EPISODE20.5『謎の男』

「んん……あれ…?」


光、優斗、サクラが戦っている時、僕、瀬麗那はというと先程まで居た精霊山ではなく自分には全く見覚えのない山小屋のような場所に連れていかれていた。そして意識が回復した今、僕は何故かベッドで寝ていたらしい。


「目が覚めたかい?」


突然、見知らぬ男の人の低い声がしたので体を起こして声がした方に振り向くとそこには男性にしてはスラッとした細い体格に短い銀髪で眼鏡をかけている男が笑みを浮かべて立っている。恐らくこの人物が僕をこの場所に瞬間移動させたのだろうと思った。


「あ、はい。あの…ここはどこですか?」


「とある場所にある山小屋だよ」


「山小屋……そうだ!光や優斗達はどこにいるんですか!?」


徐々に意識が覚醒していくにつれて先程の出来事を思い出した瀬麗那は、光や優斗達の安否が気になり目の前にいる男に尋ねた。


「あ~さっきの君と一緒にいた仲間の魔法使い達の事かい?そのことなら今頃、僕の仲間達が足止めをしてくれているんじゃないかな」


「え!?それじゃあ…何で私だけここに居るんですか…?」


「何故って……人間のはずなのに精霊力を持っている特異者の君を、僕の〝目的〟のために君だけを連れてきたからだよ。だから僕の仲間である峯坂切乃と月島優香……それに時覇終の3人には時間を稼いでもらっているんだ」


「な、何を言って…。一体あなたは何者なんですか!?それになんで私の精霊力のことを知っているんですか!?」


今日初めて会って、しかも会ってすぐの人が自分の力のことを知っていることに瀬麗那は目の前の男に対して危機感を覚えていった。


「私は松谷秀司まつたにしゅうじ。魔力組織〝アインスト〟の研究者のような立場と言ったところかな。あと君が精霊力を持っていることを僕達が知ったのは、例のショッピングモールに精霊が出現して襲撃した事件だよ。突然、巨大な魔力を感知した時覇終がショッピングモールに向かうと君が精霊に対して魔力砲を放っていたところを目撃したってわけだ。普通の魔法使いが扱える量の魔力ではないと感じたんだろうね」


「(間違いない、僕が初めて魔力を使って魔力砲を撃ったときのことだ…)」


ここまで話を聞いた限り、男の目的は恐らく自分なんだと思った。


「まさか、あなたの目的は…光達じゃなくて私!?」


「ほう、ようやく気づいたか。そう、今の僕の目的は本宮瀬麗那もとみやせれな、君さ。まぁ何故人間なのに精霊力が宿っているのか分からないが、君の力にはとても興味があってね。だから…その力を僕のものに!!」


松谷は出現させた杖を持ち、それを僕に向ける。


「バインド!」


そして松谷が唱えると魔法で創られたロープ状のものが杖から出現し僕の腹部と腕に巻き付いて腕を動かすことが出来なくなってしまった。


「くっ……なっ何をしているんですか!?」


「ククッ、君に逃げられると困るから拘束させてもらったよ」


「(み、身動きがとれない…。このままだと、この男の思い通りになっちゃうよ!)」


「さて、それでは始めるとするか」


松谷はもう一度杖を僕に向けると杖の上部に付いている黒色の宝石のような部位が徐々に輝いて少しずつ周囲を巻き込んでいく。


「(まずい!)」


「ん?」


しかし、途中で何かの気配を感じたのか松谷は少し後方に下がった、すると先程まで松谷が立っていた後ろの壁を突然火球が貫いて、そのまま松谷の居るすぐそばの床で爆発した。でも何故か爆発したはずの床は少し焦げた程度ですんでいる。


「えっ何!?」


突然の出来事に驚いてしまったが、同時に穴が開いた壁の外から聞き覚えのある人達の声が聞こえてきた。


「ちょっとまったぁぁぁ!!」


「光!?それに優斗達も!?それにサクラさんまで」


「ギリギリ間に合ったようだね」


「やっほ~瀬麗那さん!助けに来たよ!」


「間に合ってよかったです」


「なんで私の居場所がこの小屋だって分かったの?」


「あぁそれはな、サクラが瀬麗那の精霊力を探っていったんだ。そしたらこの小屋にたどり着いたってわけだ。なぁサクラ?」


「はいっ頑張りました!」


「でもさっきの火球は相手にあたらなかったけどね…」


「うっせぇー心春!」


こんな状況でも光と心春の仲の良さは変わらない。


「でもみんな、ありがとう!」


「とにかく瀬麗那が無事でよかったよ」


「そうだな。あとは、コイツらをブチのめすだけだ!」


「ちっ邪魔が入ったか。仕方ないですね、今回は一時撤退としましょう。終、優香、切乃、行きますよ」


「ドクターの言うことなら仕方ないわね、分かったわ」


「わかったよドクター」


「分かったデース!」


「では……トランジション!」


松谷が詠唱すると松谷を含めたアインストのメンバー4人を取り囲んでいき、直後に消えてしまった。


「なっ!?待ちやがれ!!」


「消えた!?」


「消えちゃったね…」


「やっぱり、あの松谷って言う男は転移魔法を使うのか」


「追うか?」


「そうしよう。このまま放っておくと、またいつ瀬麗那さんが狙われるかわからないもん」


しかし優斗はあまり乗る気ではなかった。


「いや、深追いはしない方がいい。それにどこに居るのかもわからないし探す方法がないよ」


「あ、確かに…」


「じゃあ〝アインスト〟とかいう魔力組織は放っておいていいのかよ?」


「それは……」


「どうしよう…」


皆が考えている中、心春は提案する。


「色々あったけど、せっかくここまで来たんだし旅行の続きしようよ!」


「お前はいつも前向きだよな」


「そうかな~?えへへ♪」


「いや、誉めてないし」


「え~!?」


「ま、いいけどさ」


「サクラさんはいい?」


「構いませんよ。私も久しぶりに楽しみたいですしね」


戦いと闇精霊探しの前に本来ここに来た目的の旅行を再開することにした僕たちは思いっきり色々なことをして旅を楽しむことに。


そして精霊山での出来事から数日後の高校の入学式まで特に目立った事もなく過ごしていった。

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魔法と転生と精霊とっ! 本宮蒼 @Serena16S

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