2-オモテトウラ
「…………っ!」
意識が覚醒する。目覚めた場所は、草原だと思う。はっきり言い切れないのには勿論理由がある。色が無いのだ。自分の体も、先程まで青く美しかったこの空も。全てに色が無かった。
「此処は…………何処?」
俺と同じように、自らが立っている場所が分からない少女が居た。
「あの、大丈夫、です、か?」
真面(まとも)に人と話した事のない俺はしどろもどろになりながらも話し掛ける。
「えっと……大丈夫だから心配するな────って爽良(そら)か。…………お前も私と同じ。此処に飛ばされたのか?」
爽良……ってのは俺の名前。邪(よこしま) 爽良(そら)。姓と名に全くの共通性を感じるどころか正反対の意味なんだが。…………まぁそれは置いといて。目の前にいる少女────いや、瑞那に俺は言う。
「あぁ、俺も飛ばされた。というか自分で自分を飛ばしたってのと意味は近いと思う」
「それもそうだな。私も新しい世界に目を光らせこうやって此処に立っている訳だしな」
瑞那が空を見上げた。釣られて俺も空を見る。相変わらず、空は灰色をしていた。
灰色の空を見ながら、俺は瑞那に問いかける。
「…………なぁ瑞那。どうしてこの世界は無色なんだと思う?」
少し、かなり少し気になっていた疑問を彼女にぶつけてみた。俺自身、最も気になっていた事だ。態々無色にした意味、そしてその意図。正直、一言で括ってしまえば、この世界の何もかもに疑問を持つ。«新しい世界»。すると、彼女らしくない答えが返ってきた。
「そうだな……表と裏…………表裏(ひょうり)の関係。昔、本で読んだ事がある。意地悪な神様は、人々に殺し合いをさせるんだ。表と裏、二つの世界に分けて、な。表の世界は鮮やかな色で、殺し合いなんか起きないんだが、裏の世界になると、無色になって、殺し合いが発生するんだ」
それはまるで、まるで…………
「…………じゃあまさか、意地悪な神様とやらが天に居て、今から俺達に殺し合いをさせようって言うのか……?」
「多分そうだと思う。ほら、人が増えてきた。きっとそろそろ、殺し合いをせざるを得ない事態になるんだよ、きっと」
瑞那がそう言った刹那、空に色が出来た。それも、赤く、紅く、赤く染まっていた。
そして、余りにも無機質な声が聞こえた。
『────ご機嫌は如何かしら? 私が言いたい事、もう分かるわよね?』
その声は、こちらを卑下するような声色で話す。
『単刀直入に言うわ。貴方達には«殺し合い»という名のゲームをしてもらう。今此処に居るのは8000人。100人殺す度に一色ずつ色をつけてあげる。最後の1人だけが完成した世界を見られるの。…………勿論、それだけじゃあ貴方達は殺し合いなんてしないわよね。だから決めた。4年以内に殺し合いの決着をつけること。出来なければ…………
貴方達の存在諸共、地球と一緒に消し去ってあげるわ』
…………余りにも、俺達には長い猶予だった。そして、余りにもペナルティが重すぎた。これぞまさに、«殺し合いをせざるを得ない状況»である。
『その代わり、最後の1人には願い事を一つ叶えてあげるわ…………それじゃ、健闘を祈るわ』
やがて、空の紅い色が薄くなり、また無色に戻る。それは、開始の合図でもあった────────
【残り1458日】
«殺し合い»と称したゲームが始まり、2日が経った。俺達の視界の左上には、HPバーと残り人数が表示されていた。まさにゲームだ。残り人数は7925人。実に75名が殺された。どうやら自殺などでは死なないのだが、同じ落下死でも、飛び降りるのと突き落とすでは扱いが変わる。
俺は、この2日の間に5人を殺した。何れも襲ってきたから殺したってだけだが。それでも被害者の15分の1は俺の手で死んでいる。感情なんてとっくの昔に捨てた筈なのに、少し胸が痛かった。
「なぁ爽良、こんな殺伐とした空気の中だ。重い会話とかしてみないか?」
傷だらけの台所で料理をしていた瑞那が話し掛ける。
「……急にどうした。まぁ話すくらいなら幾らでも構わないが」
「…………爽良は躊躇いとか、ないのか? あの、えっと、その…………殺すことに」
何故かしどろもどろになりながら話す瑞那。俺は全く表情を変えず、淡々と言葉を紡いだ。
「…………一々躊躇してちゃ、この世界は終わらない。だから俺は殺す。殺す事で自分の命が助かるなら」
自分でも、非情なことを言っているのは理解していた。俺が瑞那の立場なら真っ先に縁を切るだろう。でも、
「そう、か。悪いな、変なこと聞いちゃって」
瑞那は優しく微笑んで、優しく謝った。
「い、いや、謝らなくていい。また俺の中で決心が固まったから」
「…………」
決心、というのはつまり殺す覚悟の事を指す。人を殺せば殺す程、また次が怖くなる。俺と違って、人は脆いから。弱いから。少しつつけば大怪我をする。軽く叩けば骨が軋む。俺の力は、その位恐ろしく強大なものだ。こんな世界に生きれば、喉から手が出るほど欲しい力だ。…………でも、代償はそんな軽いものじゃない。使えば使う程、自分が壊れていく。削れて、何れは無くなってしまうんじゃないか。いや、無くなるべきなのだろう。
「────ら? そら? おい、爽良?」
「────っ」
瑞那の一言で、意識が引き戻された。
「ん、ごめん。ちょっと考え事してた」
「そうか、ならいいんだが────────むぐっ!?」
「瑞那!?」
無数の手が瑞那を覆い、やがて暗闇の彼方へと去っていった────────
表と裏のセカイ 星空戒汝 @kaina2022
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