サーバル「しあいしようよ!」




※前回の『サーバル「やきゅーしようよ!」』の続きということですが、前の話を読んでなくても大丈夫です。

一部の者を除き、フレンズたちは野球のルールを熟知しているという設定です。




ある日、かばんは【ゆうえんち】の近くで、不思議な球を見つけた。

ボスに訊くと、それはパークにヒトがいる頃遊ばれていた【やきゅー】という競技で使うボールらしい。

かばんとサーバルは、フレンズたちを集め、その【やきゅー】をみんなでやってみることにした…………


「じゃあ…………行くよ!」


マウンドに上がったサーバルは、楽しそうに飛び跳ねながら大きく叫ぶ。


「ぷれいぼーる!!」


そして振りかぶり、 第1球を投じた。


「いっけーーー!!!!」


左腕から放たれた速球はナックル気味に揺れ動き、打者の空振りを誘う。


「…………あれ?」


しかしそこにストライクのコールはなかった。


『サーバル、今のはボークだヨ。』

「えええっっーーー!!??

…………ぼーくって何?」

「サーバル、ぼーくを知らないのですか?」


相手チームの一番打者【スナネコ】が、おっとりと、だが少し嘲笑気味に尋ねる。

すると、それが癪に触ったのかサーバルは、


「知らないよ!」


と、頬を膨らませて答えると、前にいた球審のボスが説明しはじめた。


『投げる時プレートから足が離れてたらダメなんヨ。

ボークになると走者は一塁ずつ進めるんダ。今はいないから投球のやり直しだネ。』


サーバルの速球は、ジャンプと同時に投げられていた。 コースも良し、アウトも取れる良い球だったのだが、ここで得意のジャンプが仇となってしまったのだ。


「サーバルちゃん! ジャンプしながら投げちゃダメだよー!」


と、捕手のかばんにも言われると、


「えー、ジャンプしながらのほうが投げやすいのにー!! この高い土のところ私合わないよ…………」


サーバルは不服そうに愚痴をこぼしながら、渋々とボールを受け取り、マウンドに戻る。


「じゃあ、投げるね。

…………えいっ!!」


一息ついたサーバルは、今度はちゃんとプレートに足をつけて球を投げた。


「また、すとれーと……いや、違いますね。」


一見、ただの真っ直ぐに思えたそのボールは僅かに揺れて、インローに沈み込む。

それに気づいたスナネコは直前でバットを止めた。


『ボールだヨ。』

「えー、すとらいくにしてよー!」


文句を言いながらボールを受け取り、再び構えるサーバル。


「えいっ!!」


そして投じた3球目。


「…………また真っ直ぐ」


ストライクを欲しがったのか、サーバルが投げたのはド真ん中直球。

しかしスナネコがバットを出したのはアウトローだった。


「………落ちるっ」


木製バットのパカンッ!という乾いた音が広場に響き渡る。


「わーい! ボールが来たー! たーのしー!」


ワンバンした打球が向かったのはセカンド。 守っていた【コツメカワウソ】がボールを丁寧に拾い、一塁に送球する。


「アライさんにお任せなのだー!」


そしてファーストはアライさんだ。 ミットのある腕を懸命に前に伸ばし、来たボールをしっかりとキャッチしセカンドゴロ…………のはずだった。


「痛てっ、痛いのだ〜〜 」


思ったよりも速かったボールは、ミットではなくアライさんの顔面を強襲。 エラーとなってしまった。


「あはははっ、ごめんねアライさーん!」

「ううぅ……大丈夫なのだぁ……」


とは口で言うもののアライさんの目には若干の雫が溜まっている。


「へーきへーき! まだ一人目だよ! 頑張ろう!」


「「「おーー!!」」」


サーバルの掛け声で試合は再開された。


「次はプレーリーちゃんだね!」

「はい!よろしくでありまーす!」


2番打者は元気のいいプレーリードッグだ。


「えいっ!」

「早速打つであります!!」


そしてその言葉の通りの早打ち。迷わず1球目を引っ張られ、サードの頭を超え、レフト前へと運ばれる。


「すっごーい!」

「感心してる場合じゃないよサーバルちゃん!!」


流石にこのままでは良くないと思ったのか、かばんが一旦タイムをかけ、サーバルの元へと行く。


「かばんちゃん、どうしたの?」

「どうしたの?じゃないよ! 僕がミットを構えたところと全然違うところに投げてるよ。それに全部変化球って、どこで覚えたの?」

「変化球? なにそれー?」

「サーバルちゃんの球が全部バッターのところで、揺れたり曲がったりしてるんだよ! 一回も普通の球が来てないんだ」

「ええっ、私分かんないよ〜!」


なにやら二人が揉めているのを察したのか、レフトを守っていた【ライオン】が、とぼとぼと歩いてくる。


「もしかしてー、握り方が変とかー?」

「「握り方??」」

「ぼーるって人差し指と中指と親指でピタッと握るだろ? サーバルは爪で掴んでるように見えたんだよねー」

「そうなの?サーバルちゃん!」

「だって、なんか爪の方が安心するっていうか〜…………私、ぼーる投げるのが得意じゃないみたい。」


自慢の爪は、やきゅーには向いていないと気づかされたサーバルは、少し寂しそうに答える。


「サーバルちゃん…………そうだ!」


彼女の得意を活かす方法。かばんの頭には、一つのアイデアが浮かんでいた。


「ライオンさん。サーバルちゃんと代わってあげてくれませんか?」

「えっ?」


サーバルは顔を上げ、かばんを不思議そうに見つめる。

それに対し、かばんは優しく微笑むと、真面目な表情で話しはじめた。


「サーバルちゃんの得意なこと。ジャンプ力を活かすには、外野が一番いいと思うんです。 少し高いボールでも、サーバルちゃんなら取ってアウトに出来る。………だからサーバルに向いてると思って。 どうですかライオンさん」

「あははは、いいよ別に〜」

「ありがとうございます!

よかったね、サーバルちゃん」


ライオンの快い返事、かばんちゃんの声を聞き、サーバルは思わず感極まってしまう。


「かばんちゃん……ライオン……うぅ、ありがとう!! 私れふとで頑張るね!」

『ピッチャーの交代をお知らせするヨ。ピッチャー、サーバルに代わりまして、ライオン。ライオン』

「ふぅ………………」


マウンドに立ったライオンは、深呼吸で心を落ち着かせると、その眼ざしが一気に変わった。


「………瞬殺だ」

「ひ、ひぃっ!?」


打席にいた三人目の【ビーバー】は、ライオンのオーラ、恐怖のあまり、固まってしまう。


「ふんっ!」


そこからはあっという間だった。


『ストライク』

『ストライク』

『ストライク。

バッター、アウトだヨ』

「や、やばすぎっスよ………」


三球三振。

一度もバットを振ることなく、豪速球をことごとく見逃して、ビーバーは帰っていった。


「ふふふ……ライオン! 再びお前と戦えて嬉しいぞ。 いざ、決着の時だ」


4番【ヘラジカ】。

一切臆することなく打席に立った彼女は、楽しそうに、だが緊迫とした表情でバットを構える。


「………行くぞ、ヘラジカ」

「_______来いっっ!!」


宿命の対決。

この時だけは、いつも平和なジャパリパークに、一瞬の緊張が奔る。


「ふんっ!」

「はああっ!!」


草木が鎮まりかえり、響いたのは捕手のミットに球が入る鋭い音だけ。

ド真ん中ストレート。 ヘラジカのバットは完全に振り遅れていた。


『ストライク』

「ふふふふふっ、もっと来い!」


そんな彼女の声と同時に2球目が放たれた。

コースは内角低め。大きく外れるわけではないが、誘うボール。いわゆる釣り球だ。


「くぅぅ!」


スパァんっ!! という音がもう一回。 バットが空を切り、球がミットにそのまま収まった音だ。


「はははっ! いいぞライオン! その球だ!! 次は打てる!!」

「はーあ…………」


どこからその自信が湧いてくるのか。 ライオンは、半分呆れていた。


「(また勝っちゃうのか………いつもみたいに突っ走るだけなのかお前は)」


1球目はド真ん中を振り遅れ、2球目は明らかなボールを無理して空振り。

次もどうせ振るだけ、わかりきってしまったライオンは、早く決着をつけるため、全力で第3球を投じた。


「ぼーる球に〜……手ェ出してんじゃあねえぞ!!!」


火の出るような渾身の真っ直ぐ。

そして、またもヘラジカは空振り、と思いきや………


「はああああっ!!」


振り遅れたタイミングが良かったのか。 パコンっ! とバットの根元にボールが当たった。


「いやぁ〜待ってたよぉ〜、やっと来てくれたよぉ〜」


打球が向かったのはサード。守っていたのは【アルパカ】。 そのまま直に取ってライナーでアウト。

…………だがしかし、


「なんだ、ゴロじゃないのか。ペッ!」


直に取り、ダプルプレーに出来ないのが嫌だったのか。アルパカは球をポロっと落としてしまったのだ。


『エラー、エラー』

「「「うわああああ!!!」」」


内野陣が慌てふためき、絶望したかに思えた…………その時だった。


「ジャガー!」

「はいよー、任せて!」


なんと、投手のライオンがカバーに入っていたのだ。

代わりに三塁を踏んでスナネコをコースアウト。 そしてショートのジャガーに送球し、プレーリードッグもアウトにした。


「や、やった! やったよ〜〜!!!」

「すごい!すごいのだ!!」

「「「おおおおお!!!」」」


ライオン、ジャガーのファインプレーにメンバーは皆大喝采、守備についていた全員が二人の元に駆け寄り賞賛の声をかける。


「いやぁ……負けたよライオン。」


一塁からヘラジカが歩いてきて、ライオンに話しかけた。


「どんな形であれ、勝負は面白いな!」

「うむ、怪我人が出ないならまたやろうぞ!」


二人が仲良く笑うと、それにつられてみんなも笑いはじめた。


「「あはははははっ!!!!」」

「たーのしー!」

「またやきゅーしようね!」

「うん!」


そんなこんなで、ジャパリパークの時間は、今日も平和に過ぎていくのだった…………


「……………終わり、じゃねえぞお前ら!!!!!」

「「「えっ!?」」」」

「一回表が終わったばかりなんだよ!!!」

「え、もういいじゃんツチノコ」

「良くなーーーい!!!」


こうして、平和で賑やかなジャパリパークは1日は、過ぎていくのだった。



おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サーバル「やきゅーしようよ!」 岸田春我 @wamme_wmebunko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ