サーバル「やきゅーしようよ!」

岸田春我

第1話 やきゅーしようよ!


「これ、なんだろ?」


セルリアンとの戦いが終わり少し経った頃、かばんが【ゆうえんち】の周りを探索していると、近くの広い場所で、あるものを見つけた。

白い生地に赤く短い線が小刻みに並んでいる球体。サイズはかばんの拳ほどだろうか。


「どうしたのかばんちゃん! 何かあったの?」


少し離れたところにいたサーバルが、かばんが立ち止まっているのに気付き、駆けてきた。


「あ、サーバルちゃん。 これ何か分かる?」

「う〜〜ん、わかんないや!」

『それは、野球ボールダヨ』


ぴょこん、とボスがカバンから出てきて説明しはじめる。


『《野球》で使うボールダヨ。

そのボールを、《バット》と呼ばれる棒で打って遊ぶんダヨ。』

「やきゅー? ばっと?」

『《野球》は、ヒトが考えた競技ダヨ。

《マウンド》という場所から誰か一人がそのボールを投げて、少し離れたところにいるヒトがそれを《バット》で返すんダ。

上手く当たると気持ちイイヨ。

《バット》は、こんな感じダヨ』


すると、ボスの目が光り、近くの壁に映像が映し出される。


『先が太く、持ち手にいくにつれて細くなるヨ。 その下には《グリップエンド》が付いていて、持ちやすくなっているヨ』

「そのバットとこのボールがあれば、ヤキュウが出来るんですね?」

「なにそれなにそれ!? 私やりたい私やりたーーい!!!」

「ラッキーさんはやったことあるんですか?」


ボスは映像を止め、無機質な声で答えた。


『審判くらいは出来るヨ。全部で四人必要だから、他のラッキービーストに声をかけてみるヨ』


ボスの目が再び光り出すと、近くの草むらから他のボスが姿を現す。


『みんなそろったネ、後は選手だけダヨ。』


ボスがそう言うと、サーバルはウキウキと飛び跳ねながら、


「私、他の子に声かけてくるね!! かばんちゃんもやりたいでしょ?やきゅー!」

「で、でも体を動かすのはちょっと………」

「えーーやりたくないのー!?」

「そ、そういうわけじゃあないけど……」

「じゃあ決まりだね!」


元気よくサーバルは言うと、突如大声で、


「みんな〜集まれ〜〜!! かばんちゃんが遊びたいって〜〜!!」


と叫びながら、元来た方へと走っていった。



***



暫くして、かばんの元に数名のフレンズたちが集まった。


「いーち、にーい、さーん…………全部で……いっぱいだね! 」

「うん、ありがとうサーバルちゃん。

今これで………18人くらいかな?

やきゅーは1チーム9人が最低だから、これで出来るね。」


「えへへ〜〜」


たくさんの仲間を集めてきたサーバルは、かばんにそう褒められると、嬉しそうに手を後ろで組みながら微笑んだ。


「いやなのだー! アライさんが4番なのだー!! ヘラジカは私の後を打つのだ!」

「いぃや、私が4番だ! 」


やる気十分フレンズたちはルールを理解するため、ラッキービーストが映すやきゅーの映像を見せられていた。

そこには人間たちがやきゅーをしている姿、そしてルールなどがわかりやすく音声と共に動画となっていた。


「ならヘラジカとは違うチームでいいのだ! ねー、フェネック!」

「アラーイさーん。 私はパワーのあるヘラジカさんが4番だと思うよ〜」


その中でも、ルールを素早く理解したであろう三人が、チーム分けについて揉めていた。


「そうだフェネック、よくわかってるじゃないか! はっはっは!!」

「うぅーーー、でもアライさんは4番が良いのだ〜〜! ちゃんとほーむらん打つのだ〜〜!!」


4番がいいと駄々をこねるアライさんとヘラジカ。 そしてのんびりとした口調で返しながらも真面目に打線を考えるフェネック。


「い、今ルールを知ったばかりなのにどうしてそんなに話せるの? 私まだよく分かんないのに〜」


サーバルは頭を悩ましながら、項垂れるような素振りを見せると、かばんが優しく説明する。


「たぶんだけど………その足が速くて塁まで確実に行けそうなヒトが1、2番。パワーがあってそれらの走者を返せるヒトが3、4、5、6と続いて、7、8、9は、そこまで打撃は重視しないけど、1、2番にまた繋げれるヒトがいいんじゃないかな?」


するとそれを聞いていたのかボスが、


『だいたいあってるヨ。かばん。 正解とは言い切れないけど、上位打線の役割はそんなところダヨ』


と、横から言ってきた。


「えー、でもそうなの? ………まだ分かんないや!」

「ま、まぁとりあえずやってみようよサーバルちゃん。 たぶん深く考えなくても大丈夫だよ!」

「…………分かった! なら早くやろうよ! 」

「「「おーー!!!」」」


と、みんなが返事をした………その時だった。


「ね、ねぇ」


ボソリと呟くような声が、明るい輪の中に小さく響いた。

皆が声の方を向くと、そこには鋭く眼光を光らせたハシビロコウが、僅かに口を開かせながら何かを言っている。


「は、ハシビロちゃん。どうしたの?」


と、サーバルが訊くと、彼女は申し訳なさそうに言った。


「…………道具は?」

「「「あっ…………」」」


場が固まった。


「道具が……ない。ということは出来、ない……?」

「うぅーー、初めてのやきゅーが出来ないなんて辛いのだ………」


明るかった皆の雰囲気に、暗雲が立ち込める。


「ご、ごめん……私みんなの空気壊したくなくて、言うタイミングを伺ってた…………」


表情こそ変わらないが、半分泣きそうな声でハシビロコウが謝罪する。


「ど、どうしよう…………あっ、ハシビロちゃんは悪くないよ! むしろ言ってくれてありがとうだよ!

…………ねぇかばんちゃん、何か方法はないの?」

「道具……パークじゅうを探してたらキリがないし、作るしか…………」

「あ、あのぉ……【ばっと】と【ぐろーぶ】っスよね……?」


その時、ビーバーが何故か控えめに言い出した。


「私さっき見てて、なんか木と皮と糸があれば全部作れそうな気がするっスよ」

「「「ほんと!!?」」」

「は、はい。 私が作るのはちょっと不安っスけど、作り方は分かりそうな気がするっていうか……」

「じゃあ自分が手伝うであります!!」


ビーバーの一声に反応し、プレーリーが即座に手を挙げる。 この二人が組み合わさればもう安心だ。


「私も手伝うよ!」

「サーバルちゃんがやるなら僕も手伝う!」

「かばんさんがやるなら、アライさんも手伝うのだ!!」


こうしてバットとグローブは、皆の手によって量産。

後、チームも分けられ、空も快晴。風も強くなく、涼しくて心地よい。

今、最高の舞台が整った。


「じゃあ…………行くよ!」


マウンドに上がったサーバルは、楽しそうに飛び跳ねながら大きく叫ぶ。


「ぷれいぼーる!!」


そして振りかぶり、 第1球を投じた。


「いっけーーー!!!!」


左腕から放たれた速球はナックル気味に揺れ動き、打者の空振りを誘う。


「…………あれ?」


しかしそこにストライクのコールはなかった。


『サーバル、今のはボークだよ。』

「えええっっーーー!!??」






つづく?

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