第五十七話
それから、どれくらいの時が経ったんだろう。
幻想の世界を旅していた頃を、アルバムの中の懐かしい思い出みたいに懐かしめるくらいには時は経ったし、いろいろなことがあったと思う。
でも、ついにその日がやってきたのだ。
「抱きしめても止まらないくらい大好きなえっちゃんとの! 通算100回目のデートが!」
「……みゃこ。口から妄想がたれ出てる」
「いやな言い方するねぇ、えっちゃん。妄想じゃなくて本音なのに」
セーラー服の可愛いえっちゃん。
本名坂額恵美(さかびたい・えみ)。
アタイ、二希観弥子(ふたき・みやこ)は、そんな連れないえっちゃんの手を取り、デート……もとい、あるお宅を目指していた。
「でも、よく見つけられたよね。この無駄に広い世界でさ、さすがるしあ様々ってとこ?」
「そのうちにやばいとこに侵入して、つかまる未来しかみえないけど」
ちょっと大人びて、毒舌スキルを身につけてるけど、やっぱり根本は変わらないえっちゃん。
やる気のなさそうに、そんな毒を吐いている。
「しっかし、こんな近くの町にいるとは思わなかったよね。そう言えば、舞香たちは? 連絡取ったの?」
「……大勢で押しかけられてもこまるだろうからって、いつもの毒味役の先発隊」
「うわ、懐かしい、そのフレーズ」
思わず、今までの色んな苦労が思い出されて、苦笑するミャコ。
まさかねぇ、アイラディアの世界が、ほんとにアキにつくられた世界だったとは思ってもみなかったわけだけど。
「うん、ここかな」
やがてえっちゃんは立ち止まり、空を見上げる。
「でかっ、億ションじゃん。もしかしなくても、アキってお金持ちのお嬢様?」
「わかんないよ。もしかしたらお嬢様じゃなくてお坊ちゃまかも」
「えー? 女の子のフリしてたってこと? ……それは見たいような見たくないような」
「あんな世界つくっちゃうようなひとだから。可能性はゼロじゃないかも。やめとく? 男の子ぎらいのミャコさん?」
楽しげなえっちゃん。
部屋番号を確認し、玄関ホールのインターホンがある場所へと向かう。
そんなえっちゃんに、ミャコは慌ててついていって。
「うぅ、緊張するなぁ。何て言えばいいんだろ」
もうそれは治ったもん! ってとこを主張するみたいにえっちゃんの隣に並ぶ。
「正直にいえばいい。あなたのつくった世界からやってきました、って」
「……そだね」
インターホンの向こうにアキが出たら、どんなリアクションをするんだろう。
そう考えたら楽しくなってきて。
ミャコはえっちゃんと顔を見合わせると。
えっちゃんと一緒になって、そのボタンを押したのだった……。
(つづく?)
バッドエンドから始まるやさしくてニャーゲーム! 陽夏忠勝 @hinathutadakatu
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