すまんというのは誰のため

じょうたいいじょう

第1話

 こんにちわ。

 ロシアデスマンです。


 モグラ目トガリネズミ亜目モグラ科ロシアデスマン属


 ロシアデスマンです。

 たまに「いきなり目の前に出ていきなり謝るのはなんで」などと言われますが。

 誤解です。

 ロシアデスマンです。


 わたくし、今…。

 大冒険の最中なのです。




 きっかけは、しばらく前。

 わたくしが何の動物なのかを、ハカセに教わりに行こうと思い立った頃。


-「カフェっていうのを開くのが夢なんだよお」


 とても元気なフレンズさんに、途中で出会ったことでした。

 そのフレンズさんは、目的は違いましたが行く場所は同じだと知ります。

 ですが、急いでいたのがわかったので、同行はその時あきらめます。

 しかし、「私」を知った後……。

 「カフェ」というその言葉自体を、それが何か誰も知らないことを私は知ります。

 大きさや形も誰も知らない。

 見たと言うフレンズも、もちろん居ません。

 最悪、わたくしが最も詳しいかもしれない、までありえるほどに。

 話を聞き続けると、もしかするとそのフレンズまで幻ではないかと怖い方向に向かいました。 

 さすがに……それはないと信じたい。

 そして、気になる。

 見てみたい。

 そんな欲求を、わたしは抱いてしまったのです。

 ほかの誰もが、気にも留めないことなのですが、それでも。

 行こうと思い立ったのです。

 

 わたしが聞いて覚えている事柄は三つ。

 

・ほかの地方に行くときにみんな通る?

・過ごしやすく暑くないところにある?

・飲むものが出てくる?(飲むものの名前を聞いた気もするけど忘れた)


 つまり、おそらく水辺に違いありません。

 水は移動に便利で、わたくしも陸より楽でよく使います。

 さらに水辺は涼しく気持ちよく、飲むものも当然豊富です。


※ロシアデスマンは主に水辺に生息します


 ばっちりです。

 結果、これを基本に探す予定にしました。

 これに、ほかのちほーに行き来しているフレンズさんの話を聞ければ、大丈夫。

 これで行きましょう。


 2日後。


「おかしいです、別のちほーでもさっぱりです」

 水の流れに乗りながら、ちほーの境目っぽいところを探しました。

 しかし、やっぱり見つかりません。

 ハカセにもう一度話を聞くことも、一度は考えたのですが…。

 この間訪ねた時に、ハカセをなぜか怒らせたらしく。

 次やったらシュウゼンヒ?とやらでジャパリまんを請求すると言われました。

 真顔で。

 迷い込んだ樹の道で、穴を掘って抜けようとしたのがそれほどいけなかったんでしょうか?

 とにかく、何か怖いのでとにかく安易に行けません。

 こまります。

 なんとかそれ以外で、がんばりましょう。


 その後。

 流れるまま流れ、途中で出会うフレンズにお話を伺い。

 たまに運んでもらいながら、海沿いをいつの間にか進み続け。

 2週間ほど。

「『ジャパリパーク』を一巡したッ!新しい『ジャパリパーク』だッ!!」

 我ながら、とても偉大なことをした気がします。

 でも何も進展してません。

 残念っ。


 途中で、物知りだと思う海のフレンズにも出会ったのですが…。

 やはり、カフェが何なのかも知ることはできず。

 途方に暮れるそんな時。

「あなた何してるの?」

「なに、と言われますと、何もできなくて……」

 見ると、鳥のフレンズさんの模様。

「何か変な光が見えたんですけど」

「ああ、この石ですかね」

 何も考えず、旅の途中に拾ったこの透明な石を触っていたらしい。

 そして、そのキラキラした光が、空から見えたのだろう。

「…気になるんですけど」

「なら普通に差し上げますが。前に拾っただけですし」

「!!」

 光るものに特別な思い入れがあるのでしょうか。

 私には何でもないですが、とにかく驚いているご様子。

「どうぞどうぞ」

「…い、いや、そんな凄そうなものいきなり渡すなんて少し怪しいんですけど!」

「何もないですよ…」

 でも、手が、ちょこちょこ伸ばしたそうにしているのが目に入る。

 かなりこの方にとっては重要なものなのだろう。

「では、私を川のほうへ運んでいただく報酬ということでいかがですか」

「…そんな、引き換えなんてしなくても運んであげるんですけど」

 でも、ずっと石を見たままですよね。

「だけどまぁ、どうしても、って言うならその条件でもいいんですけど」

 成立。

 正直、持ってはいたけどチクチクする硬い石は好きじゃないです。

 掘れないし。

「わたしはトキ、ショウジョウトキよ。あなたは?」

「物持ちと払いは一級品で裏は見せないロシアデスマンです」

「……なんで謝ったの」

「何でと言われましても…」

 名前です。


 かくしてしばらく二人旅。

 気をよくして頂いたのか、思うよりずいぶん遠くまで運んでいただくことに。

 気が付けば、一緒に食事と会話をしながらじゃんぐるちほーに来ていました。


「ここなら、たくさんのフレンズにいっぱい聞けると思うんですけど?」

「しかも川沿いのいいところで、本当にお世話になりました」

「気にすることないない」

 手にした石を私に見せながら、なんともうれしそう。

 お渡しできてよかった。

「じゃあ、気を付けて頑張ってね」

「はい、ありがとうございました」

 そうして、笑顔で手を振って。


 今度は、道に迷いました。


 いやあ、見通しがきかない、目印もないちほーって怖い。

 でも、その甲斐あって、建物らしい平たい壁を発見。

 もしやと期待が広がります。

 入れるところを少し回って、探してみました。

 なにやら、声らしいのもきこえ………


「な゛ぁ゛ぁ゛かぁ゛ま゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛お゛お゛お゛探しい゛い゛てぇ゛え゛え゛え゛~」

「ひっ!」

 悲鳴のような、台風のような、いや、形容するべき言葉があるのだろうか。

 逃げなければ。

 ずっと聞いていたら死んでしまうに違いない!

 壁の横にちょっと見える、縄のようなものから聞こえる金属の音もよくありません。

 山のほうに繋がっている紐ですから、水辺にはいかないでしょう。

 だめです、ここは違う。

 さっさと離れないと!

「な゛ぁ゛ぁ゛かぁ゛ま゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛お゛お゛お゛探しい゛い゛てぇ゛え゛え゛え゛~」

 足がふらついている中に、なんと二度目のすごい音。

 だめです、ここはフレンズが生きて暮らせる場所ではないのです。

 カフェなるものを探すためには、まず生きなくては!


 日暮れまで歩き続けて遠ざかり、ようやく水辺へ。

 さあ、ここからです。

「すみません、探しているものがあるのですが」

「なんだ?頼み事か?」

「はい、わたくしネコ公園に限りない愛着を持つロシアデスマンです。実は」

「…なんで謝るんだ」

「そうではなくて」

 見つかるまで、頑張ろうと思います。

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