二冊目 存在意義から見据える人生の終着点

 貴方のいる世界にも植物がいますよね?

 貴方は哲学的な意味での“植物と動物の違い”について考えた事がありますか?

 俺はこう考える。

「植物と動物の生まれた理由は同じ」なのだと。


 この意味をわかってもらうにはまず、我々“生命体”の存在意義について俺の考えを聞いてもらいたい。

 我々はなぜ創られたのか?

 我々はなぜ繁殖し増え続けるのか?

 この疑問を解決する俺の考えた答えは

【上位存在が創り出した箱庭説】だ。

 大前提の考え方として

「この世界に存在意義を見出す上位存在が存在する」とする。

「上位存在とは、人間が家畜やペットの命を支配しているのと同じように、我々の命を支配している者」とする。

「世界とは、上位存在が観察、実験、鑑賞、その他の目的で創り出した箱庭的空間」とする。


 世界に“生命体”が存在する理由は、上位存在の主な興味の対象が、我々“生命体”だとするのか、世界だとするのか、両者とするのかによって多少変わることになるが、共通するのは“生命体”は世界をドンドン!


「えっ?」


「何をしてるんだ!早く来い!二人とも待ってるぞ!」

「わかったよ!すぐ行く!」

(もうそんな時間か。結論だけ書いてしまおう)



 要は

「“生命体”は世界の……



 俺はふとあることに気付き、ここまで書いて筆を止めた。

(そうだ、この旅で考えが変わるかもしれない。結論を出すには早すぎた。例え完成せずに命を落とすことになろうとも、この先はまだ……書けない!)


 人間族、エルフ族の多くの村や街には“旅人制度”というものがあり、18歳の誕生日を迎えた者は20歳で徴兵を受けるまでの間、ランブリングを旅し、軍役以外の職を探す時間が与えられる。

 この間は、両軍間の

「軍に仇なす者でないならば、互いの種族の旅人に危害を加えぬ事」という条約に守られることになる。

 世界を見て回るというのは楽しみではあったが、想像の世界に浸っていた所を一気に、恐ろしきランブリングの世界に引き戻されたのだ。

 自分の将来への不安を考えていたら例の仮説なんて思い出せなくなってきた。


 (ついに村を出るんだ。一緒に農家を継ごうという兄の誘いを断った俺がこの村に居続けるなんてできないしな。)

 俺は書きかけの本を閉じ、ランブリング戦記と書かれた表示を塗りつぶした。


 金貨の入った袋を持ち、両親を想う。

 短剣1本を腰に差し、いつも俺を心配していた兄を想う。

 いびつだが綺麗な石に糸を通した妹お手製の首飾りを付け、甘ったれで心配な妹を想い寝顔を覗く。


「よし……。」

 気合を入れ、家をあとにした。

 村の入り口で待ってる母と兄と村長が見送りをしてくれると聞いている。

「父さんは?」

「朝早く生産ギルドの会議のために林街へ向かったよ」

「また遠出するのかよ、危ないからギルドになんて参加しないでほそぼそとやってくれって言ってんじゃんか!!」

「ギルドに参加するな??お前は本当に親の仕事について何も知らないんだな。」

「子供の頃からイシャリさんとこに通って戦いの訓練ばかりしてたから軍人になるのかと思ってれば急に学者を気取って本なんか書きやがって!」

「そのうえなんだあの家みたいにでかい石造りの書庫は!“箱の家”なんて言われて笑われやがって!」

「もういい!クリケラ!晴れの門出だぞ!」

「村長……いいんだ。」

「なにがいいんだよ!俺らは家族なのにお前は自分の事を何も話さないじゃないか!お前は何になりたくて旅をするんだ!言ってみろ!」

「クリケラ、もうおやめ」

「………チッ、お前がこの村に戻って来たとしても農園は俺と親父の物だからな。」

「いいんだよ、安心して戻っておいで。テシウさんとこの製材所はあんたが戻ってきても雇ってくれるって言ってくれてるからね。」

「大丈夫、ありがとう母さん。」

「俺この村は好きだけど、この村に住むことは絶対ないよ。」

「そうかい、たまにはメリアに会いに帰って来なよ。今も泣き疲れて寝てるのかい?」

「うん……俺もう行くよ!」

 短剣を携えマントをなびかせ走る自分に、こんな状況でも惚れ惚れしてしまう。

 見てわかるように家族との仲はあまりよくない。

 母は俺を気遣ってくれるし、妹も俺をよく慕ってくれた。兄だって俺に失望するまではいつも心配してくれていた。

 だからこそ俺は申し訳無さでまともに目を見れない。

 少なくとも、俺は家族のために生きることはないから。

「ごめんね父さん、お元気で」

 そう呟く頃にはもう村の門は閉まっていた。


 ほとんどの旅人は、仕事を求めてガレオニアのような人口の多い都市へと向かう。

 俺もそのクチで、傭兵でもやって名を売ろうと考えている。

 「こっから近い都市は堕落街だらくまちカタラカナカか」

 堕落した酒飲みや物乞いが不快な賭博と人買ひとかいと食の街。

 貴族やそれをカモにしようといろんな人間が集まると聞く。

「丁度いい、まずは酒場で情報収集だ。」

 村の中で不安だと嘆いていたのが嘘のように軽い足取りで、俺は社会という大海原へ飛び込んだ。

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