カンセイシツ

たるばれるーが

第1話

カンセイシツ


バスは、青々とした木々の中をゆっくりと走っていた。静かなバスの中では、サーバルちゃんのスースーとい寝息だけが、静かに響いている。ぼくはサーバルちゃんの可愛らしい寝顔をなんとなく眺めていた。

「カバンモネテイイヨ」

急にラッキーさんに話しかけられて、ぼくはハッとした。

「今はそんなに眠くないので大丈夫ですよ。」

ぼくはラッキーさんにそう答えた。

サーバルちゃんはぼくたちのそんな会話にも気づかず、まだスヤスヤと寝ている。

サーバルちゃんは昼間こうやって寝ていることがたまある。サーバルちゃんは本来夜行性なので昼間こうやって遊びまわっていることはあまり無かったはずだった。

本当は無理していたのかもしれない。

ぼくはふとそう思った。サーバルちゃんはもともと夜行性で昼間遊びまわるのは大変なはずなのに、ぼくに合わせて無理をしていたのかもしれない。ぼくはサーバルちゃんが時々バスを抜け出してどこかに行っていることを、知っていた。

ヒトとサーバルは本来いっしょにいることのできないものなのかもしれない。それにもしヒトの住むちほーがサーバルちゃんのこれないような、過酷な環境だったら。一度芽生えた不安の種はそう簡単には、消えてはくれない。ぼくはそんなもやもやを抱えたまま、嫌な気持ちで外を見ていた。

ゴトン!バスが急に止まった。

「ゴメンネ。バスノデンチガキレチャッタヨ」

「大丈夫なんですか?」

「チカクニ、カンセイシツガアルヨ。ソコデジュウデンデキルカラマッテテ」

「じゃあぼくもいっしょに行きます」

ぼくはそう答えて降りる準備を始めた。

「サーバルハオコサナクテイイノ?」

いつもだったらきっとそこで起こして、いっしょに連れて行っただろう。でも今のぼくには、それができなかった。

「サーバルちゃんは気持ちよさそうに寝いるので、このままにしておいてあげましょう」

ぼくはボスと2人で、その、カンセイシツという所へ向かった。

カンセイシツは今は使われていないようで、あちらこちらがボロボロになっており、よく分からないことが書いてある紙があちこちに落ちていて、非常に散乱していた。

「ジュウデンハジカンガカカルカラ、スコシマッテテネ」

ラッキーさんにそう言われ、ぼくは少しこの中を探検してみることにした。カンセイシツの中はなにやらよく分からない本などが落ちていて、少し不気味だった。はかせに言えば、ここにある本もとしょかんに移してくれるかもしれない。そんなことを考えながら、カンセイシツの中を物色していると、一冊の本を見つけた。

「活動記録?」

そこに書いてあるのは、昔ここにいたであろうヒトが書いた日記帳のようなものだった。フレンズとの交流、ほかのヒトとのやりとりそんな他愛もないことが、そこにはつらつらと書かれていた。

しかし、ページをめくるごとにだんだんと内容は、ほのぼのとした、牧歌的なものから、深刻な内容へと、変わっていった。セルリアンの出現、ヒトの退去。

活動記録はそこで終わっていた。

どうやらヒトはなんらかの理由で、ここから何処かへと、移動したようだった。フレンズたちを連れないで、自分たちだけで。

ぼくはこんなもの見なければ良かったと思った。この内容はヒトが住むところには、他のフレンズは住めないと、断言しているようなものだった。自分の旅の終わりが、サーバルちゃんとの別れ。薄々気づいていたことだったが、それでもこの現実はぼくには重すぎるものだった。ぼくはそんな現実を受け入れきれず、その本を閉じた。生まれてから初めて味合うような気分だ。胸が苦しく、体がいつもより、何倍も重く感じる。ぼくは気分を晴らすため、さっさとこの部屋から出ようとした。するとさっきまで本に気を取られ気づかなかったものが、部屋にあったことに気づいた。それはとしょかんでも見つけた、精巧な絵、つまり写真である。

そこには1人のヒトと、そして1人のフレンズが並んで写っていた。そのふたりの足元にはフレンズが書いたようなとても歪んだ文字で、「またね」と書かれていた。

その写真を見てぼくはなんだか勇気が湧いてきた。そうだった。ぼくは今までどうして忘れていたんだろう。サーバルちゃんとラッキーさんの3人でこれまで、多くのちほーを旅してきたじゃないか。天に届くほど高いこうざんも、灼熱のさばくも、凍えるようなゆきやまも、どんな過酷な環境でもで超えてきたはずだ。きっとこれからだってぼくたちならどこまでも行ける。それに別れることになったって、それで終わりじゃない。きっとまた会える。そう思ったら、今まで悩んでいたのが、急にバカバカしく思え、なんだか急に笑えてきた。

「かばんちゃん、なに笑ってるの?」

「うわぁ!」

ぼくは急に話しかけられ、尻餅をついてしまった。そこに立っていたのはサーバルちゃんだった。

「どこかに行くんだったら、起こしてくれれば良かったのに」

サーバルちゃんはそう言って口を尖らせた。

なんだかそれが、とても可愛らしく見えた。

「ごめんね。サーバルちゃん」

ぼくは謝りながらも、とっても嬉しい気持ちだった。なんだか心がポカポカしてくるような感じがして、自然と笑みがこぼれる。

「どうしたのかばんちゃん?」

「なんでもないよ」

「フタリトモ、ジュウデンオワッタヨ」

ラッキーさんの声が聞こえ、ぼくとサーバルちゃんは外へと向かった。

ぼくとサーバルちゃんを乗せて、バスはまた走り出した。


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