フレンズたちのひとコマ集(仮)
ばるじMark.6 ふるぱけ
第1話『へいげん式たまけり』
「か、勝てないですわ!」
ライオンとの試合にボロ負けし、地面に手をついてなだれるシロサイ。まわりに集まったフレンズたちも、どこか浮かない顔をしている。
「やっぱ強いよねぇ、ライオンチーム」
「手も足も出ないでござるなぁ」
風船割りチャンバラと球蹴りを気まぐれに繰り返してはや数十戦。あれからというもの、ヘラジカチームは順調に負けを重ねていったのだった。
ちなみに、今日の勝負は球蹴りだった。ころころと転がるボールを眺めていたヘラジカが、唐突に声を上げる。
「ふむ。それでは、なにか作戦を立ててやってみることにしよう」
「作戦、ですか?」
「うむ。作戦だ! かばんを含めたあの合戦で私はライオンと戦えた。結果は引き分けに終わってしまったが……つまり私たちだって、考えて戦えば負けるばかりではないということだ!」
「おーっ」
「ヘラジカさまー!」
「さすがは森の王ですわ……!」
「なに、大丈夫! 私たちならできる!」
悠然と胸を張って立ち、言い切った。
そんなヘラジカの姿に全員は感化され、場はたちまち熱気に包まれる。
「そうだそうだー、です!」
「わたしたちだってやれるぞーっ!」
「打倒! ライオン軍ですわ!」
「ひと味違うところを見せてやるでござるよ!」
「うむ、皆、その意気だ! 絶対に、勝つぞー!」
「「おおーっ」」
「勝ーつぞーっ!」
「「おおーっ!」」
「勝ぁーつぞーッ!」
「「おおーッ!」」
***
青空に向かって勝利への雄叫びを上げ気持ちを盛り上げたヘラジカ一行は、改めて対ライオンチームの作戦を考えることにした。
「とはいっても、どうするでござるか」
「そうだねぇ、うーん……」
「ふむ……」
ヘラジカも考えてみるが、これといっていい戦略が思い浮かばない。日頃突撃至上主義を突っ走っているので、いざ細やかな作戦を思い描こうとしてみても、まったく思い浮かばないのだ。
「……あの」
うんうん唸り声の上がる中、ハシビロコウがおずおずと手を挙げた。
一瞬で注目の的になり少しばかり気圧されるものの、なんとか口を開く。
「えっと……相手がボールを入れられないように、タイヤの間に壁を作る、とか」
「壁でござるか〜」
「あー、なるほどねぇ〜、うん。たしかにそれなら点は入れられないね!」
「でも、そんな大きいもの、どうやって立てるでござるか?」
カメレオンから上がった質問に、
「うーん……本当の壁ってわけにはいかないから……かわりに、誰かがそこに立って守るっていうのはどうかな?」
ゴールの方へ目を向けながらハシビロコウが答えた。追いかけるように皆もそちらを見る。しらばくしてピンときたらしいヘラジカが声を上げた。
「ほうほう、なるほど! それは名案だ!」
「でも、誰がやるです?」
ヤマアラシの疑問に、すかさず一人が手を挙げた。
【シロサイの場合】
「その大役、ぜひわたくしにお任せくださいませ! こと守ることに関しては自信がありますわ!」
自信満々の笑みを浮かべてシロサイが名乗りを上げた。機動性は乏しいが、守りに徹するとなれば、その硬さをもってして敵の侵攻を食い止められるのではないかと思ったのだ。以前のチャンバラ合戦で見つけた自分の長所を役立てる絶好の機会ではではないか。
賛成の意が飛び交う。
のちにシロサイの活躍を聞いていたヘラジカも、満足げに頷いた。
「うむ、頼んだぞシロサイ! では、実際にどういう感じなのかを練習してみようじゃないか」
こうして、守り役(キーパー)を置いての実戦をしてみることになった。
シロサイがタイヤの前に陣取る。いつボールが飛んできても対応できるようにがっしりと待ち構えるその姿には何モノをも通さぬという強い意志がこもっており、まるで城を守る高く硬い城壁の幻影を背負っていた。
不動の気構えに誰しもが圧倒され、同時に「これなら大丈夫だ」という安心感が各々の胸に芽生えてくる。
これなら破られない!
誰しもがそう思う。
「では、いくぞっ! でぁあああーッ!」
気合一声、助走をつけてボールへと近づくと、勢いを多分に乗せた蹴りがボールを直撃した。とてつもない速さで一直線にシロサイの守るゴールへと飛翔する。
「はぁあああーっ!」
ボールの軸道を見極めたシロサイが、大きく手を伸ばして飛び上がる。鬼気迫るその迫力に、誰しもが固唾をのんだ。
見ていた者には、まるで永遠にも取れるほどに時間が長く感じていたが、実際には勝負は一瞬のうちに決まっていた。
ボールはシロサイのが伸ばした手の遥か上を飛んでいったのだ。ジャンプしてみたはいいものの、鎧が重すぎて飛距離が全然足りてなかった。
てんっ、てんっ、とだいぶ後ろの方でボールが弾む。
しばらく風の音があたりを包んでいたが、やがてシロサイが膝をつきうなだれた。
「わたくし、あまり身軽ではないので高いボールは捕れませんの……盲点でしたわ……っ」
膝をついて影を落としているシロサイに、ヘラジカが声をかける。
「しかし、あの迫力は確かなものだったぞ! 絶対に通さないというあの心構えをもって敵の侵攻を遅らせるよう防御に徹すればいいのではないか?」
「な、あるほど! ありがとうございますヘラジカさま! 精進いたします!」
「うむ! その意気だ、シロサイ!」
手を取り合い、妙に熱い空気をまわりに振りまき始めた。
そんなスポ根展開を繰り広げる二人に、ひとりのフレンズが手を上げる。
「でしたら、わたしにお任せしてみてはどうでしょうか!」
オオアルマジロだった。
息巻いて言葉を続ける。
「わたしならもう少しは身軽ですからねー。高いボールもどんと来いですよ!」
「ほう、頼もしい限りだな! では、それでやってみようじゃないか」
【オオアルマジロの場合】
ポジションを変えて、ヘラジカ対オオアルマジロとなった。自信ありげにゴールに立つその姿に、ヘラジカは確かな手応えを感じる。
「よし、いざっ!」
「よろしくお願いします!」
「であぁぁあああ!」
渾身の一撃がボールに叩き込まれ、とてつもないスピードで上方に飛んでいく。
「見切ったぁっ!」
キッと目をほど馬手軌道を見極めたアルマジロは、タイヤを蹴って高く跳ね上がった。みるみるうちに地面との距離を離していき、とうとうボールと同じくらいの高さになった。
「すごいですわ!」
「高いです〜!」
「あれなら手が届くでござるよ!」
刻一刻と迫るボールに対して、アルマジロが受ける体勢になる。
頭をぐっと落とし、両肘を前に出す。目に見える部分が硬い部分に覆われていく。
なんか想像していたのと違う展開に皆が戸惑いつつも見守る中、アルマジロの体がボールに押し飛ばされ、少し離れたところに落ちた。
「なんかすごい音したです!?」
「だ、大丈夫か!」
こぞって駆け寄る。
地面に開いた穴からアルマジロが這い出してきた。体中が砂だらけになっているものの、目立つ傷などは見当たらない。
「すまん! 思わず力んでしまった」
「いえ、大丈夫ですヘラジカさま! わたし硬いんで!」
「いや、実に見事な受けっぷりだったぞ!」
「ありがとうございます!」
ひしっと抱き合う。
まるでこのまま地平線の彼方へと走っていくのではないかという勢いの感動の一場面を演出する二人の間に、そっと言葉が挟まれる。
「でも、あれ」
ハシビロコウが見た先では、すごい勢いで着地したのがわかるほどに地面に埋まったボールがあった。
「タイヤの向こう側。点数、入れられてる……」
【配置決定】
次の日。
試合はすでに中盤に差し掛かっていた。アタッカーとして前衛を走るオーロックスとオリックスは、ヘラジカチームの繰り出してきた戦法に攻めあぐねていた。というのも、シロサイとアルマジロがゴールの手前を守っており、その防御が思いのほか硬いのだ。突破口を探っているうちにカメレオンとヘラジカにボールを取られる。
二人は一直線に攻めてくるから後方に控えているニホンツキノワグマがカットしてくれるので点を取られる心配はないのだが、結局は行ったり来たりの堂々巡りになってしまう。
「ぐっ、まだ一点も取れてねーぞ!」
「硬いね……」
「だったら……これでどうだっ!」
ボールを踵とつま先で挟み、後ろに脚をぐっと挙げた。ふわりと浮かび上がり、後ろから前に飛んできたそれを額で打つ。防御担当のシロサイとアルマジロの頭上を通り越し、向こう側で待機していたオリックスへと渡った。
「おお、オーロックスすごい!」
「そのままゴールまで走るぞ!」
「おうっ!」
予想外の動きをされて反応できずにいる二人の間を通り抜け、オーロックスもあとに続く。
しかし、なにか様子がおかしいことに気づいた。先行していたオリックスが、ゴールを目前にして立ち止まっていたのだ。
「オリックス、なにをしている! さっさと決めちまえ」
「オーロックス、あれを見てくれ」
言われて指された方を見た瞬間だった。
二人は見たのだ。
壁を。
例え蟻一匹たりとて通さんとばかりに、ゴールの前に立ちふさがっているそれを。
しかし、それは物質的なものではなかった。
眺めているうちに、その壁がいったい“何者”なのかを知ったのだ。
そこには、一人のフレンズが立っているだけだった。微動だにせずただ見つめてくるだけのはずなのに、それだけで、まるで足が地面に縫い付けられたように、二人はその場から動くことができなくなったのだ。
そこにあるのはただの壁ではない。
近寄る者は容赦なく切り伏せるとばかりに、冷たく、鋭い白刃のように閃く眼の壁。
「あの眼力……ハシビロコウかッ!?」
「く、なんだこのプレッシャーは!」
「体が動かない……いや、ちがう、迂闊に動けないんだ、これはっ」
「どうしよう……」
「どうする……」
「スキあり!」
攻めあぐねている二人の前を誰かが通り過ぎていく。足元にあったはずのボールがなくなっていることに気づいて振り向くと、カメレオンが背を向けて走り去っていくところだった。
「あっ、しまった!」
「いつの間にッ!」
「ふっふっふ! 気配を消して背後から討つ。これが忍の戦い方でござる! ヘラジカさま!」
満足な表情を浮かべながらヘラジカにパスを出す。
「うむ、たしかに受け取ったぞカメレオン!」
「ぐぅっ、あんな……卑怯な!」
「はっはっは、卑怯なものか。これが作戦というものだ! 行くぞカメレオン、敵陣へ突撃だ!」
「はい、ヘラジカさま!」
「追いかけるぞ!」
「わかってる!」
高笑いしながら爆走するヘラジカの後を、二人は追いかけていった。
***
「……ひどいよー」
反対側に走っていく四人の後ろ姿を眺めながらハシビロコウがぼそりと呟く。しかしそれはわずかに吹いた春風にかき消され、誰の耳にも届くことなく飛んでいったのだった。
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