表と裏のセカイ
星空戒汝
1-ヒトデナシ
俺は寝ていた。自分の家で、自分の部屋で。だが……
「んぅっ!?」
誰かが口を抑え、誰かが手枷をはめる。身動き一つ取れず、唯一認識出来たのは……
それをやっていたのが家族だったという事。
涙を流しながら、ごめんね……ごめんねと言いながら、俺を縄等で締め付け、意識は途絶えた────。
「…………っ!」
いつも通りの朝。窓を開けてみれば雀の囀り。先程までの悪夢など忘れさせてくれた。
「………………いってきます」
俺は母と父と妹の四人家族だった。でも父はいつも俺を見下して、
「化物! こんな奴、さっさと死んでしまえ!」
と、冷たく、冷酷な目でいっていた。化物、化け物、バケモノ、か。理由は分かっていた。だからこそ、俺は家族との距離を置いていた。母や妹も、最初はその距離に驚いてたが、すぐに慣れ、目すら合わさなくなった。
静寂に包まれた通学路。ひそひそとこちらを睨みながら俺の悪口を言うご近所さん。聞こえていないとでも思ったのだろうか。俺は睨み返す。少し怯みあげ、そそくさと去っていった。
もし、もしも、この世界に神が居たとしたら、神はどんな意図でこの世界を創造したのだろう。きっと、人と人が協力しあい、幸せな世界に────なんて、考えてたんだろうな。だが、現実は違った。人と人が協力しあうが故に争いが生まれ、差別、格差などといったものが生まれてしまったのだ。
「────どうしたのさ、俯いちゃって」
「瑞那(みずな)か、別に、«神»について考え事をしてただけだ」
「«神»、ねぇ。私は神なんて居ないと思ってる。こんな理不尽な世界を創る事が目的なら、それは«神»じゃない。ただの欲望に塗れたモノさ」
「相変わらず凄いこと言うな」
彼女の名は瑞那(みずな) 琴(こと)。見た目は甘めの高校生で、黙ってりゃモテると思う。だが口を開けば言葉を失う程凄いこと言うからあんまし人が寄り付かない可哀想な子。それに加え«人でなし»の俺なんかと一緒に居るから好感度は右肩下がりだ。
「瑞那もさ、俺なんかと一緒に居ないで友達作ればいいじゃんか」
「…………まだあの事引き摺ってんのか? ならすぐ忘れるのが一番さ。少なくとも私は君の事を«友»として見ているのだが」
「そうか、お前に何を言っても無駄だったな」
「あぁそうさ、私に何を言っても無駄だ」
そんな話を彼女としていると、ふいにトラックが俺目掛けて突っ込んでくる。周りの同級生から見れば、「あぁ、此奴死んだな」と思うのだろう。いや、思った。だが俺は手をトラックへ向け、
「飛べ」
の一言でトラックを吹き飛ばした。トラックの車体は再起不能までボロボロになる。
「なっ…………此奴、人じゃない…………! ひ、人でなしだっ!!」
誰かが俺を指差して叫ぶ。«人でなし»、か。そういうのも無理はなかった。«人»でないモノ。
これが、この忌々しい力が、俺の«人でなし»と呼ばれる因で、俺の人生を狂わせた力だった。
「やっぱ、その化物みたいな力は凄いな。私はそんな力を手に入れてやりたいよ」
瑞那がギュッと拳を握る。
「その力があれば、私は失わずに済んだからさ…………大切な人を」
「…………瑞那。二つだけ言っておく。一つ、この力はそんな羨ましがるようなモノじゃないこと。もう一つは、学校、遅刻するぞ?」
「え? あ、忘れてたよ」
涼やかな表情を保ったまま、瑞那は恐ろしい速度で校舎へと向かっていった。
俺はどうかって? 別にいいさ。学校を遅刻して生徒指導────なんてよくある事だから。
所謂不良。所謂問題児。それが俺の立場で、居場所だった。
いつまで経っても変わらない景色。俺を取り巻く環境だけが変化していく。それに飽き飽きしていた。いっそのこと、死んでしまいたかった。この力を手放せるなら、俺の人生は劇的に変わっていく。
ふと角をみると、紺色のコートに身を包んだ女性がこちらに歩いてくるのが見えた。その女性は、ゆっくり、一歩ずつ近寄ってきて言った。
「新しい世界は如何ですか?」
目の前に選択肢が現れた。少し驚いたものの、すぐ前を向き、選択肢を読んだ。
【 Yes・No 】
素朴で、シンプルで、ゲームのよう。俺は特に考えることもなく、Yesを押した。というより触れた。
「…………この選択が吉と出るか、凶と出るか…………それは貴方次第」
俺の体が白い羽毛で包まれる。足から少しずつ体が透けていくのが分かる。やがてその羽毛は顔までやってきて、丁度全身が羽毛で包まれるのを確認してから、女性は妖しげな笑みを浮かべ、
「さようなら」
その一言で、俺は、俺の体は────────消えた。
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