何かあるの?

紀之介

話が見えない

「来週の土曜日…空いてる?」


 電話してきた睦月さんに、文月さんは応じました。


「特に予定はないけど?」


「笹本神社に、一緒に行ってくれない?」


「何かあるの?」


 暫くの沈黙の後で、睦月さんは声を絞り出します。


「─ 植木市?」


「…何で疑問形?」


 再び押し黙った睦月さんに、文月さんは確認しました。


「─ で、植木市に、何しに行くの?」


「私に聞かれても…判らない。。。」


「話が…見えないんだけど?」


「…自分が知らない予定が 勝手に増える手帳の話、聞いた事ある?」


「─ 初耳。」


「… 最近、手帳…買ったんだよね、私。」


「…」


「その手帳に…書いた覚えもな予定が、増えててね…」


「─ それが、土曜日の植木市?」


 文月さんの言葉を、肯定した睦月さんが問い掛けます。


「…これって、従わないと どうなっちゃうと思う?」


「─」


「文月…さん。一緒に…行ってくれる、よね?」


 縋る様な声の睦月さんに、文月さんは言葉を返しました。


「で、駅前のいつもの場所に、何時に居れば良いの?」


----------


「明日の、植木市の件だけど…」


 金曜日の夜、文月さんに睦月さんから電話が掛かってきます。


「駅前のいつもの所に、10時でしょ?」


「─ 行くの、止めても良い?」


 話が見えない文月さんは、睦月さんに説明を促しました。


「…何か、あったの?」


「さっき手帳見たら、消えちゃってたの…予定が。」


「─ え?」


「消えたって事は、行かなくても良いって事だよね?」


「…」


「─ 行かなくて良いなら、あんまり行きたくないかなって…植木市」


 軽く言う睦月さんに、文月さんが重たい声を響かせます。


「む・つ・き」


「…はい?」


「─ 私、明日の予定を開けるために、それなりに苦労したんだけど。」


「そ…そうなの?」


「後、どう行くなら楽しもうと、下調べしまくったって、知ってた?」


「─」


「で…どうする?あ・し・た。」


 文月さんに問い掛けに、睦月さんとしては こう答えるしかありません。


「─ じゃあ、明日は、駅前のいつもの所に、10時と言う事で…」

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何かあるの? 紀之介 @otnknsk

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