雑草

壁屋 かこい

雑草 


「いたいよぉ。」


と、雑草は声を上げました。


歳が8つか9つかの人間の子どもに、踏まれてしまったのです。

雑草は横倒しになってしまいました。


雑草は小学校の昇降口の端に生えています。雑草には広い広い校庭が、一体なんだか分かりません。ただぼんやりと空を眺めます。


「あぁ、神さま。ぼくは人間になりたい。

人間になって、足でたくさん駆け回るんだ。

だから生まれ変わったら、ぼくを人間にしてください。」


雑草がそう言いますと、空から神さまの声が答えます。


「本当に人間になりたいのですか?もしかしたら駆け回る間に、

あなたは雑草たちを踏みつけてしまうかもしれません。」


神さまが答えました。


「いいんだ。だって人間はぼくを踏んだことすら、気付いていないだろう。

それどころか、楽しそうに友だちと遊んでいるんだ。」


「ええ、そうですね。」


「そんな彼らにぼくは何もできないんだ。

それなら、ぼくは雑草を踏みつけても人間になりたい。お願いです、神さま。」


神さまは少し悩んで、また空から声を降らせました。


「分かりました。あなたがそれだけ言うならば。

あなたの生まれ変わりは、人間にして差し上げましょう。」


雑草は大変喜びました。





いつしか雑草は人間の子どもになっていました。


友だちと校庭で鬼ごっこをします。

校庭は広く広く舞台のようでしたが、空は前より狭くなりました。


「待ってよー!」


子どもは校庭を懸命に駆け回ります。思いきり地面を踏みました。砂も踏みましたし、落ち葉も踏みました。アリも踏んだでしょう。


子どもは鬼役でした。逃げた友だちを見失ってしまった頃に、声が聞こえました。


「いたいよぉ。」


子どもが持つ立派な足の下には、雑草が生えていました。

踏んでしまって横倒しになっています。


子どもは悲しくなりました。いっぱいいっぱい悲しくなりました。


涙は、ぽたぽた雑草にこぼれ落ちました。


雑草だったとき、人間の子どもは雑草に気づきませんでした。

しかし雑草から人間に生まれ変わった子どもは雑草に気づいてしまいました。


「ぼくは何になったらよいのだろう。」


子どもはたくさん泣きました。


神さまは困って、空から雑草を見ていました。

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雑草 壁屋 かこい @kabeya_write

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