堕落街での邂逅
「出身は?」
「……ロビアゲレハ」
「名前は?」
「……レガシ」
「姓もだ」
「名乗りたくない……」
家族を巻き込みたくなかったのか、姓を名乗るのには抵抗があった。
「ほぉ、訳ありのようだな」
「わかった、行っていいぞ」
(驚いた。名乗らせて記録するなんて、カタラカナカのコミュニティはそこまで大きいのか)
(いや、やってることを考えたら用心するのも当たり前だな)
都市という巨大な存在に多少の恐怖と興奮を感じつつ俺は酒場のドアを開けた。
(すごい賑わいだな)
「店主!ルガータを」
「はいよ」
「お客さんアンタその格好、旅人かい?」
「あぁ」
「そうかい。都市の酒場で情報収集、腰に差した短刀はどう見ても護身用じゃないよねぇ傭兵希望とかそんなとこかい」
「ブッ!なんでわかったんだ!?」
「アンタみたいな無計画な輩は取り敢えず都市の酒場に来るもんさ」
「あぁ、もったいないな。うちのルガータは特別製だよ。」
「確かに、こりゃかなりうまいな。」
「馬鹿言えよ、アンタまだ酒の味を語るには若いよ」
店主は俺を鼻で笑った。
「失礼だな、うちの村は酒造が盛んだったからよくこっそり飲んだもんさ。顔が赤くなるんですぐバレるんだけどな。」
「へぇ、出身は?」
「ロビアゲレハだ」
「そういえばさっきも憲兵に色んなことを聞かれたよ」
「おいおいまさか真面目に答えたのかよ!」
俺は笑われたような気がした。
横を見ると俺と同年代の金髪のエルフの男がこちらを見てニヤついている。
「あーいうのは金貨を何枚か握らせてやるもんなのさ!」
「へぇ、よく知ってるな。」
「あぁ!幼い頃読んだ“レジド英雄伝”に書いてあったんだ」
(衛兵に質問されただけで金貨を渡すような英雄の本なんてろくなもんじゃなさそうだな)
「俺はバギィ。バギィ・ラザニール」
そういうとバギィは俺に握手を求めた。
「俺はレガシ。レガシ・リードエヴォリ」
初めての土地で好意的に接し、なおかつフルネームを名乗ってきたバギィに対して、性を隠すことなどできなかった。
「よろしく」
「よろしくなレガシ。旅人同士助け合っていこうぜ!ところでお前はもう何になるか決めたのか?俺はまず傭兵にでもなって名を売ろうと考えてる。大きな男になりたいからな」
「驚いた……俺と同じこと考えてる奴がいたのか」
「ってことはお前も傭兵希望か?村の奴らには無計画だって笑われたけど同じような奴に会えて嬉しいぜ!」
「……そうかい」
「お互い頑張ろうぜ!」
「あぁ」
「じゃあ俺は人買いの館で雇い主を探してくるよ」
「あぁ。健闘を祈るぜ」
バギィはこちらに手を振ったあと、酒場を後にした。
(俺も行くか)
人買い舘は文字通り人身売買の館なのだが傭兵や吟遊詩人等が雇い主を探し
「ルガータうまかった。そろそろ行くよ、土産に一本つけてくれ」
「24ゴールドだ、またどうぞ。」
人買い舘の扉を開け、雇い主を待つ者たちの集うロビーを見渡すも、バギィの姿はなかった。
(まだ別れてから10分もたってないが……)
ヤバイことに巻き込まれたであろうバギィを心の中で見捨てながら俺はこのロビーでルガータ一本とともに雇い主を待つことにした。
ランブリング戦記 新人 @shinjin
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