〜石を吐きし触人のこと〜

 郷州のさる高山に、羊駱駝の触人ふれんずが営む茶屋ありける。この頃、その茶屋に日毎に来たりて、椀より三升づつ茶を飲む触人ありける。名を猩猩朱鷺といひ、今日も茶を三升飲みて、礼を述べつるに、その触人の咽より小石のごときもの出でて、気づかぬままに飛びゆきぬ。羊駱駝主人不思議に思ひ、その小石を見るに、小さき穴一つありて、その穴より全く三升茶が出でたりける。主人悟りて、この石こそ茶を吸う石ならめとて、その小石に茶を灌ぎみるに、たちまち茶を吸ひほしける。主人は、なるほどさなくては、いかでその茶の腹中に入るべくもあらじとて、その石をば、店の宝として秘蔵しける。さて、かの猩猩朱鷺は、石を吐き出してより、茶は人並みに飲みたるやうになりける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

けもの奇談置き場 @shm6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ