殺人

 しばらく進むと、不意に遠くの方で何かが光るのが見えた。

 皆で頷き合う。

 他の攻略者を見つけたようだ。

 標的に向け、姉妹が闇を渡り歩く。

 かなり早足なのに音が全くしていないのが不気味だ。

 まぁ、俺自身も音を立てないで動いてるし、傍から見たら同じというか目出し帽被って不気味度アップなんだが。

 

 

 例の光を発したのはやはり攻略者だった。

 白いブレザーを着ているあたり攻略部の部員だ。

 人数は4人。

 全員男。

 名前は知らないのでABCDと呼ぶことにしよう。

 リーダーっぽい剣を持ってるやつがA、銃を持っているのがB、棒を持っているのがC、リュックサックを背負っているのがDだ。

 彼らに気づかれないように後を追うらしい。

 陰に隠れながら様子を伺う。

 

 彼らは危うげなく化物を狩っていく。

 筋肉の腐った鬼、犬と狐をかけ合わせて割り算しなかったみたいな動物、頭だけがない鎧武者。

 先程戦った牛鬼ももちろん出てくる。

 どいつもこいつも俺が戦ったことのある奴らとはレベルが違うのがひと目で見てとれた。

 接触したり噛まれても一発で死ぬレベルじゃなかったしな。

 白い集団はなかなか稼げているようでPTの雰囲気はなかなかいい。

 これを追っていて殺人が起こるのか?

 疑問に思っていると、突然妹が歩みを止めて俺の襟首を掴み、物陰に潜んだ。

 あれ、この子音を消しているどころか息すら止めてるよ。

 本気で気配消す時はそこまでするのか。

 姉が集団を見張りながらこちら来いと合図する。

 二人に引っ張り込まれ、狭い隙間に体を押し込むようにして伏せた。

 柔らかい身体が密着してきてちょっと暑い。

 どうやら始まるようだ。

 一層気配を潜め、覗き込む。

 一見すると今までと何も変わりない。

 姉が黙ってPTと俺達の後方を指差した。

 人影が2つ。

 真っ黒な衣装に身を包み、覆面をしている。

 一見すると影にしか見えない。

 向こうも音をさせておらず、隠密状態だ。

 こちらには気づいているのだろうか。

 影が物陰を伝いながら素早く動く。

 あっという間にひとっ飛びすれば届くという距離だ。

 

 突然、爆発音がしてAの肩が弾け飛んだ。

 剣を持っていた腕が吹っ飛び、続けざまにAの頭が吹っ飛んだ。

 Aの胴体が真っ赤に染まる。

 同時に後ろから付けていた二つの影が動き、最後方にいるBに飛びかかった。

 その手にはそれぞれナイフが握られており、エフェクトを纏っている。

 

 妹が無言でそっと抜け出し、隠れながら駆け出す。

 あっという間に闇に溶け込んでしまった。

 姿を捉えきれない俺には彼女が何処へ行ったのかわからない。

 

 Bの腕があっさりと切り落とされ、首をナイフが刺し貫く。

 影が離れると、Bの身体は洞窟の地面に倒れ込んだ。

 どこからか攻撃、おそらくは狙撃されたAも同様に倒れてしまった。

 これが、ここでの殺人か。

 ゲームだったらPKなどという所だろうが、目の前で繰り広げられる攻略者同士の攻撃はそんな生易しいものには見えない。

 死ねば外に出されるだけ。

 それはわかっている。

 しかし、このような所業が尋常な精神を持った人間にできることなのだろうか。

 呼吸が浅くなり、指先が冷たくなるのを感じた。

 緊張はしているが、俺は十分平静だ。

 目の前で人の殺される光景を見ても取り乱さずに済んでいるが、やはりこれもエフェクトの効果なのだろうか?

 前回も思ったが精神に作用するのは確かなように思う。

 

「……?」


 殺人者達の影が本人の動きからズレているように見えた。

 気のせいか……?

 

 AとBが一瞬で倒れたのを見るや、CとDが荷物を捨てて戦闘の構えを取ろうとしている。

 それでは遅い。

 CとDは武器を構える前にナイフで首を搔き切られ、影二人に殺されてしまった。

 白いPTの死体が蒸発しはじめる。

 肉体だけでなく服や装備も一緒にだ。

 俺も死んだ時はああやって戻されているのか。

 というか化物と同じ消え方なのかよ。

 

 影の一人が堪えきれない、というように笑いだした。

 

「くくくくっ、チョロいな」

「ちーちゃん先輩いないってのに油断しすぎなんだよ。転入生にはしばらく付き合わせて欲しいところだな」


 今日は俺が休みになったからちーちゃん先輩はフリーのはずなんだが、ここには来ていないらしい。

 彼女が抑止力なのはわかるが、拘束しているからといってその影響が出てしまうものなのか。

 

「それにしても芋虫の野郎遅えな。何やってんだ」

「待ってても来ないぜ」

「!?」


 ぼやく影二人の前に金色の髪が躍り出る。

 姉は既に隠密を解き、エフェクトを放出している。

 威圧する意味もあるのだろうが、化物に相対していた時より輝きが強い。

 彼らがかなり驚いているあたり、こちらには気づいてなかったらしい。

 初めてにして俺の隠密は完璧だったわけだ。

 あまり嬉しくない。

 隠密はやめていいようだが俺はどうしたらいいんだろうか。

 俺、多分あいつらより弱いと思うんだけどな。

 戦うの?

 俺も出たほうがいいのかな?

 邪魔にならない?

 おどおどと様子を伺っていたらアイコンタクトで早く来いと言われた。

 あっ、ハイ、わかりました。

 今行きます……。

 

「げっ、連星!」

「そっちのは、助っ人か?どこのどいつだ?」

「お前らが知る必要はない」


 姉がさり気なく位置を変え、通路を塞ぐ。

 二人は死体から現れつつある玉、戦利品を見て悩みながら、後ろを見やる。

 逃げるなら俺達の反対側であるそちらだろうな。

 

「おいおい、どこに行こうっていうんだ。少し遊ぼうぜ」


 だが、彼らの行き先を塞ぐように現れたのはもう一つの同じ顔。

 何処かに消えていた妹の方だ。

 

「芋虫は相変わらず近距離に弱かったぜ。お前らこそ油断しすぎじゃねーか?」


 妹が揶揄して笑う。

 彼女が掌を上げて見せると、その手は真っ赤に染まっていた。

 やっぱこいつらこえーわ。

 今は味方だからいいけど。

 

「……で、どうするんだ?俺達と遊ぶか?それとも大人しく死ぬか?」


 見逃すという選択肢はないらしい。

 しかし不意打ちはないとはいえ、2対2なら実力差はそんなに大きく見えないし普通に勝負になると思うんだけどなぁ。

 姉妹が怖いのはわかるけど、彼らは何を躊躇しているんだろうか。

 焦る様子の彼らの目線がこちらへと向けられる。

 ……え?

 俺?

 もしや数に入ってる?

 戦う予定はないんですが……。

 や、やばい。

 俺は急いでマントを脱ぎ捨てた。

 エフェクトを抑圧されたままじゃ確実にやられる!

 身体が一気に軽くなった感触。

 やはりというか、エフェクトが抑えられると身体能力が下がるようだ。

 

「相棒もやる気みたいだ。逃げ場はないぜ」


 そんなつもりはないんですけどぉ……。

 逃げ場がないのは俺も同じような気がしてきた。

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放課後ダンジョン攻略部 グランドカイザー @hinsi

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