賭博倒れの怪男児

帯来洞主

賭博回胴録

 あれは3年ほど前――就活も終盤の頃だった。

 親にこれ以上迷惑掛けられないんで、キャリアセンターを通して紹介された会社に最終面接に行ってから1週間音沙汰無しの中、今日も会社説明会前に地元のパチスロ屋に来ていた。



「はぁ~マジで使えねぇ。何なんこの糞雑魚眉毛ミルクリバースがよ」



 この日もこの日で僕はパチスロを打っていた。


 僕が本格的に博打狂いになったのは、更にその1年前からのパチンコから始まる。

 パチンコは何も考えずに死んだ魚のような目で液晶を見て、確率の抽選結果を見るだけなのだが……パチスロは己の立ち回りを試されるので、こっちの方が性に合ったのだ。



 そもそもパチスロって何ぞやと思う人に、軽く説明をしとく。


 * * *


 パチンコ屋とかにあるスロットの筐体、いっぱい並んでますね。純粋なスロットのような台やアニメとかゲームのタイアップ、萌え台などいろいろあります。


 正直勝つ負ける関係なく打ちたいのならば、好きな台に座ってください。


 ただスロットには1から6までの『設定』というのが台ごとにあります。お店の中のほとんどは基本設定1ですが、もしかしたら数台高設定があるかもしれません。イベントデーなどで多くの台の設定とかを高くしたりすることもありますので、傾向は各々で掴むとして、勝ちたいのなら設定が高い台ほど当たりやすい期待度が高まるというものです。


 決まったら座る。千円札以上を筐体の隣にあるサンドという小さい穴にお札を注いで、メダルが50枚or100枚か出ます(レートによる)。


 メダルを3枚入れて、レバーを押し、リールが回るので左から順にボタンを3つ押す。その中では演出が出ると同時に小役が成立し、もう一回回せるとか、強めの演出が混じると当たりに直結するかもしれないレア役というのがごく稀に来ます。


 これで1ゲームを消化。等価レートなら千円で平均25~35ゲームくらい遊べます。



 時間の許す限りずっと行いますが、機種によって「このゲーム数まで打ったら必ず当たります」という天井があります(無い機種もあります)。例えば1500ゲーム打ったら当たる場合、天井に近いところのゲーム数で誰も座ってなければ、少ない投資で早く当たるかもしれないです。


 ただ当たっても、その大当たりから更に連チャンしないとまた投資を1から続けるという苦行を強いられるので、こういうところで設定とかが効いてきたりします。


 * * *


 基本的な説明はここまでにして、就活を始めて間も無くしてパチスロにハマってしまった僕は、いつもパチスロを打ってから説明会や面接に行く予定ですが……――――



● 一日の流れ ●


①午前中に財布のお金を失います


 そのとき既にかなり当たったりしてメダルを景品に変えて取り戻していればまぁ許せる。


 投資額によってその日の気分が決まります


・0円~2万円  授業料。まだまだこれから

・3万円~4万円 今日だけで取り戻せる気がしない

・5万円~6万円 吐きそうになる

・7万円~8万円 お股がムズムズする

・9万円以上~  わーい!たーのしー!


②大丈夫、ATMから引き出せば見た目はチャラだから!!


 負けてる時点でやめた方がいいんですけど、時と場合によります。もうすぐ天井とかで当たるとかなら、やめる方が負けてしまうんで。もし目ぼしい台がないなら本当にやめてます。


③うんうん、それもまた博打だね。

 結果は負け。反省会。そしてまた明日になる。



 勝つときがあってもそれを継続させねば最後は負け。お金の無駄。

 ただ就活も途中が良くても面接で落ちたら、時間の無駄ということで、僕は博打に逃げておりました。




 ただその日は違う。2万円ほど溶かしていた、お昼の12時頃で――――



『(主人公)北斗○拳は無敵だ!』


「堂々と嘘をつくな」


『(敵)ぐはぁっ!!』


「!?!?!?!」


 普段は絶対勝てない相手なのに一発で……多分まぐれだろうなぁ。


 そんなこんなで当たりを消化して、どんどんメダルを増やしていく。



 また当たり。また当たり。また当たり。また当たり……。



「どうなってんだコリャ」



 全く連チャンが終わる気がしない。

 普段博打に逃げている自分並に心の弱いゲーム内の主人公が、まるで自分の中のなにかが覚醒でもしたかのように、次々と当たりを連発させていく。



 投資分のメダルはとっくに取り戻し、その倍くらい膨らませていた時だ。


 連チャンがとうとう終わり、また1からの打ち直しでも、もしかしたら引き戻すかもしれない規定のゲーム数の間を打とうとしていた時――――



「ヤバい。あと1時間で会社説明会だ……」



 今日説明会を受ける会社は、結構個人的に入りたいと思っている会社だ。この会社の説明会を、パチスロ打ってたからぶっちするのは正直まずい。走って電車に乗れば30分くらいで着くのだけれども、息を切らして行くのは疲れるし……。



 するとだ――――



『(敵)ぎゃああああああ!!!』


「!?!?」


 あーあー、やはり引き戻しちまった……。

 仕方ない。これは当たりを消化して終わり次第急いで説明会に行こう……!


 そんなこんなで、大急ぎでレバー叩いてボタンを押す作業をしていく内に、また1万円プラスになった。


「ああああああ、もう! 早く終われよ!!」


 こんな時に限ってばかすか当たりが続くとは、嬉しいのか悔しいのか分からん!

 尿意に近い緊張感に襲われながら、当たりを消化している真っ最中だった――――


「ん??」


 携帯にメールが来た。母ちゃんからだった。





『この前の会社から最終面接の結果が電話で来て、内定が出たよ』





「…………………………………」




『スペシャルバトル突入~!!!』

 更なる大当たり中の大当たりも引いた……多分当分終わらん。




 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!



 俺はすかさず携帯を取って騒がしいパチスロホールから出て、電話を掛けた。




『はい。株式会社○○です』




「しゅ、しゅまにゅ~~~~~~~~!!!! 今日の説明会キャンセルするナリよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!(すいません。本日の午後18時に説明会の予約をしていた者ですが、急用の為キャンセルさせていただいてもよろしいでしょうか……?)」




『分かりました』




「うぇいっすwwwwうぇいっすwwwwwへ~いwwwww」




 俺はまたホールに戻ってドル箱に貯まりに貯まったメダルにうっとりし、後は何も考えずに打つことにした。




「(でも……どうなんだろ。今日まで音沙汰無かったあの会社、そこまで第一希望って訳でもないし)」




 結局この当たりの連チャンも、当分終わらない可能性が高いだけで、引きが弱ければ4、5万円の勝ち分になるだけ。そんなのは、一ヶ月やってりゃ勝てる金額ではあるし、またいつか溶けるお金でもある。



 そんなことを悠々と考えている内に、連チャンは閉店ギリギリ手前で終わるまで打たされた。




 ……結果、2ヶ月は過ごせるお金を稼いだ。




「うわぁ……これは天命ですね。入社するしかない。何だこの引きは……たまげたなぁ」




 その時点で僕は人生の賢者モードに至っていたのかもしれない。


 お金を稼ぐのが大変だということをこれから働いてその身で味わう。そんな時にこんな勝ち分をいただいたら……――――



 もうギャンブルやめるしかない――――



 よし、明日から真面目に生きよう!



 こうして内定が決まると同時にギャンブルをやめられた僕は、分厚い財布を締め、ルンルンとした気分で家に帰るのであった。



 後日、● 一日の流れ ●の①に戻り、これを5回繰り返す。

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