第4話 黒龍撃退戦2

「街を散策してみたが、気になる店がたくさんあったぞ。この広場の景観もまぁ多少散らかっているが風情があって悪くない。それから―」


「お前、なぜここに・・・?」


俺の発言を文脈から丸々無視して、やっと絞り出した声で問いかける。


「ドラゴンを食ってやろうと思ってな」


「あれはお前がやったのか?一体どうやって・・・?」


恐らくアリシヤや騎士団には丸腰で突っ込んできた狂人にでも見えていることだろう。

俺の武器は現状周囲の人間には目視できない。


「・・・今はそんなことよりこの状況をなんとかしないとな。」


言うが早いか地を蹴り上げ、尻尾を切り落とされ狼狽しているドラゴンの頭の高さまで跳躍する。


「奔れ!爆炎の双刃!焔剣イグニクス!」


俺がそう叫ぶと、両の掌に刀身に炎を纏った双剣が顕現する。全長は通常の片手剣の7割程度、赤熱した刃を持つ魔法剣だ。

その片方をドラゴンに向かって投げナイフのように飛ばす。


「ギャァァッ!」


左の眼球に命中し、痛烈な悲鳴を上げドスドスと2,3歩後退する。


「イグニス・エクスプロージョン!」


そう唱えると、左目に刺さったイグニクスの片割れが爆発する。


「グオオオオァァァ!!!!」


これまでで一番大きな咆哮をすると、黒龍はよろめきながら翼をはためかせた。

着地した俺は爆破の衝撃で左目から抜け落ち、落下してきたイグニクスをキャッチした。


黒龍は羽ばたきながらその巨大な身体を飛翔させ、目からは煙をふかしながら高度を上げていく。

やがてよろよろ不安定に7,80メートル程上昇し、口に黒炎が灯りだす。


「まさか・・・!」


口内の黒炎が徐々に丸い形を帯びて口いっぱいの大きさになると、黒龍はそのどす黒い火の球を口から一気に放出した。

放出されたそれは、居住区の一画に着弾すると、凄まじい音を立てて周囲を焦土と化す。

そしてクレーターとなった居住区に見向きもせず、黒龍はそのままフラフラと元来た方角へ飛び去って行った。


「やられた・・・。」


黒龍の最後っ屁に一同は唖然とし、俺は飛び去って行く黒龍の後姿をただただ眺めることしかできなかった。


「あの・・・。」


不意に声をかけられ後ろを振り返ると、和装の少女キリンとキリンに肩を借りているアリシヤの姿があった。


「助けていただき感謝します。我々だけでは黒龍を撃退することは叶わなかったと思います。本当にありがとうございました。」

「私からも感謝の言葉を言わせてくれ。危ないところを本当に助かった。私だけでなく、あのままでは最悪騎士団は全滅。被害も今以上のモノになっていただろう。」


二人はそういうと深々と頭を下げ俺に感謝の意を示す。手に持っていたイグニクスを元の見えない姿に戻すと


「・・・気にしないでくれ。それよりも被害状況は?」


慣れないストレートな感謝の気持ちに居心地の悪さを感じ、無理やり話題を切り替える。


「ああ。今団員数名を火球の着弾地点に向かわせている。それから騎士団から出た死者は1名、重軽傷者が17名ほどだ。幸い一般市民の死傷者は出なかった。」

「あの食われた奴か。まぁでも一般市民に死人が出なくてよかったな。迅速な騎士団の働きの賜物だろう。」


死者が出てしまったことは残念だが、黒龍相手にそれだけの被害で済んだのは奇跡に近い。


「ちょっといいかね?」


女騎士たちとしゃべっていると、貫禄のある男の声がする。振り向くと体格のいい髭面の中年の男が立っていた。


「私はレインシュタット王国、ガウェイン騎士団団長のガイア=マルセウスだ。君が窮地を救ってくれた、あーっと・・・」

「ルクス。ルクス=クルシエイト。」


男が名前を聞いているのだと咄嗟に判断した俺はそう名乗ると、


「ルクスか。この度は助力感謝する。」

「騎士団長というのは何人もいるのか?」


アリシヤも騎士団長という話を思い出した俺はそう尋ねると


「そうだ。我々騎士団は大きく12個の部隊に分かれている。その中でもガウェイン騎士団は王直属であり、他の部隊を統括するトップの精鋭部隊だ。」


アリシヤが肩を借りていた姿勢から正し、敬礼をしてから応答する。


「本来なら我々が来て黒龍をどうにかすべきだったのだが一般市民である君に助けてもらったのは面目ないと思っている。一度、感謝の意を込めて礼がしたい。騎士団の宿舎まできてくれるだろうか?」

「俺はこの国の人間ではない。ただの旅行者だぞ。」

「そうだったのか。ならば尚更だな。どうかね?」


有無を言わせない独特の圧力に負けた俺は、そもそも断る理由もないので首を縦に振ると、満足そうにガイアは頷いた。


「アリシヤ君。彼を宿舎まで案内してやってくれるか?私は先に王宮へ戻りレインシュタット王に報告に行かなくてはならない。」

「はっ。承知しました。」


ガイアは白い馬にまたがり数人の騎士たちと走り去っていった。

そして『後のことは任せた』とキリンに告げると、歩き出すアリシヤ。追いかけるように俺たちもその場を後にした。

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二律背反のアンチテーゼ 七篠権兵衛 @nnbnkj

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