じゅんばん
獣八
じゅんばん
それは巨大セルリアンを撃退した少し後、かばんちゃんが旅立つまでの一ヶ月の間、じゃぱり図書館での出来事でした。
「かばんに頼みがあるのです」
いつもの様にのんびりと静かな、でもいつになく真剣なひとみでミミちゃん助手はそう言いました。
「頼み……ですか?」
「そうです、頼みなのです。かばんにしか出来ない、とても重要な頼みなのです」
答えるかばんちゃんに、かぶせて喋り始めるコノハ博士。どうやら少し焦っている様。
かばんちゃんは少し戸惑います。時々失敗もしますが、博士たちは賢く、料理以外の問題なら、大半は自力で解決してしまいます。
「分かりました、僕にできる事なら……」
そんな博士たちが頼るという事は、きっと一大事。かばんちゃんはドキドキしながら続きをうながします。
「かばんならそう言ってくれると分かってました」
博士は内心ほっとしながらそう言うと、懐から何かを取り出しました。
それは、一冊の絵の描かれた本でした。
「これは……本ですか?」
「そうです」「そして頼みとはこれなのです」
二人が開いた本に、かばんちゃんは驚きます。なんとページがバラバラです。
困ったように、博士と助手は頼みをつげます。
「「この本を、元に戻して欲しいのです」」
本のページを、正しい順番に戻す。
当然、かばんちゃんはそんな事をしたことがありません。困ったかばんちゃんはフレンズに声をかけ、一緒に解決してくれないか頼みます。
ですが、時刻は正午。フレンズの大半は外で遊んでいるか、お昼寝中です。
結局集まったのは近くにいたサーバルちゃん、アライさん、フェネックちゃんのいつもの三人―――博士たちと合わせて合計六人でした。
「なにこれー!」とサーバルちゃんはバラバラになった本ページを手に持って興味津々。アライさんも「こんなんはむれで分け合うのだ!」と意気込み十分。フェネックはそんなアライさんを楽しそうに眺めています。
さて、この中で文字が一番読めるのはかばんちゃんです。その為、かばんちゃんが読み聞かせをするかたちで伝え、皆で順番を考えていく事になりました。幸い、最初の部分は壊れていません。
「じゃあ、いきますね……むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがすんでいました……」
「ねえねえ、おじいさんとおばあさんってどんなフレンズなのー?すみかはどんなかたちー?」
早速、サーバルちゃんから質問がとびます。かばんちゃんはそれに答えようとしてページをぱらぱらとめくり、ある事に気づきます。文の横に必ず絵が付いているのです。
「えっと……多分、この文の内容を絵が教えてくれてるんだと思います」
先程読んだ文の左側、確かにそこには、小さなじゃぱり図書館の様な四角い建物と、その中で暮らす二人のヒトのフレンズが描いてありました。
「ほんとだー!てことは二人はヒトのフレンズなんだ……でも、カバンちゃんと比べるとしわしわだね……」
不思議―!とサーバルちゃんが驚く横で、フェネックちゃんがぽつりと言います。
「でもさー二人の内どっちがおばあさんで、どっちがおじいさんなんだろうねー……アライさん、どちらがおじいさんだと思う?」
「え、ええと……こっちがおじいさんっぽいのだ!」
と当てずっぽうで指さすアライさんを見てニコニコと楽しそうに笑うフェネック。きっとこの集まりに参加したのも、カバンちゃんの役に立つ為に必死に考えるアライさんという、ほほえましい光景を見たかったからでしょう。
さて、その後はいくつかのトラブル―――例えば、『おばあさんが川にせんたくしにいった』際の「せんたく」とは何かという事を皆で考えたり、『ももから出てきたフレンズ』の話を聞き、実際に桃の木が植えてある場所へ向かおうとするアライさんを博士たちが必死に止めたり―――を除けば順調に進んでいきました。
問題は、桃から出てきたフレンズ『ももたろう』が『おに』という名前のセルリアンを退治する為、おにが住む『おにがしま』に向かう途中の事でした。
おにがしまへの旅の道中、ももたろうは『きびだんご』というじゃぱりまんを渡し、『さる』『いぬ』『きじ』という三人のフレンズを仲間にします。
問題はその順番でした。誰が最初に、二番目に、そして最後に誘われたのかどこにも書いていないのです。
ここで皆で意見が分かれます。サーバルちゃんは「イヌはにおいをかぐのが上手らしいから、イヌがきびだんごをさいしょに見つけたんじゃないかなぁ」とかばんちゃんに伝え、博士たちは「我々トリは遠くまで見渡せるから、最初に見つけたのはトリのはずなのです」と主張し、アライさんも「サルは頭がいいらしいから、きっとサルに違いないのだ!」とゆずりません。
誰が最初に仲間になったのか、話が終わらず皆が少しイライラし始めた頃に、本をパラパラとめくっていたフェネックちゃんがある事に気づきます。
「ねえカバンさんー、ページの端っこにあるこの数字、一体何だろうねー?」
「え、数字……?というかフェネックさん、文字読めたんですか!?」
「んー、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないねー」
のらりくらりとうそぶきながら、でもそんなことより、アライさん達喧嘩しそうだよー?と少し本気で心配するフェネック。
確かに喧嘩は良くない。かばんちゃんは優先順位を切り替えます。
そうして、小さな数字を見たかばんちゃんは閃きました。
「皆さん、分かりました!ページの下にある数字を小さい順に並べると、正しい順番の物語になるんです!」
解決は一瞬でした。いぬ、さる、きじの順番がページ的に正しいことを確認し、その流れのまま本を整え、ついに本を元に戻すことに成功したのです。
イライラしていた皆も今までのページと見比べながら納得し、やったー!、すごーい!と各々喜んでいます。
「良くやったのです。見込んだ通りです」「流石かばんなのです……どうしました、かばん?」
でも、当の本人であるかばんちゃんの顔は難しいままです。
「でもなんで……なんで、いぬ、さる、きじの順番で仲間になったんでしょうか」
確かに、どうしてその順番なのかはどこにも書かれていません。
再び皆の顔が暗くなり始めた時、唐突に声が響きます。
「大丈夫なのだ!このアライさんに任せるのだ!」
アライさんでした。
「アライさんは、このお話が好きなのだ」
アライさんは語ります。
困ってる人を見捨てられない『ももたろう』が好きなのだと。
強い『ももたろう』が好きなのだと。
―――でも、そんな桃太郎も三人のフレンズがいなければ『おに』を倒せなかった、と。
「大事なのはじゅんばんじゃなくて、だれと何ができたか、だと思うのだ」
そう言うとアライさんはじっとかばんちゃんを見つめます。
「ももたろうさんはフレンズと協力して『おに』をやっつけたし、同じようにかばんさんはパークを守ったのだ」
それが、一番なのだ。
『ももたろう』とかばんちゃんを重ねて、そう笑顔で言い放つアライさんは、どこかかっこよくて。
「じゃ、謎も解けたし外で遊ぼっか」とアライさんを連れて行くフェネックちゃんが「かなわないなぁ……」と呟いたことは、昼下がりの青空しか知りませんでした。
「そういえば、どうして本はバラバラになってたの?」
「ぐ、偶然ですよ偶然……たまたま見つけたのです。落として壊したりなんかしてないのです」
サーバルちゃんの質問に答えた博士の身体は、何故かギクリと震えたそうな。
おしまい
じゅんばん 獣八 @kikui
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