第10話 第5次人型特異体研究報告書

 第五次人型特異体研究報告書


 要約


 特体に実施したインタビュー及びDNA検査の結果、特体は動物から変異した可能性が極めて高いことが確認された。また確認されている特体はすべて発生地域に生息している動物と一致しており、また彼らの記憶情報と地形が一致した。これらのことから特体の発生原因は発生地域にある可能性が高いと推測される。


「インタビュー」


 特体に実施。以下事例を記載する。

 シマリス。インタビューはこれで四回目であり質問者は第一回目からコールマン・アンダーソンが担当。


「やあシマリー、久しぶりだね」

「お久しぶりです、博士」

「今日は君に聞きたいことがあるんだ」

「はい、なんでしょうか」

「君が今の姿になった理由は分かるかね?」

「いいえ。私もどうしてこんな姿になったのか分からないんです。わたし、どうなっちゃんでしょうか?」

「突然自分の体が変化すれば戸惑うのは当然さ。ちなみに変化に兆候は見られたかい? どれくらいの時間をかけて変身を?」

「気が付いたらこうなってました」

「気が付いたら? 詳しく教えてくれるかい」

「私は山の中にいたんです」

「何時頃?」

「昼間でした。いつものように木の枝の上にいたんです。そしたら体が光り出して。気が付いたら今の姿になってました」

「興味深い現象だね。光り出したというのは分からないが、その変身が終わったのはどれぐらいだい?」

「数分くらいだったと思います」

「数分? たったそれだけの時間で、君は動物だった姿から人の姿に変わったのかい?」

「そうです博士。昼間のままでしたし、感覚としてはそれくらいでした」

「その時周りに人間はいたかい?」

「いいえ、誰もいませんでした」

「分かったよシマリー。貴重な情報だ、教えてくれてありがとう。次の質問に移ろう。君は人の姿になる前の記憶をどれだけ覚えているかい?」

「どれだけ・・」

「すまない、曖昧な質問だったね。君は山の中で住んでいた。その頃の暮らしを教えてくれないかい?」

「私はいつも木の実を探していました。見つけるとそれをかじって食べるんです。そうでない時はよく山中を走って遊んでいました。お腹が空いていない時に見つけた木の実は隠しておいてあとで食べるんです。見つからないとたいへんですからね」

「そういえば去年は豪雨があってたいへんだったね」

「そうなんですよ! ほとんど飛ばされちゃって探すのたいへんだったんですから。それに最近は町の人たちが入ってきて木をたくさん切っちゃって。困ってたんですよ」


 インタビュー後の調査で一昨年から民間企業が森林の伐採作業を行っていることが判明。


「そうだったのかい。それはたいへんだったね。今年は雪もたいへんだったろう」

「あれ、いつもは降ってるんですけど、今年はまだだったような」

 

 記録には今年の積雪は確認されていない。


「そうだったそうだった、間違えてしまったよ。今日はここまでにしておこう。ありがとうシマリー」

「いえ、ごきげんよう博士」


 記載は以上。


 インタビューの結果、事例の特体は動物から人の姿になったと明言しており、また当地域に関する詳細な記憶を保持していた。これはほとんどの特体に見られる特徴である。

 特体の衣服に関して製造元を調査した結果、特定はできなかった。その後衣服に使われている毛皮を検査した結果本物であることが判明。DNA検査の結果、本人のDNAと一致した。

 これらのことから特体は動物から人になった可能性が高いと推測される。

 特体が動物から人の姿になった原因は未だ不明だが、これがもし人間に用いられた時、なにが起こるのかを想定しておかなければならない。

 特体からの証言では人間と接触した個体はおらず、変身の手段は散布、感染、照射などの直接的な接触が必要ない、遠距離から行えるものと推測される。

 これらの方法を用い、かつ、人間から動物に変身する場合、それは奇病として発現するものと思われる。人が全身、ないし一部であろうとも動物に変身した場合の個人の精神的負担、人間関係への影響、また集団心理へのパニックが及ぼす影響は計り知れない。

 

 今後、特体を攻撃的手段として捉えるだけでなく、その変身手段そのものに対する警戒も我々は行わなければならない。


 作成者。コールマン・アンダーソン

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジャパリパーク建設経緯報告書 @kanadeseiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ