〜肺魚を捕りし触人の事〜
昔、さるところに、箆鹿侯が家士の嘴広鸛といふ者ありける。つねに機を待ちて魚を捕ることを好みたる。ある時、大きなる肺魚一疋、平原の川を上るを、嘴広鸛見付けて、その肺魚を捕らまし、と岸に沿ふて川上に登りゆくに、ほどよく狙い定める所もなく、やゝその肺魚を追ひゆくほどに、つひに三里ほど川上まで登りゆき、日は暮れて、その肺魚をも見失ひたり。その所は森奥にて、樹々が月影を遮り、暗く怖ろしき所なり。その嘴広鸛、夜目もきかず、いと寂しく、怖ろしくなりたり。ここに、肺魚の宮といふ神の宮あり。そのあたりより奇しき人壱人現はれ出でて、嘴広鸛にいふやうは、「われは、今日汝に追はれて上りきつる肺魚の化なり。汝、われを捕らむとして日の暮るゝも知らず、この森奥に追ひ来たる。汝今夜ここなる肺魚の宮に宿るべし。われ宿直して守らむ。されば今より後は肺魚を捕ることを止め給へ。止め給はざれば、一人夜を明かすべし」といはれて、嘴広鸛は身の気よだち、怖ろしく思ひ、以来は堅く肺魚を捕るまじきよし、誓ひける。かくてその人の蔭にて、つつがなくその夜を明かし、翌日家に帰りける。
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