らいよん
@ijuksystem
第1話
「ふああぁ……」
しかし、欠伸が出る。眠い。できることなら一日中寝ていたい。爪とぎしたい。立派な木の柱で一生爪をといでいたい。けれど、それには少し罪悪感がある。おかしいな、と思う。もっと私はのんびりしていていいはず。群れはあるけど、ジャパリまんの回収も、日々の揉め事も全部お任せにして、世界の終わりのような事態にだけ、私は必要とされていて、私の爪や牙はそのためにある。
はずだ。
私は玉座にある。
当然だ。私は百獣の王で、万物の頂点に君臨している。それは当たり前のことで、ことさら悩む必要もない。けれど、この身体になってからは、どうにもしっくり収まりがついていない。
このちほーにはお城があって、私はいつの間にか、わけのわからないまま、あれよあれよという間に、言ってみれば祭り上げられ、気がつけばここにいた。
群れの主としては申し分ない。うちの子たちはみんないい子だし、素直で可愛らしい。何より私を主として慕ってくれている。
お城があった。私たちはここにいた。だからここは縄張り。天守閣? は王様が住む場所なので私がいる。何もおかしなことはない。
また柱でがりがりと自慢の爪をとぎ、ふとたてがみの毛並みが気になったので、後ろ足で掻いた。耳や喉元を掻くと気持ちいい。誰かがやってくれればふにゃふにゃに丸くなれる気がするけれど、そこは王として、主としての威厳があったりもする。
「んにゃあ」
もうちょっと掻こうとしてごろんと後ろに転がってしまった。背中がひんやりした床に触れる。心地良くて、しばらくそのまま右に左に転がった。
ていうか、前足? ううん、手で掻いた方がもっと楽だったし、気持ちよかった。どうして今まで私は後ろ足で掻いていたのかな?
「楽しかったー!」
52回目の合戦を終えて、私は私のやせいがかいほーされるのを感じた。いいのかな? とも思った。セルリアン以外に向けていいことなのか、分からなかった。けれど、ヘラジカは純粋に、まっすぐに、何も考えていないかのように、やせいをかいほーしてきたから。力と技のぶつかり合い。それも、本気の。
楽しかった。
最高だった。
誰も怪我しない決まりの中で戦えるなら、この戦いが終わらなくても全然オッケーだと思った。戦いって殴る蹴るだけじゃないらしい。ヘラジカは楽しそうだったし、私も超楽しかった。全然痛くなかった。痛いこともしなくて済んだ。決まりってすごい。それを考え付いたかばんって超すごい。
玉を蹴るのもよかったな。ハシビロコウやパンサーカメレオンがあんな技を使ってくるなんてびっくりした! 玉を潰しちゃったツキノワグマを慰めるのは大変だった。
飛び入りのアライさん達は面白かった。足だけを使うって言う決まりなのに、アライさんはすぐ手を出してしまう。
「それだめー!」
「反則ー!」
みんなに口々に言われて、アライさんは真っ赤になってうつむいてしまった。フェネックと私で慰めたんだけど、アライさんの両手の器用さはすごいと思った。だから、今は足だけの決まりだけど、今度、手だけの決まりができればいい。かばんならきっと、面白いことを考えてくれるだろう。
次はどうしよう?
アライさんたちが、ハカセに頼んでかばんに聞いてくれるって言ってくれた。助かる。
文字? は私たちは読めないけれど、ハカセならきっと遣いを出してくれて、かばんの考えを伝えてくれるって。この島の長だからって。
ヘラジカはもっと暴れたいみたい。それは私も受けて立てるけれど、うちの子たちが痛くなるのはよくないよね。
カメレオンみたいな、隠し芸選手権みたいなのもいいと思う。
アルマジロやシロサイみたいに、足を止めてアタックを受けあう決まりもいいかも。
私は王だ。
うちの子たちは私が庇護すべきうちの子だ。
かばんやヘラジカが望むなら、私の群れの中でいつまでも守る。
寝返りを打ち、床と壁で爪をとぎながら、王たる私の義務を思う。
君たちはすごーい! 褒めるのは王の務め。そして、群れに囲い庇護するのは私の義務。
すごいみんなぜんぶ、群れにできたら、ずっと楽しくて、誰も怪我しないままいつまでも遊べるのかな?
たまにやせいをかいほーしたりもできるかも!
次の決まりが届くのを待ちながら、私は天守の床の真ん中でまた丸くなった。
らいよん @ijuksystem
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
けものフレンズ恋愛短編集/気分屋
★111 二次創作:けものフレンズ 連載中 13話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます