〜触人を愛づる触人の事〜

 昔、女色に迷ひける猫の触人ふれんずありて、名をまーげいといひける。鳥獣すべて触人の美しきを愛で、触人どもの交はりの尊きを発見し、古人未発のことどもをさとり得て、一部の書籍に著述し、あまねく世に弘め、触人友愛の助けになさむと、狼先生の手をも借りて、草稿を成したりける。しかして、草稿の写しを作らむと、郷州随一の碩学たる木葉先生を訪ひけるに、木葉先生、そのことを聞きて、驚きに堪へず、まーげいにいふやうは、「こは邪教の教へなり。かの絵草紙が郷州に弘まりなば、風俗乱れ、世の災いなるべし。かくては、常のごとく汝が触人を愛づることもはや叶ふまじ」といはれて、まーげいは、はっとして、過ちを悔やみ、双紙は己が楽しみに持ち帰りぬ。

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