりました。すべての“つくえ”に木の“いす”が(“つくえ”の大きさに合わせて数はちがっていましたが)ならべられているところを見ると、それらはそこにこしかけて、くつろぐためのものなのでしょう。
「ふわぁ…」
フロドちゃんとトキは、今までに見たどのけしきともちがう“へや”のようすに、おどろき、息(いき)をのみ、そして見とれてしまいました。
すると。
「はあぁ~~!! いらっしゃ~い!」
“へや”のおくの、直角にまがったふしぎな形の“つくえ”のむこうから、感激(かんげき)とよろこびにみちた声をあげて、もこもこした白い毛のかたまりのような女の子が顔を上げました。
「ようこそぉ、“ジャパリかふぇ”へ! どうぞどうぞぉ! ゆっくりしてってぇ!」
「え、あ、はい」
「はぁ…」
「いや、まってたよぉ! やっとおきゃくさんが来てくれたよぉ! うれしいなぁ! ね、なにのむぅ? いろいろあるよ?」
女の子は近くにあった(はっぱをこまかくしたようなものが入った)とうめいな“びん”を手にとってつづけました。
「これね、“こうちゃ”っていうんだってぇ! “はかせ”に教えてもらったのぉ! ここから“おゆ”が出るからそれをつかってねぇ…」
女の子は、今にも“こうちゃ”をいれそうないきおいでまくしたてます。
しかしフロドちゃんたちがここに“でんち”を“じゅうでん”しに来たことをつげると、もこもこ毛の女の子はひどく落胆(らくたん)しました。
「おきゃくさんじゃないのかぁ……ぺぇ」
それでも、フロドちゃんがリュックの中から(サムといっしょに)大きな“でんち”をとり出すと、女の子は親切に、階段をのぼって“じゅうでんそうち”までつれて行ってくれました。
“でんち”を“じゅうでん”している間、二人は女の子からいろいろな話を聞いてみました。女の子の名前はアルパカ・バタバーといい、アルパカ・スリというどうぶつがフレンズとなった子でした(バタバーという名字は、ここでカフェをやることにきめたときに“はかせ”につけてもらったということです)。『なんでここでカフェをやろうとおもったの?』というトキのしつもんに、女の子――アルパカは、こう、こたえました。
「ここって、となりのちほーに行くとき、よく通るじゃない? このあたりで、一休みできたらぁとてもステキだなぁって」
うっとりしたような目で、アルパカは空を見上げました、
「んである日、となりの山にこの“こや”を見つけたんだぁ。そういうところで“お茶”を出すと、“かふぇ”になるって聞いて、“としょかん”で作り方教えてもらったのぉ。あとはみんなに来てもらうだけだっておもってたんだけど、そのみんなが、ぜんぜん来ないんだよねぇ…」
「そんなにおきゃくさん来ないの?」
「来ないねぇ…。だれも来ないねぇ…」
そう言って、アルパカは後ろをむいてしまいます。
「すてきなところなのに…」
「みんな知らないんじゃないの?」
「いやぁ、ふもとでいろんな子に伝えたんだけど、だれも来てくれないんだよぉ…」
「もしかして、みんなばしょがわからないんじゃない? わたしはこの子から聞いてたから」
トキがフロドちゃんのほうをむいて言いました。
「んえ? そんなにわかりにくいのぉ?」
「このへん山ばっかりだもの。通りすぎちゃうわ」
「そうかぁ。わたし(ここを目ざして)のぼってきちゃうからぁ、考えたことなかったなぁ~」
「(空を)とべる子いがい、通らないんじゃない?」
フロドちゃんがハッとなりました。
「あの。一つためしてみたいことがあるんですが…」
そして、二人をつれてカフェの外に出ました。
カフェの前には、ここへ来たときに見た、あの、あおあおとしげった“しば”のひろばがひろがっています。
「ここの草って、ぬいてもだいじょうぶですか?」
「へーきへーきぃ。草むしりたいへんだからたすかるよぉ」
うれしそうに、アルパカがこたえます。
「今から言うところを、いっしょにぬいてもらってもいいですか?」
なにをするんだろうと考えながらも、二人はフロドちゃんの言うとおりに草をぬきはじめました。
さいしょ、まっすぐにフロドちゃんは草をぬきはじめました。
しかし、しばらくすると、すこしずつカーブして草をぬきはじめます。
さらには、ぬいたところを二回も三回もおうふくして、ぬいた草のはばをふとくしていきます。
トキとアルパカ、そしてとちゅうから参加したサムも、フロドちゃんといっしょに、まじめに草をぬきつづけました。
ときおりフロドちゃんは、一人高いところにのぼって、草のぬけたあとをじっと見つめます。そうして、草をぬくほうこうのしじを、ほかのみんなに出したりしていました。
やがて。
なん回目かの、高いところでの草のぬけたあとのながめをおえたフロドちゃんは、うん、とまんぞくそうにうなずき、トキとアルパカにむかって言いました。
「じゃあ、とんでもらえますか?」
「うん、わかった」
トキはうなずいて、アルパカをかかえました。
「とぶとどうなるのかしら」とふしぎそうなひょうじょうでとび上がった二人でしたが、上空から地めんを見下ろすと――
「あ…! 下見て、下!」
「ん…?」
アルパカは「はああ!」とびっくりしました。
そこには、ぬけた草の道で、
大きな大きなティーカップ
が、えがかれていたのでした。
「すごい、すごい! これならきっと気づいてくれるよぉ!」
カフェにもどりながら、アルパカはこうふんしてさけびました。ほっとするフロドちゃんと、へとへとになって“さんちょう”にたどりついたサーバル(今まで山はだを一人でのぼっていたのです)は、そんなアルパカのようすを見てしあわせな気分になりました。
「すごいわね。草をぬいて絵をかくなんて、おもいもよらなかったわ」
“てらす”(見はらしのよい、外のテーブルせき)の“いす”でくつろぎながら、トキは楽しそうに言いました。
「これならみんな、素(す)通りしないんじゃない?」
「でしょう? フロドちゃんはね、すごいんだよ!」
サーバルは自分のことのようによろこびました。川でのフロドちゃんのかつやくをおもい出し、ほこらしげな気分になります。
そこへ、たくさんのティーカップをのせた“おぼん”をもって、アルパカがあらわれました。
「おつかれさまぁ。さあ、どうぞぉ」
“つくえ”の上にティーカップをならべはじめます。
「どうぞぉ。はい、どうぞぉ」
カップの中には、ほんわりとした白いけむり(それはいい香りがしました)をあげている、琥珀(こはく)色の水がはいっていました。
「わあ。これが“カフェ”…」
「これがお茶…」
トキ・サーバル・フロドちゃんの三人は、それぞれ一つ、カップを手にとりました。
「いただきまーす」
こくん。
「はあぁ……」
みな、いっせいに息をつきました。
ぴぴぴ。
ちち。
どこか遠くで鳥がさえずり、四人の耳をくすぐりました。
目の前には、どこまでもつづく、すき通った空の青。
ほほをなでるやさしい風は、ちょっぴりつめたく。
「いいなぁ、カフェって…」
「おちつくね~…」
フロドちゃんとサーバルは、のど元にのこる、あたたかいお茶の後あじを楽しみながら、目をとじ、しずかな時間をまんきつしました。
「では、ここで一曲(きょく)」
お茶に感激したトキが、しずかに立ち上がりました。
「!」
サーバルはみがまえました(ふもとで聞いた、トキのあの、かん高いうた声をおもい出したのです!)。フロドちゃんははくしゅでトキをむかえました。
トキはひらりとまい上がり、“てらす”の手すりにとまりました。しんこきゅうして、うたいはじめます――
わたしは トキ
なかまを さがしてる
どこにいるの わたしのなかま
ああ なかま…
「うわあ…」
サーバルはびっくりしました。トキのうたう声が、ふもとで聞いたものとはまるでちがっていたからです。
「どうしたの? さっきより、すっごくいい声になってる…」
アルパカが(にっこりして)こたえました。
「あ、さっき、“うた”をうたうって言ってたから、のどにいいお茶いれてみたんだぁ。体もあたたまってぇ、いい感じでしょぉ?」
それを聞いてすぐさま、トキがアルパカの手をとりました。
「わたし、ここにかよう」
「わはぁ、やったぁあ!」
アルパカも上きげんでそれをむかえました。
――チリン。
カフェのいり口の“とびら”が、小さく音をたてました。
「え? いま、なにか音が」
「なになにぃ? さっそくおきゃくさんかなぁ!」
アルパカが大いそぎで“こや”の中にはいりました。
「あれぇ?」
アルパカの、気のぬけたような声。
サーバルとフロドちゃんが後をおって中にはいります。
そこにいたのは――
「?」
「“がんだるふ”ちゃん(たち)! なんでここに??」
「しーっ。今のわれわれは“おきゃく”なのです」
「“おきゃくA”と“B”なのです。名前はないのです」
いつの間にか“いす”にすわっていたコノハズクとミミズクの二人が(あいかわらずひょうじょう一つかえずに)こたえました。
どんどん。
ゆらゆら。
石だたみの地めんの上で、かれいなステップをふみながら、体の大きなフレンズが、楽しそうに“おどり”(ダンス)をひろうしています。サーバルとフロドちゃんは、それを見てぱちぱちと手をたたきました。
「“はか”…“A”さんたちがぁ、あの子をつれてきてくれたのぉ?」
「そうです。“おどり”がすきなフレンズなので、カフェでおどってもらおうとつれて来たのです」
「体が大きかったので、二人がかりではこんで来たのです。つかれたのです…」
二人にできたての“こうちゃ”をふるまいながら、アルパカが笑(え)みをうかべました。
「うれしいよぉ。おきゃくさんがふえるのは大かんげいだよぉ」
「わたしも、すてきな“おどり”のぶたいをいただいてうれしいですわ。今日はいつもよりも、はりきっておどらせていただきますね」
きれいな“いしょう”(といっても、ふだんからみにつけている“ふく”なのですが)をひらひらとゆらしながら、大きな体のフレンズ――インドゾウが、くるくると体をかいてんさせました。
その“おどり”に合わせ、トキが即興(アドリブ)で“うた”をうたいます。
カフェでおどる インドゾウは
とっても 楽しそう
大きな 体に
きれいな “いしょう”
“おどり”って とっても 楽しそう
それを聞いたインドゾウは、おどりながら、うっとりした顔になります。
「すてきな“うた”…。“おどり”にも力がはいりますわね」
「あなたの“おどり”もすてきよ。こんど教えてもらおうかしら」
二人はすっかり意気投合(いきとうごう)していました。
「これからカフェがにぎやかになるね!」
「そうだね」
そんなみんなのようすを見て、サーバルとフロドちゃんも、ほほえみながら顔を見合わせます。
そんな二人に、“おきゃくA”と“B”が(小声で)話しかけてきました。
「アラゴラス、フロド」
「え」
「なんですか?」
まさか“おきゃく”たちが話しかけてくるとはおもわなかったので、ちょっと二人はびっくりしました。おもわず、こちらの声も小さくなります。
「これから“さけだに”にむかうお前たちに、言っておきたいことがあるのです。ここに来たのも、そのためです」
「ちゅういして聞くのです。とてもきけんなことなのですよ」
「え? え? どういうこと?」
とつぜんのこわいことばに、サーバルがみをのり出します。
「われわれはこの山をのぼる前に、ふもとのようすをいろいろとしらべて来たのです。たびびとは、たびをするとき、どんなきけんがあるかを前もってしらべておくものなのです」
「サーバルのように行き当たりばったりなたびをしていると、いつかケガをしてしまうのです」
「みゃー! そんなことないよ!」
この山をのぼるときに、何回か(自分のふちゅういで)おっこちてしまったこともわすれて、サーバルはおこりました。
「山を下りるときは“つかびと”に気をつけるのです」
「“つかびと”?」
フロドちゃんが聞きかえします。
「この山のふもとにいる(はっせいしている)“とくべつ”なセルリアンのことです。ふつうのセルリアンとはちがう個体(こたい)なのです」
「元々セルリアンはきけんないきものですが、“つかびと”はもっときけんなセルリアンなのです。つかまったら、ただではすまないのです」
「ふぇえ…」
サーバルとフロドちゃんは顔を見合わせました。
ひらひら。
くるくる。
四人のむこうには、おどるインドゾウと、それを見てよろこぶトキとアルパカ。
しかしサーバルとフロドちゃんの二人は、それを見て楽しむどころではなくなってしまいました。
二人はみを引きしめました。
“さけだに”を目ざすたびは、これからもまだまだたいへんみたいです。
けものものがたり ~Lord of the Hat~ とみぃず @TOMIZMO
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