一人と一匹の冒険 その2『じゃんぐる』

明日志磨

第1話

「えーと……『ひさく』だっけ? 本当にそんなのあるのか?」

 心配そうに訪ねるトムソンガゼル。それはブチハイエナ本人を除き、この場の全員を代表した意見だった。

「そうです。サンドスターが無いのなら、こちらからサンドスターの方へ行くのです」

「?」

 また三人が不可思議そうな顔をした。友達の筈のアードウルフも、どことなく不安げな表情(?)をしている。

「まだサンドスターが在りそうな場所を探すっていうのか? そんな事言っても、この間の噴火で降ってきたサンドスターはほとんど消えちゃったぞ?」

「違います。もっと沢山、確実に在る場所があるじゃないですか。ほら、あそこです!」

 そう言ってブチハイエナが指さした方向にはサンドスターの結晶がまばゆく輝く、島の火山があった。

「えええええっ!?」

 今度こそ三人と一匹は大きくのけ反った。


「本当に行くんですか……?」

「ああ、うん。正直に言っちゃうと私も不安なんだけどさ。アーちゃん見てるとこのままじゃいけないって思うし……」

「まあ、あんたが自分で決めた事なら、私たちが口を挟むことはないけどさ。友達のためとはいえ、何でそこまでするんだ?」

「ハイエナは群れを大切にするんです。フレンズ化して群れでの生活はしなくなったんですけど、その代わり友達も出来て……だから友達のために何かしてあげたいんです」

「でもあまり無理しちゃ駄目よ。いくらセルリアンが少なくなってきたとは言っても、完全にいなくなった訳じゃないのですからね」

「ありがとうカバ。気を付けるよ」

 ブチハイエナは手を振り、アードウルフは一声鳴いて三人の見送りに答えた。

 こうして一人と一匹による冒険劇が始まったのである。


「道がない……」

 意気揚々とゲートを通過した彼女たちは、『じゃんぐるちほー』でさっそく途方に暮れていた。

「泳ぐにしても道とか全然分からないし……」

「何してるの~? 見かけない顔だけど」

 川を目の前にして立ち往生するブチハイエナ一行に、ふいに声がかけられた。

「えっと……私たち『さばんな』から来たんだけど、川で道が途切れててちょっと困ってたの……ところで貴女は誰?」

「私はインドゾウよ。最近は色んな場所からやって来るフレンズが多いわね~」

 背の高いインドゾウにやや圧巻されながら、ブチハイエナは見上げるように答えた。

「え、そうなの? んーと、私はブチハイエナで、この子がアードウルフちゃん。今はちょっと元の姿に戻っちゃってるんだ」

「あら~? 何か大変そうね~。まあそれより川を渡りたいのなら、闇雲に歩くよりここで待っていればその内ジャガーが通りがかる筈だから、声をかければいいわ」

 お礼を述べて、踊りながら陽気に歩いて行くインドゾウと別れたあと、ブチハイエナたちは肝心な内容を聞いていないことに思い当たった。

「ジャガーさん? に訪ねたら、どうやって向こう岸まで渡してくれるんだろう?」

 ブチハイエナの腕の中で、アードウルフは疑問に首をかしげた。


「なーんだ。こういう事だったのか」

「そうだよ~。ジャガーちゃんの乗り物はたーのしーんだから!」

 あの後、とりあえずインドゾウの言いつけ通り川沿いで休息していると、ほどなくして川を泳ぐジャガーに出会う事ができた。

 彼女は木の台(?)のような物を引いていて、それに乗ればジャガーが引っ張って向こう岸まで泳いでくれるのだという。

 更にそこには賑やかな先客がいて、彼女は自分の事をコツメカワウソだと紹介した。

 彼女は自らも自在に泳げる身でありながら、水上の景色が楽しくてたまにジャガーの引く台に乗ることがあるらしい。

「アンイン橋に新しい橋が架かってね。客足はちょっと減ったけど、それでもまだ私は現役さ。橋を利用すると却って遠回りになっちゃう子もいるしね」

 コツメカワウソの言うとおり、水上から移りゆく地上を眺めるというのも中々に興味深い風景だった。少なくとも『さばんな』では体験できない希少な体験だ。

「ほら見えてきた。あそこがアンイン橋さ」

「『げーと』の橋とは大分違うね、アーちゃん」

 それは木の板を連結して水上に繋ぎ止めてあるという、実に珍しい形状をしていた。しかし遠目には判別しにくいが、それら木板の上を飛び跳ねながら移動しているフレンズの姿を見るとブチハイエナも納得できた。形はかなり違っても橋という機能は同じらしい。

 アンイン橋の近くに接岸したジャガーの台から元気よくコツメカワウソが飛び降り、別れの挨拶もそこそこに、彼女は件の橋の方へと走って行く。その後に続き、アードウルフを抱えたブチハイエナがよいしょと地面に降りた。

「この道をまっすぐ歩いて行けば、次のちほーに行けるよ」

 ジャガーの案内に顔を上げたブチハイエナの視界に、一際高い山が入った。

「……? ねえ、ジャガーさん。あれは何?」

「ああ、あれは『こうざん』だよ。山頂には『かふぇ』という場所があるんだって」

「へえ……でも私たちには関係ないかな」

「高い場所にあるから、利用者は鳥系のフレンズが多いみたいだね。……そう言えば、この間『かふぇ』に別のちほーから博士たちが来てたという話を聞いたかな」

 その話を聞いた途端、ブチハイエナが今までにはない険相でジャガーに迫ってきた。

「それは本当ですか!?」

「え!? あ、うん……そういう話をトキから聞いた事があるけど……」

「私たちも早速『かふぇ』に行くのです!」

「いや、聞いた事があるけど……少し前の話だから……」

 しかし既にジャガーの言葉などブチハイエナの耳には入っていないようで、今までのおっとりとした様相の何処にそんなパワーが秘められていたのかと思う程の脚力で、ブチハイエナは遙か遠くへ走り去っていた。

「……私、もしかしてまたやっちゃった?」

 掌でおでこをぺしんと叩くジャガー。彼女も別の意味でマイペースなフレンズらしい。その背後からコツメカワウソの馳せ回る元気な声が聞こえてきた。

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