最終回 令嬢よ永遠なれ

 悪あるところに正義あり。光あるところ必ず闇がある。正義と悪は表裏一体。どちらも絶えることはない。それは、正義令嬢と悪役令嬢の戦いもまた、絶えることはないという悲しき宿命を意味していた。


「ついにこの日が来ましたわね」


 古代より世界の覇権を賭け令嬢ファイトが行われてきた宮殿『ビューティー・オブ・ヘブン』の中央。

 完全高級素材で作られた四角いリングでは、正義の定めに殉じる正義令嬢と、悪の華を咲き誇らせる悪役令嬢の特別マッチが始まろうとしていた。


「ええ、待ち望んでおりましたわ」


 二人の令嬢がリングへと華麗に飛ぶ。

 世紀の令嬢ファイトを一目見ようと詰めかけた観客令嬢が大歓声を送る。


「やっと、やっと全力の勝負ができますわね。ローズマリー」


 正儀令嬢の中でも天才中の天才にして若きエース、マリアベル。

 美しい金髪と、宝石のような青い瞳。白いドレスを身に纏う名家のご令嬢である。

 数々の令嬢ファイトを乗り越え、その強さに磨きをかけて帰ってきた。


「手加減はしませんわよ、マリアベル」


 悪役令嬢の若手ナンバーワン、ローズマリーは黒髪黒目に真っ黒なドレス。

 色白で、胸に咲く一輪の赤いバラ以外は全て黒。悪役令嬢を体現した姿である。

 花嫁令嬢からのお色直しを習得してからも、さらに令嬢パワーを上げ続けた。


「思えば全ての始まりはここでしたわね」


「初めて出会って、戦って……さらなる強敵に負けそうになって」


「したくもないのに共闘したりもしましたわね」


「なんだか遠い昔のようですわ」


 会話しながら構えを取る。過去を懐かしみながら、自らの好敵手を倒すためにリング中央へ走り出す。


「そんな令嬢ファイトの歴史に刻まれる一戦。よろしくお願い致しますわ」


「こちらこそよろしくお願い致します」


 両者一歩も退かぬ乱打戦。パワーでまさるマリアベルの攻撃を、テクニックとセンスで回避しながら反撃するローズマリー。


「婚約破棄ハリケーン!」


「ダーク婚約破棄トルネード!」


 攻撃は相打ちに終わる。

 お互いの戦闘を熟知しているからこそ、攻撃は決まらない。


「いきますわよ!」


「はああぁぁぁ!」


 距離を取り、すぐさま花嫁令嬢となる。

 誰もが美しさに目を奪われる瞬間にも、二人の攻防は続く。

 その力は互角。


「ホーリーライトニングロンド!」


「ダークネスローズブレイク!」


 この日のために鍛え直した技も、決定打にはならない。

 勝敗を決めるものはただ一つ。


「ここまでは前座……当然コントロールはできるのでしょうね?」


「ええ、お見せしますわ。完全なる花嫁令嬢……お色直し!!」


 リッチ戦よりも更に輝きと気高さを併せ持つ、脅威の令嬢パワーである。


「そう、それくらいしてもらわねば、ライバルとは認めませんわ!」


 二人のお色直しが完了し、戦いは熾烈さを増す。

 だが二人は笑っていた。全力でぶつかることのできるライバルが、成長を喜ぶ友がいる。それが二人の魂を高め続ける原動力であった。


「悪役令嬢究極奥義!」


 光あるところに闇がある。悪役令嬢と正義令嬢は表裏一体。

 戦いはこれからも続いていく。


「正義令嬢究極奥義!」


 しかし、戦いを通して生まれた友情がここにある。

 令嬢界に咲き誇る花々。それは人々の心に残る美しき煌き。


「ごきげんようバスター!!」


 その煌きは、これからも失われることはない。

 令嬢達がいる限り、世界の平和は守られていくのである。


 完。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪役令嬢? いいえ時代は正義令嬢ですわ! 白銀天城 @riyoudekimasenngaoosugiru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ