第4話
馬を爆走させて、約10分。
なにも見えなかった地平線だったが、ようやく町が現れた。
「ほれ、ついたぞ!はよう行きな!野球の試合ももう始まるじゃろ!」
城壁を超え、門番の検閲を受け、とうとう町へ入れた。
門の兵士達も赤城と加賀の格好を見ると、懐疑の眼を向けたが、おっさんのこいつらは野球選手なんじゃ!の一言でぺこぺこ頭を下げだし、しまいには敬礼まで。
おっさんはというと何故か誇らしげだった。
おっさんとはここでサヨナラとなり、2人はまた歩き始める。
今まで通って来た道と違い、ある程度は舗装されており、しっかりした作りになっている。
真ん中が広くなっており、左右に少し幅がとってある。
おそらくだが、真ん中が馬車や荷台、荷車。左右を人が歩く、というのであっているだろう。
しかし、交通ルールなど一切ないのか馬車がすぐ隣を通ったり、全側通行なのか、前からも後ろからも人が来る。人も真ん中を普通に通ってるし、片側に寄って歩く人はむしろ少ない。
みんな適当にふらふら歩いている。
流石に元々いた世界の都市より多くはないが、それでも人がごった返している。
さっきから何度もひとにぶつかっている。
「めっちゃひと多いじゃん。やばっ。」
「バカ、んなこと言ってないで『球場』探すぞ。あのおっさん言ってただろ。それにこの町に入る前に、もう始まる言ってたから早くしないと間に合わないんじゃないのか。」
加賀はおどろき、つい、
「え?お前出るの?試合。だるくね?」
本音がでた。
「それしかないだろ。今は元の世界に帰れる方法なんてさっぱりだ。それに帰るにしろ、暫くはこの世界にいるんだから食うものとか、寝るとことか探さないと。」
「まぁそうなんだけどさぁ…」
加賀の歯切れの悪さに赤城は少々イライラする。
「なんだよ、なんか問題あるのか?」
「いやね、俺らは一応プロ野球選手よ?身体が資本なわけさ。万が一こんなトコで怪我したらどうすんの。帰ったとしてもシーズンに響くし、チームにだって迷惑かける。俺としてはあんまり出る気はない。まぁ帰れる方法がそれしかないってんならしょうがないが。」
「…」
まさか加賀に正論を言われるとは思わなかった。
確かにこんなトコで遊んだ怪我なんてしたら最悪だ。これからの野球選手生命に関わる。しかもこの世界に発達した医療は望めなさそうだ。大したことのない怪我でも、ほっておいて悪化でもしたら大変だ。
「んなことぁどうでもいい。とりあえず帰ってから怪我なんぞ治せばいいだろ。とりあえず帰る。そのためにはこいつに従った方がいいだろ。当てもないならな。」
そう言って赤城はスーツの内ポケットから謎のメモを取り出す。
その様子を見て加賀は諦めたように、こたえる。
「はぁ…わかったよ。祐ちゃん、ぶっちゃけ楽しみなんでしょ?異世界で他の人と野球するの。」
自分の心の中の想いはどうやら見抜かれていたようだ。
驚くことはない。彼らは幼馴染。甲子園を、野球界を制した最強バッテリーなのだから。
相手は自分。自分は相手。
ただし、と加賀は条件をつける。
「肩、俺は気にするからね。」
「はいよ、俺の古傷はもう完治済みなんだけどな。」
赤城は前を見たまま、歩きながら答える。その顔には不安が消え、未知なる敵への好奇心と絶対的エースとしての自信が湧き出ていた。
町の中央。
「すげぇな、これ…」
「いや、ここ異世界っしょ?なんというか、違和感やばいね。」
町の中央には扇型のドーム球場。
町もこの球場を中心に広がっているようだ。実質的に町の心臓部分である。
「奏太、サイズはどんなもんだ?」
「んー、中央120、両翼100…いや100はないぐらいかな、上は60とかでしょ。」
「つまり?」
「まぁ俺らの世界の球場とほぼ一緒ぐらいかちょっと小さいぐらいだな。」
なぜ異世界にここまで本格的な球場があるのだろうか。
あたりの建物を見渡すが、どれも不均一で、都市計画によって整えられているとは思えない。
建物もほとんどはレンガの石造建築物。ぎゅうぎゅうに建物が詰まっているエリアもあれば、家と家の間に隙間があったりと、建築技術は高くなそうである。
「どこ行きゃいいんだ結局。」
「さぁ?とりあえずドームらへんぐるぐる回って入り口探そうぜ。」
ドーム球場へ近づくと、彼らが来た道正面に入り口があった。
横には警備兵が槍を持って立っている。
「あのー、すいません。」
「何者だ!貴様ら!ここは神聖なる球場であり、我が帝国と人類の未来がかかった戦いが始まるのだ!」
「俺ら招待されたんですけど…」
「なに?ここは選手入り口だ。客として入るなら右へ行け。」
確信はないが賭けに出る。
この機会を逃せば一生帰れない気がした。
「いや、選手としてです。」
2人はスーツから謎のメモを取り出し、警備兵へ見せる。
もしこれがなにも関係ない紙切れならここでゲームオーバー。人生終了である。
「あ、あ、あ、あ…」
警備兵は口をパクパクさせながら、メモを目を大きく開きながら読んでいる。
どうやら賭けに勝ったらしい。
「んじゃ、失礼しまーす。」
2人はなんとか球場に潜入。
すぐ近くに選手控え室を見つけ、ドアノブに手をかける。
中からは人の話し声が聞こえる。
恐らく、野球選手だろう。
ドアを開ける。
「…誰だお前ら。」
ガラの悪そうな奴が沈黙を1秒で切り捨て、さも当然の疑問を口に出す。
「いや、僕らも選手なんだけど。」
「…は?」
控え室には20人ほどの男でごった返しており、誰もが突然の来訪者に猜疑の視線を向けている。
「このメモ。招集状。」
ほれと、メモを印籠のように突き出す。
さっきのガラ悪い奴がメモを奪い取る。疑いながらもメモを読み本物だとわかると、なぜかバツが悪そうな顔をする。
「…すまねぇ。巻き込んじまって。」
謝られる理由がどこにあったのだろうか。どっちかというとこっちが謝るべきなのだが。
「え?あの状況が全く理解できないんだけど。」
「なんなんだよ、野球すりゃいいんじゃねぇのか?勝ちゃいいんだろ?負けても死ぬわけじゃあるまいし。」
赤城の質問に誰もが目をそらす。何か後ろめたいことがあるようだ。
誰かが口を開こうとしたその時、控え室のドアが開いた。
「来たな!私が呼んだスケット!これでメンバーは揃った。さぁ頼むぞ、私達人類と帝国を救ってくれ!24人の戦士達!」
入って来たのは12歳ぐらいの女の子。
「「誰だよ!」」
赤城と加賀の声がはもる。
他のメンバーが気まずそうに、口を開く。
「一応、僕ら『ヒューマニス』の監督、リュフワ・アルタ・ファーム殿下。ここアルタ王国の第3皇女様…」
そして最も重要なことを言うべきか言うまいか迷っている間に少女が驚くべき爆弾を投下した。
「人類はこの世界の覇権を巡って、他の種族と戦争中だ。兵と兵の戦いではない。全ての争いは野球で決まる!もうわかるな?負ければ人類は他の種族に滅ぼされ、それが嫌なら勝つしかない。勝ってこの世界を制するのだ!勝つためにお前らを呼んだのだ!よろしく頼むぞ、祐一、奏太!」
野球で戦争?
他の種族?
世界を制する?
どうやって呼んだの?
そんなことはどうでもよかった。
「なら早速投げさせてもらうぞ。肩はなぜか既にできてるからな。」
「ならマスクを被るかね。こいつの球なんぞまともな奴には取れないからな。」
野球選手として、呼ばれたならば、ただ戦えばいい。
なぜなら彼らは最強だから。
負けなど考えたことないから。
「うむ。よろしく頼むぞ!2人!」
そんな3人を見て、一人が恐る恐る手をあげる。
「…あのー、できれば自己紹介しません?僕ら全くお二人のこと知らないんですが…」
「うむ。それもそうだな!」
そんなわけで、自己紹介が始まるのだった。
沢村賞投手と相方捕手は異世界独立リーグへ移籍します マカロン @ren831
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