コンティニューを、もう一回。

鱗青

コンティニューを、もう一回。

 コンティニューを、もう一回。


 蒲田の駅に続くこぎたないアーケードの、ひときわ薄汚れたゲーセンのガンシューティングゲーム。

 その筐体に本日3枚目の100円玉をご馳走している冴えないコアラ人の男子高生だ、俺は。

「なんだよまーだ2面かよ?ヘッタクソだなー桐生きりゅうおめーはw」

 と俺の隣から笑いながら覗き込むデカい物体。叶墨人かのうぼくと。俺と同じく半袖夏制服姿の象人のクラスメイト。

 体格は俺より縦横奥行き三倍ぐらい大きく、特に話が合うわけでもなく、帰り道が一緒なのが縁でつるんでるやつだ。でもこいつは…

「るっせぇな、好きなんだよこのゲーム」

「下手くそすぎて見てらんねぇ。俺も参戦!」

 と横からサポート乱入してくる。…上手いんだなこれが。あっという間に敵を蹴散らし、さりげなく回復アイテムとか自機アップアイテムとか譲ってくれる。

「くらぇオラぁぁぁ!」

 ボスとの対戦画面に没頭して叫びながら、肩とか肘とかぶつけてくる。そのたびに、肌が触れ合う。ざわりとした毛深い肌を感じる。首を寄せては息遣いを聞く。首っ玉を抱かれて太い筋肉と体温を知る。

 なんかこいつといると、胸の奥がむず痒くなるんだよな…あー、イライラする!

「あー…やられちまった。ゲームオーバーだ」

 ラスボスはやはり、強い。家族が多くて小遣いの少ないこいつは、もう負けたら潔く諦めて銃を筐体のホルスタに戻そうとする。

 いつもなら、俺もここで終わりだ。

 だけれど、今日は。なんだか、もっと…

 チャリン!

「…おっ?」

 チャリン、チャリン、チャリン!

「おおおっ!?」

「このまま終わらせるなんて中途半端だろ?」

 俺は銃を構えてニヒルに決めた(つもりだ)。

 追加コインで再開したゲーム。

 にひひ、と笑う相手は俺の尻をポンと叩く。

 またも胸の奥に疼くもの。それが何かわからない。分からないけど、もっと…

「いくぜっ!」

 画面の反射に俺とヤツの不敵な笑顔が並ぶ。

 コンティニューを、もう一回。

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コンティニューを、もう一回。 鱗青 @ringsei

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